74 最強のドラゴン
シュルト山に戻った私たちは、忙しい日々を過ごしている。
各地を周って、依頼をこなしたり、聖女としての活動を行っている。少し前まで、ドワーフの国でオリハルコンを作っていた。まあ、今のところ私にしかできない仕事だからね。
そんな私たちの元に新たな依頼が舞い込んだ。
「シュルト山の調査ですか?」
「そうなんだよ。一般の冒険者では、ちょっと無理だし、高ランク冒険者に依頼すると、採算が合わないからね」
依頼を持って来たマーサさんに詳しい事情を聞くと、シュルト山の山頂付近は、魔素が多く世界樹が育つ環境だという。世界樹が育てば、これまでよりも安価にエリクサーが作れる。それで、シュルト山の山頂の調査依頼を出したそうだ。
「大した魔物はいないんだが、ボンバーロックが大量にいるんだ。それにボンバーロックの上位種のビッグボンバーロックも多数確認されている」
ビッグボンバーロック?
「少し大きなボンバーロックと思ってもらったらいい。こちらから攻撃しなければ危険はないけど、ボンバーロックの比じゃないくらいの爆発力を持っているんだよ。ノーリたちが試しに爆発させてみたけど、最新式の楯と鎧がボロボロになっちまってね。山頂まで行くとなると、怪我人はおろか、下手したら死人も出るよ」
「それは大変ですね」
「世界樹の話がなければ、山頂付近は立入禁止にしてもいいくらいだよ。高ランクの者たちだと、1体や2体ならどうということはないけど、大量にいるとなると、話が違ってくる。ボンバーロックの爆発に耐えられる魔法障壁を張れる奴なんて、数えるほどだしね」
そういう事情なら、私にしかできない依頼だろう。
「分かりました。お受けしますよ」
★★★
3日後、私たちはシュルト山の山頂を目指していた。
メンバーはいつものミウとダクラに加えて、ノーリたちサポーターズ、それとルージュだ。ノーリたちは志願して同行したのだが、ルージュはというと別の目的があった。
「今日のお弁当は何であろうな?楽しみで仕方がないのじゃ」
お弁当、目当てだった
「そんなに気になるなら、確認しようか?」
「それは駄目じゃ。食べるまで、何であろうかと、ワクワクすることも大事なことなのじゃ」
そうは言っていたけど、10分に一度はお弁当の話をするので、私たちもお腹が空いてきた。
ミウが言う。
「なんかお腹が空いてきたニャ。早めにお弁当を食べるニャ」
「そうしよう。私も限界だったんだよ」
予定よりも1時間も早く、お弁当を食べることになってしまった。
お弁当は、クランハウスの料理人が腕によりをかけて作ってくれたもので、本当に美味しかった。ルージュも大満足だった。
「なかなかのお弁当であった。ということで、妾は寝る。何かあったら、起こしてくれ」
本当に勝手なものだ。
子犬サイズだけど、それなりに体重はあるから、結構な荷物になる。だから、交替でルージュを運ぶことになってしまった。
山頂まで、後少しの所に差し掛かったところ、ボンバーロックが異常に増えてきた。
それにビッグボンバーロックもゴロゴロいる。私以外は、後方で待機して、遠距離攻撃を加えるいつものパータンで何とか進んで行く。ビッグボンバーロックの自爆攻撃は強力だけど、私には全く効かなかった。
ルージュはというと、仕切りに大きな爆発音が鳴り響いていたけど、全く起きなかった。
順調といえば、順調に進んで行く。
そんな時、ルージュが突然、起きて震え出した。
「こ、これはヤバいのじゃ!!すぐに逃げるのじゃ。全員、死ぬことになるぞ」
全く意味が分からない。
「どうしたのよ、ルージュ?貴方が怯えるほどの魔物がいるの?」
「魔物ではない。妾が太刀打ちできんくらいのドラゴンがおるのじゃ。この気配は忘れはせん。妾を完膚なきまでに叩きのめしたのじゃからな・・・」
かなりの戦闘力を持つ、ルージュを叩きのめしたドラゴンって、一体どんな奴なんだ?
「それはヤバいニャ。ルージュをボコボコにするドラゴンなんて、危険すぎるニャ」
「一度、帰還したほうがいいかもしれんな」
それはそうだけど・・・
「でも、そんな存在がここにいるってことは、シュルト山の施設すべてが使えなくなるかもしれないんじゃないの?そうなると・・・」
大損害だ。
シュルト山の温泉やダンジョン、それに付随する施設が使えなくなってしまう。
「ところで、どんなドラゴンなの?」
「奴は、史上最強の岩竜フェルスじゃ。妾のブレスはおろか、すべての攻撃が効かないのじゃ。妾の同世代のドラゴンでは、知らぬ者はおらん存在じゃ。幸い、奴は素早くは動けん。何かあれば逃げることくらいは、できるのじゃが・・・」
私は少し考えた。
「分かったわ。一度接触してみましょう。それで危険なドラゴンなら、すぐに逃げましょう。ルージュみたいに話ができるかもしれないしね」
「話はできるが、奴はほとんど喋らんと思うぞ。今度ばかりは、妾も力になれんじゃろうな」
私たちは、体制を整え、山頂に向かうことにした。
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