82 ドラゴンを渡せ!!
竜王の視察が終り、ほっと一息ついた私たちだったが、またまた厄介な奴がやって来た。
その日、書類仕事をしていたところにチャールズが駆け込んで来た。
「少し厄介な方が来られていまして・・・なんでも、ドラゴンを渡せと・・・」
そんな変な人、断ればいいのに・・・
そんな思いが顔に出ていたのだろう、チャールズが続ける。
「それが身分が身分なだけに・・・」
「仕方ありません。会うだけ会いますよ」
私は面会をすることを決めた。
私に面会を求める者の中には、無茶な要求をしてくる者は多くいる。しかし、チャールズ以下のスタッフたちが、事前に追い返してくれているのだ。しかし、そんなチャールズたちでも、追い返せない相手がいる。竜王は武力でそうだったが、今回は違うようだ。
件の人物は、応接室に案内されているようで、私は応接室に向かった。
そこに居たのは、15~16歳くらいの身なりのいい少年だった。見たところ、かなり身分の高い人物だと思われる。とりあえず、粗相のないように挨拶をする。
「鋼鉄の聖女団の代表をしております、アオイです」
「ぼ、僕は・・・じゃなかった。我はライダース帝国第七王子のアベルである。早速だが、そちらで飼っているドラゴンを譲ってほしい。報酬は弾む。貴殿にも悪い話ではないと思うが?」
ライダース帝国・・・この大陸で最大勢力を誇る国、その王子だったか。チャールズが断れないはずだ。
しかし、いきなりルージュたちを渡せと言われても・・・
「えっと・・・ドラゴンはかなり知能が高く、私の一存では決めかねます」
「人語を話せるという噂は本当だったのだな。よし!!早速そのドラゴンと話をさせろ」
私は仕方なく、ルージュの元にアベル皇子を案内するのだった。
お昼寝をしているルージュを起こし、事情を説明する。
「会うだけは会ってやるが、妾の安眠を妨げるとは許せん。少しお仕置きをしてやらねばならんな」
「相手は皇子様だから、手荒なことはしちゃだめよ。上手く追い返せたら、お菓子をあげるからね」
「では、そうしてやろう」
早速ルージュをアベル皇子の元に連れて行く。
一応、子犬サイズから元の大きさに戻ってもらった。ルージュの大きさに尻もちをつきそうになるアベル皇子。それでも、なんとか踏みとどまってルージュに声を掛ける。
「お前が噂のドラゴンだな?僕に・・・じゃなかった、我について来い!!」
「嫌じゃ」
「何でだ?我はライダース帝国の皇子だぞ」
「妾は、妾よりも強い者にしか従わぬ。我に勝てれば、言うことを聞いてやろう」
「そ、それは・・・」
まあ、普通の人が勝てるわけないよね・・・
私がルージュに勝ったのだって、ルージュが自滅しただけだしね。
悩んだ挙句、アベル皇子が言った。
「もう一匹ドラゴンがいるんだろ?そいつに会わせろ」
「分かりました」
アベル皇子にはしばらく、広場で待機してもらうことにした。
★★★
しばらくして、岩竜であるフェルスが上空から広場に舞い降りた。
乗っているのは、ノーリたちサポーターズのメンバーだ。というのも、最近フェルスは町から山頂までの荷物運びや冒険者の運搬をしてもらっている。これはフェルスのことをよく知る竜王が提案したことで、飛行能力の向上が理由だ。フェルス本人も竜王や母親に煽てられて、その気になっているしね。
「ふう・・・今日もよく頑張ったよ。早くお風呂に入って、美味しい物を食べたいな」
「では、これから温泉に行くッス。その後は最近できた、焼き肉レストランに行くッス」
「そうしよう。デザートも食べたいな」
「もちろんッス」
そんな会話をしながら、フェルスは子犬サイズになり、ノーリの肩に飛び乗った。
私たちに気付いたノーリが声を掛けてくる。
「お疲れ様ッス、聖女様。今日も異常はなかったッス」
「ご苦労様、ノーリ。それにフェルスも頑張っているわね」
「そうだね。立派なドラゴンになるには必要なことだからね」
そんな会話をしているところにアベル皇子が叫ぶ。
「おい!!僕を無視するな!!僕が誰か知ってのことか?」
「知らないッス」
「僕も知らないよ」
それはそうだろう。というか、私を含めてこの町でアベル皇子のことを知っている人なんていないだろう。
「まあいい・・・とにかくそのドラゴンを渡せ!!僕のドラゴンになれ」
「嫌だよ。これから、温泉に行って、焼き肉を食べるんだから」
「僕と一緒に来れば、いっぱい焼き肉を食べられるぞ」
「本当に?でもいいや。今日は新しいレストランの焼き肉を食べるからね」
当然のことながら、あっさりとフェルスにも断られていた。
「アベル皇子、ドラゴンの意思を尊重してください」
「・・・くそ!!どうして上手くいかないんだ・・・」
それはそうだろう。いきなり来て、「ドラゴンを渡せ」だなんて、アンタが皇子じゃなかったら、もう叩き出されているよ。
そんなツッコミを入れようと思うくらい、アベル皇子には常識がない。
これから、どうしようかと悩んでいたところ、ミウとダクラが駆け込んで来た。
「アオイ、大変だニャ!!ライダース帝国の騎兵隊が100騎程やって来たニャ」
「皆殺しにしていいなら何とかなるが、戦争に発展するかもしれん。それでアオイに知らせに来たんだ」
なぜこうも、厄介事が続くのだろうか?
そんなことを思っていたら、アベル皇子が声を上げた。
「あっ!!お前たちは、ノーコン魔導士に目立ちたがりの弓使いじゃないか!?」
「えっ!?ポンコツ皇子が何でここに?」
「本当だ。出涸らし皇子だ・・・」
どういう訳か、ミウとダクラはアベル皇子と面識があるようだった。
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