80 視察
あれからエルフの女王に詳しく聞いた。
独り言という条件で、教えてくれたのだが・・・
「今の時点で、すべてを達成している必要はない。ある程度達成しており、今後、達成の見込みがあると判断されれば、今回の視察は問題ないであろう。土の精霊王経由で我に依頼があったのも、ルージュとフェルスの修行が全く進んでいないことを心配してのことだ」
「そうなんですね・・・」
「あんな我儘ドラゴンを指導するなど、我でもできんからな。聖女殿、くれぐれもよろしく頼むぞ」
「は、はい・・・」
まずは、修行の達成項目を確認していく。
「ここで仕事をしている体にすれば、何とか言い訳ができるし・・・問題は人化だね・・・」
そういえば、ミウの村に居たドラゴンも人化がどうのと言っていた気がする。
とりあえず、ルージュに確認する。
「ルージュは、人化できるの?難しいんでしょ?」
「妾を馬鹿にしておるのか?そんなのできるに決まっておるわ」
「そ、そうなの?だったらやってみてよ」
ルージュの体が光り輝いた。
そして、赤髪の幼女が姿を現した。
「どうじゃ?」
「凄いよ。だったらなぜ、普段はその恰好をしないのよ?」
「この姿では、あまり食べられんし、酒も飲めんからな。前に一度、この姿で町に出たら、迷子と勘違いされたのじゃ。それ以来、ドラゴンの姿でいることが多いのじゃ。まあ、偶にお菓子をもらえるから、いい面はあるのじゃがな」
本当にコイツは食いしん坊だ。
となると、後は・・・
「ついでに聞くけど、竜王になるための修行は進んでいるの?」
「そういえば、そんなこともあったのう。まあ、妾以外に竜王になる者はおらんじゃろうから、どうとでもなるわ」
「そ、そうなんだね・・・」
修行項目には、ある程度の一般常識を身に付けるというのがあったけど、ドラゴンの常識なんて、私は知らないしね・・・
「問題はフェルスじゃ。人化もできんようじゃし、仕事もしておらん。そっちを心配したほうがいいぞ」
「というか、私はフェルスにも責任を持たないといけないの?」
「それは分からん。じゃが、そう思われても仕方ないかもしれんな。どう見ても、アオイにテイムされているようにしか見えん」
それはそうだ。
とにかく、視察で文句を言われないような状態にしないと・・・
そんなことを思っていたら、チャールズが駆け込んで来た。
「アオイ殿、厄介な奴らが面会を求めてきています。名前も名乗らず、アオイ殿に面会させろとの一点張りで、手練れの冒険者に追い返すように指示したのですが、返り討ちに遭ってしまいました」
「エルフのエレノア王女やカリエスさんでも、駄目なんですか?」
「そうです。全く歯が立ちませんでした」
どうして、次から次へと問題が起こるんだ?
「仕方ありません。会います。これ以上被害が出てもいけませんしね」
★★★
チャールズに指示し、しばらくして、赤色の髪と灰色の髪をした女性二人組が現れた。
とりあえず、話だけでもと思っていたところ、ルージュが叫ぶ。
「母上!!それにグラウ殿!!」
「ルージュ、元気そうですね。それで、そちらが噂の聖女殿ですか?」
「そうなのじゃ。こちらのアオイが妾の竜騎士なのじゃ」
私は、すぐに挨拶をした。
「初めまして、アオイと申します」
「我は竜王ローサ、ルージュの母です」
ルージュのお母さんって、竜王だったの!?
そんなことは一言も言っていなかった気がするけど・・・
「アオイよ。こちらのグラウ殿は、フェルスの母君なのじゃ」
こっちがフェルスの母親か・・・視察というよりは、心配で見に来たのかもしれない。
竜王が言う。
「ルージュ、早速成果を確認させてもらいますよ。いいですね?」
「もちろんなのじゃ」
それからは、ルージュが人化をして見せたり、かなり盛った話を始めた。
「それは凄いですね。大陸のほとんどの国を従えたと?」
「そうなのじゃ。多くの国の王たちが、ここにやって来て、恭順の意を示しているのじゃ」
友好関係は築いているけど、私たちが、世界各国を従えているわけではない。
「分かりました。修行は順調と認めましょう」
どうやら、ルージュは合格したようだった。
すると、灰色の髪をしたフェルスの母親が言った。
「ところで、フェルスはどこに居るのですか?」
「そ、それは・・・」
フェルスは、山頂の施設を気に入ってしまい、大半をそこでゴロゴロして過ごしている。
流石にこれは心象が悪いと思い、咄嗟に嘘を吐いてしまった。
「フェルスはお仕事をしてもらっていて、ここにはいません」
フェルスの母親は、驚いたように言う。
「あの子が仕事を?そんなことが・・・分かりました。すぐに見に行きましょう」
外に出て、ルージュと母親たちはドラゴンの姿に戻った。
私はルージュの背中に乗って、山頂を目指した。途中、ルージュが怯えたように言った。
「母上は、嘘が大嫌いなのじゃ・・・もし嘘がバレたら大変なことになる。何とか取り繕え」
そんなこと言われても・・・というか、ルージュだって盛って話をしてたじゃないか!!
まあ、そんなことは置いておいて、私は何とか誤魔化そうと、必死で考えるのだった。
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