71 異端審問 2
レイア山にある総本山は、総本山というだけあって、かなり立派な建物が並んでいる。その中で、一際大きな建物が大聖堂らしい。シュルト山にある大聖堂もこの大聖堂を模倣したようだった。
私は、大聖堂近くの広場に案内された。ここで異端審問が行われるらしい。
しばらくして、教会のお偉方が登場する。その中にはクルミもいた。私に気付いたようで、申し訳なさそうな顔をしている。その中で、一番豪華な服を着ているのが、教皇だった。
「自称聖女のアオイ、貴殿には数々の容疑が掛かっておる。神を冒涜する嘘の教えを広め、多くの信者を洗脳した罪。また、怪しげな踊りを信者に躍らせ、悪魔召喚を試みている罪。相違ないか?」
怪しげな踊りで、悪魔召喚?
多分、太極拳のことだろう。
「全く身に覚えがありません」
「あくまでも白を切るのだな。それでは、異端審問を始める。レオニダス枢機卿、後は任せた」
教皇に呼ばれて出て来たのが、壮年の男だった。
この男がレオニダス枢機卿で、クルミの情報によると、教会の裏の仕事を統括する立場にあり、権力だけでいえば、現教皇よりも上の人物らしい。
このレオニダス枢機卿が、今回の異端審問を提案した者で、黒幕なのだ。
「異端審問を始める。神の名を騙る不届き者め!!今この場で、罪を告白するのなら、寛大な処遇を約束する。我らが信仰するレイア様は、慈悲深いからな」
神の名を騙っているのは、貴方だけどね。
ここまで来て、罪を告白したところで、結果は同じだ。私は堂々と言ってやった。
「何も悪い事はしてませんよ」
「後悔することになるぞ。では石の裁きを始めよ!!」
レオニダス枢機卿は、部下に指示して、早速準備を始めさせた。
説明を聞いたところ、三角形に削られた木材の上に正座させられ、膝の上に石をどんどんと乗せられるようだ。歴史の教科書で見た気がする。
私は木材の上に正座した時点で、鋼鉄化のスキルを発動させた。
そこから、どんどんと膝の上に石が乗せられるが、全く痛くない。そうとは知らないレオニダス枢機卿が言う。
「さあ!!早く、自分の罪を告白するのだ!!」
私はこれを無視した。
30分程、そんなことをしていたのだが、業を煮やしたレオニダス枢機卿が中止を宣言した。
「これで私の無実は証明されましたよね?」
「ま、まだだ!!次は水の裁きだ」
次は、水槽に重りを付けられて沈められた。
ここでも、スキルのお蔭で何も苦しくない。何度か引き上げられて、「罪を告白しろ」と言われたが、無視してやった。
「もうよい!!火の裁きの準備を!!」
私は、磔にされ、下から火で焙られた。
これもなんてことはない。ルージュのファイヤーブレスに比べれば、焚火レベルだ。
レオニダス枢機卿の部下が一生懸命に薪をくべて、火力を上げているが、私には効かない。
「おのれ!!これでも駄目か・・・だったらギロチンだ!!」
ギロチンって!?
もう裁きとか、関係ないじゃん!!
私はギロチン台にセットされた。上から巨大な刃が首に落ちて来た。
カキーン!!
ギロチンの刃は、粉砕した。
「クソ!!これでも駄目か・・・だったら、絞首刑だ!!」
もうこの頃になると、次々に処刑方法を試されている感じになった。
レオニダス枢機卿は、異端審問という体裁を忘れているようだった。考え付く限りの処刑方法が試されたが、すべて跳ねのけた。
「次は毒だ!!毒を持ってこい!!」
毒か・・・一応、毒を無毒化するポーションを飲んでいるけど、少し不安だ。
そんな時、クルミが叫んだ。
「もういいではありませんか、レオニダス枢機卿!?アオイさんの無実は証明されました。そうですよね?教皇様?」
突然、話を振られた教皇は、慌てふためいていた。
「そ、そうだな・・・どうしようか・・・」
レオニダス枢機卿が叫ぶ。
「何を言う!!この者は異端に決まっている。ここで、真の裁きを与えねば・・・」
「ここまでの異端審問を見て、どうもおかしいと思いました。初めから結論ありきで、アオイさんを処刑しようとしているとしか思えません。普通に考えれば、どんな善人でも、こんなことをされれば、命を落とすはずです」
クルミは、異端審問の本当の目的を知っている。
知った上で、異端審問に異を唱えた。これには、少し嬉しくなった。私を守りたいという言葉に嘘はなかったようだ。
私の同行者だけでなく、教会の関係者からも声が上がる。
私をここに連れて来た使者が言う。
「彼女は素晴らしい人です。絶対に罪は犯していません」
駄目な門番が言う。
「こんな私にも、この方は優しい言葉を掛けてくれました!!」
そして、見ず知らずの教会関係者からも・・・
「彼女は無実です」
「そうです。ここまで耐えたのですから、神の加護を持っています」
「彼女が運営する治療施設は、かなりの水準です。私の腰痛も治りました!!」
レオニダス枢機卿が取り乱す。
「うるさい、うるさい、うるさい!!さっさと毒を飲め!!」
クルミが冷たい声で言った。
「だったらまず、レオニダス枢機卿。貴方が飲んではどうですか?品行方正な貴方なら、その毒を飲んでも、無事ですよね?」
「そ、それは・・・」
「あれ?飲めないんですか?もしかして、人には言えない罪を犯しているんですか?」
レオニダス枢機卿は言葉に窮している。
それはそうだ。元々誰にでも効く毒を用意しているんだからね。ここで飲まなければ、自分が悪い事をしたと告白しているようなものだ。
クルミが教皇に小声で言う。
「教皇様、レオニダス枢機卿は教皇様の命を狙っているという情報があります。ここは決断の時です。今なら、アオイさんに恩が売れます」
「なんと・・・それなら・・・」
教皇が私の前に歩み出た。
「アオイ殿!!貴殿は正に神の加護を受けた聖女だ。教皇として、貴殿の活動を全面的に支援する」
これには大歓声が上がった。
レオニダス枢機卿がなおも叫ぶ。
「騙されてはいけません。この者こそが・・・」
「黙れ!!レオニダス枢機卿。その毒を飲めないのであれば、枢機卿を解任する。好きに選べ」
レオニダス枢機卿は膝から崩れ落ちた。
教皇が宣言する。
「これにて、異端審問は終了とする。アオイ殿は無実であった。数々の試練を耐えきったアオイ殿をレイア教会は、聖女と認める」
再び、大歓声が上がった。
空気の読めないアンさんを筆頭にした記者は、教皇やレオニダス枢機卿を取り囲んでいた。
「レオニダス枢機卿!!どうして毒を飲まなかったのですか?悪い事をしているのですか?」
「・・・・・・」
「教皇、なぜ異端審問に踏み切ったのですか?」
「こちらのレオニダス枢機卿がどうしてもと言い出して・・・仕方なく・・・我は反対していたのだが・・・」
教皇は、レオニダス枢機卿に責任をなすりつけるようだった。
しばらくして、クルミが私に言ってきた。
「アオイさんって、本当に凄いですね。びっくりしました」
「ありがとう。貴方も頑張ったわね」
「ちょっと、勇気を出しました。アオイさんが追放された時、何もできなかった自分を情けなく思っていたんですよ。それが心残りで・・・」
「気にしないで、これからはお互い聖女として、仲良くしていきましょうよ」
「はい」
クルミとも和解ができたし、まあ、これはこれでよかったんだろう。
これからレイア教会を立て直すクルミは苦労するだろうけどね。
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