70 異端審問
クルミやラファエルの頑張りも虚しく、私の異端審問は決定したようだ。
今日めでたく、その書状が届いた。数日後には、使者が来て、レイア教会の総本山に連れて行かれるようだ。
ミウとダクラはというと、「そんなものは無視しろ」と言ってくれるのだが、ルージュはあまり分かっていないようだった。
「また旨い物が食べれるのじゃな?」
「でも、今回はどうか分からないよ」
「どうしてじゃ?」
「私たちで、食べる物を決められないかもしれないしね」
「それは困ったのう・・・何か良い案はないかのう・・・」
ルージュだけは旅行気分なのだ。
「そうじゃ!!こちらから、料理人を連れて行けばいいのじゃ!!そして、現地で妾が食材となる獲物を狩る。となると、あのコボルトの小僧も連れて行こう。キノコも旨いからのう。こうしてはおれん、早速、人員を集めて来る」
ルージュは子犬サイズのまま、飛んで行ってしまった。
「まあ、アオイなら何とかなると思うけど、ルージュは全く緊張感がないニャ」
「それはそうと、ルージュが声を掛けたら、同行者が増えすぎないか?私はそれが心配だ」
ダクラの予想は当たることになる。
私を連行する使者が驚くほどの規模になった。まず冒険者集団だ。これは希望者が多すぎたので、模擬戦を行ったそうだ。それでもかなりの精鋭が随行する。カリエスを筆頭に戦士隊、エルフ隊、魔導士隊、斥候隊が名を連ね、ルージュの強い推薦により、ノーリたちサポーターズの随行も決まった。
また、記者クラブは当然の参加で、今回はアンさんが無理やり参加することになった。そして、ラファエルを筆頭にする宗教関係者も多く同行することになった。
使者の一人が言う。
「こ、これは一体!?」
「お気になさらずに。勝手について来るだけですから」
今回、私は使者と行動を共にする。
なので、馬車は別だ。いつもの馬車と違って、非常に乗り心地が悪い。私は堪えかねて、使者に言った。
「あっちの馬車に移動しませんか?乗り心地が全然違いますよ」
「そ、それは・・・とりあえず、確認する」
確認の結果、あまりの乗り心地の良さに使者は、馬車を変更することを許可してくれた。
また、食事も一流料理人が新鮮な素材を使って、最高の料理を作るので、使者のほうから「我々にも提供してほしい」という始末だった。
なので、快適な旅が楽しめた。ルージュも満足そうだ。
「大勢で、ワイワイしながら食事を楽しむのも、いいものじゃな。できれば温泉に浸かりたいのじゃ」
それは私も思った。
「だったら、こんなのはどう?」
私が提案したのは、ミウが土魔法で湯船を作り、そこに水魔法で水を入れる。それをルージュがファイヤーブレスでお湯にするといったものだ。
「いい案だニャ。早速やってみるニャ」
「男湯と女湯を分けないといけないな」
「よし、早速やるのじゃ」
即席だが、かなり立派なお風呂ができた。
使者が言う。
「我々も入ってよろしいので?」
「どうぞ、交替で入ってください」
楽しい旅を続けていたのだが、予想外のことも起きた。
どんどんと同行者が膨れ上がってしまった。物見遊山の旅行者や、どう見てもどこかの貴族や王族が追従するようになった。
様子を見て来たミウとダクラが言う。
「多くは商人だニャ。商売になると思ってついて来ているニャ」
「貴族たちは、物珍しさでついて来ている。異端審問を見物しようと思っているようだ」
みんな呑気なもんだ。
レイア山まで残りわずかのところで、神妙な顔をした使者がやって来た。
「貴方は、すぐにここから逃げたほうがいい」
「どういうことですか?」
「実は、異端審問なんて、審問とは名ばかりの処刑なのだ。貴方のような素晴らしい人が、死ぬことはない。今なら間に合う。すぐに逃げるんだ」
「そうすると、貴方たちが罰を受けるんじゃないんですか?」
「それはそうだが、我々は貴方を死なせたくないんだ」
ここまで、使者たちと接してみて、結構、真面目でいい人たちだと思っていた。
彼らは、私を極悪人だと聞かされて来たのだが、どうも違うと気付いたようだった。なので、良心の呵責に苛まれて、そんな行動に出たようだ。
「お気持ちは有難いのですが、私は逃げませんよ。それに神の加護がありますから、きっと大丈夫ですよ」
「なんと尊い・・・貴方こそ、真の聖女だ」
ちょっと勘違いされているみたいだけど、説明すると長くなるので、適当に「神の加護」といつも通り言った。
そしてとうとう、レイア山に到着した。
使者と門番とが押し問答をしている。内容を聞く限り、同行者を入れる、入れないでもめているようだった。
「彼らは信者だ。異端審問を見届ける権利がある」
「しかし、この人数は・・・」
「そこを何とか頼む」
使者さんの気持ちは分かるけど、多分無理だろうな。
こんな集団を全員入れるわけにはいかないだろうし・・・
そんなことを思っていたら、門番に大声を上げる者がいた。
「我はスメール王国第三王子のスリノフである。あれだけ寄進してやったのに、我を通さんというのか!?」
「そ、それは滅相もない。どうぞお通りください」
あの門番は駄目だ。絶対突っぱねないといけないのに・・・
せめて、上司に確認するとかしないとね。
案の定、「俺は貴族だ」とか「我が商会を敵に回すのか?」とかいう輩が次々に通っていく。最後のほうは、「うるさい、ぶち殺すぞ!!」と怒鳴るだけの者も通してしまった。こうなるともう駄目だ。全員が素通りしていく。
涙目になっている門番が可哀想になり、声を掛けた。
「失敗は誰にでもあります。気にせずに頑張ってください」
色々なトラブルがあったけど、無事にレイア山に到着した。いよいよ異端審問が始まる。
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