77 ドラゴン教育
オープン前の温泉施設にやって来た。
フェルスが言う。
「ここの人たちは、ドラゴンに驚かないんだね?」
「そうね、ルージュがいるからね。もう一人、増えたところで、関係ないからね」
「それにみんな、優しいね。『ようこそ』だってさ・・・」
それはそうだ。
ここは温泉施設で、みんな接客スタッフだから、余程変な客でない限りは、基本的に愛想がいい。
「聖女様、話は聞いております。本番と思い、精一杯もてなしをさせていただきます」
館長が言うとおり、最高のもてなしを受けた。
温泉もそうだが、併設するレストランの料理も美味しかった。
「妾は大満足じゃ。フェルス、よかったであろう?」
「そうだね。僕も満足だよ」
「しばらく、妾たちと暮らしてはどうじゃろうか?」
「そうするよ」
こうして、シュルト山山頂の調査依頼は大成功の内に幕を閉じたのだった。
★★★
フェルスは、びっくりするほどの怠け者だった。
ルージュでさえ、簡単な荷物運びや私たちの移動の手伝いをしてくれているのに、この馬鹿ドラゴンは、全く働こうとしない。
流石のルージュも怒るくらいだ。
「フェルスよ!!いつまで、そうしているのじゃ!?妾でさえ、3日に1度は働いておるというのに・・・」
「僕は人と話すのが苦手だし、飛ぶのもあまり上手くはない。僕にやれる仕事なんてないよ」
「これが妾の宿命のライバルとは、なんと嘆かわしい・・・」
ルージュに聞いたところ、次期竜王になるため、若いドラゴンが人間界に修行に来ているとのことで、修行の進捗状況を定期報告しないといけないらしい。
「妾は、ドラゴンライダーを見付け、人との交流もできているので問題はないが、フェルスは、お叱りを受けるやもしれん。全く成果を上げていないからな」
「そうか・・・何とかしてあげたいけどね・・・」
そんな時、私たちに依頼が舞い込んだ。
ボンバーロックの駆除だ。依頼を持って来たマーサさんが言う。
「相変わらず、ボンバーロックが多くてね。駆除を頼みたいんだ」
「分かりました。いいですよ」
マーサさんが言うには、私たちを含め、多くの冒険者が、結構な数のボンバーロックを討伐したが、一向に減らないらしい。
私たちも、定期的に駆除依頼を受けているが、それでもあまり効果はないようだ。
「おかしいニャ。結構な数を駆除したけど、全く減らないニャ」
「ミウが言うのも、よく分かる。もっと減っても、いいはずだ」
ミウもダクラも、ボンバーロックの駆除依頼には、うんざりしているようだった。
そんなとき、昼寝から起きて来たフェルスが言った。
「減らないのは、当たり前だよ。ボンバーロックは、シュルト山に住む、土の精霊王が定期的に撒いているからね。特に人間や魔物に来てほしくない所に多く撒いているんだ」
場が騒然となった。
「何で、そんなことを知っているの?」
「それは、土の精霊王からボンバーロックを貰ったからさ。僕の周りにいたボンバーロックは、全部土の精霊王に貰ったものなんだ。まあ、僕とアオイで全部壊しちゃったけど・・・」
私たちは唖然としてしまった。
落ち着きを取り戻したミウが言う。
「それって、精霊王に頼まないと、ボンバーロックは駆除できないってことかニャ?」
「そうだね」
「どうやったら、精霊王に会えるのニャ?」
「山頂で寝ていたら、偶に会うんだけど、どこにいるかは分からないよ」
それって、確かな情報なのだろうか?
ルージュが言う。
「フェルスは、この通り怠け者ではあるが、嘘を吐くようなドラゴンではないのじゃ。信じていいと思うぞ」
★★★
早速、対策会議が始まった。
当然だが、誰も精霊王に会う方法なんて知らない。それでしばらく、フェルスと一緒に精霊王に会えるまで、山頂に滞在するということになった。問題は、誰が一緒に滞在するかという話だ。
ミウが言う。
「ボンバーロックに囲まれた中で、生活するなんて、まっぴらごめんだニャ」
「我もだ。適任者はアオイだろうが、アオイもアオイで仕事がある。いつ会えるとも分からない状況で、山頂に張り付くなんて、現実的ではない」
ノーリが言う。
「それじゃあ、冒険者が交代で滞在するのはどうッスか?2~3日なら何とか、耐えられるッス」
結局、ノーリの案が採用されることになった。
それから2週間、フェルスは山頂に戻り、代わりに冒険者が交代でフェルスに張り付く。
私はというと、偶にルージュに乗って、冒険者の食料や必要資材なんかを搬送している。まあ、フェルスの様子見を兼ねているけどね。
山頂に必要物資を持って行ったときにフェルスが言った。
「仕事って楽しいね。ゆっくり寝るだけで、美味しいものを食べさせてもらえるなんてね」
かなり勘違いしている。
「ルージュ、これって教育に悪いんじゃないの?」
「仕方がない。仕事は仕事じゃからな」
まあ、本人たちがそれでいいなら、いいのだろう。
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