7 追放
私は明日からの騎士団の遠征に帯同するため、その準備に追われていた。最近は騎士団員の信頼も勝ち取り、騎士団長のカリエスの秘書のようなこともしている。今回の遠征は、草原で大量発生したグラスウルフの討伐任務だ。行程表を確認しながら、必要資材のチェックをしていく。
そんな時、カリエスから呼び出しがあった。
「私の同行が中止ですか!?」
「そうだ、3日後に式典で勇者たちをお披露目するから、アオイ殿も出席するようにとのことだ。こちらとしては、遠征について来てほしいのだが・・・」
「命令なら仕方ないですよ。それにしても、私は勇者をクビになっているんですけどね」
「その辺の事情は分からない。困ったことがあれば、待機組に言ってくれ。早急に対処するからな」
そして3日後、指示されていた時間となったので、謁見の間に向かう。
おかしなことに服装は、騎士団員の正装ではなく、こちらの世界に転移して来た時に着ていたパンツスーツを指定された。この時は、こちらの風習か何かだと思っていた。
謁見の間に入ると式典は終わっていた。
慌てて、近くの従者に尋ねる。私が謁見の間に現れたことを知ったエルザ王女が言った。
「式典は終わりましたが、ここからは裁判を行います」
裁判?誰の?
いきなり私は、護衛の近衛騎士数人に拘束された。意味が分からない。
「元勇者アオイ、貴方の罪を断罪します。騎士団長カリエスを誑かし、公金を横領した・・・」
身に覚えのない罪状が読み上げられる。
ざっくり言うと、私が騎士団の公金を横領したり、物品を横流ししたとのことだった。証拠資料を突き付けられ、確認させられる。
これは!?
先日、倉庫の在庫処分を指示され、業者に引き渡した確認書や遠征費用の請求書を改ざんした書類が証拠資料のようだった。ここまでくると分かる。私は嵌められたんだ。
「証拠は揃っています。普通なら極刑もあり得るところですが、心優しい勇者様方の嘆願もあり、素直に罪を認めるのなら、特例措置として追放処分と致します」
高校生たちが言う。
「泥棒するなんて、最低だな」
「これからは、泥棒オバさんね」
「命が助かっただけでも、有難く思ったほうがいい」
「えっと・・・反省してください」
もう何を言っても無駄だろう。最初から私が追放されることは決まっていたようだ。仕方なく、受け入れる。
「分かりました。ここから出て行きます」
すぐに私は王城から着の身着のまま放り出された。
救いは、式典の後に必要資材を買い出しに行こうと思って、金貨5枚(日本円で約5万円)を持っていたことだ。とりあえず、この金貨5枚で必要な物を買って、遠くに行こう。
あれ?これって金貨5枚の横領だよね?
まあ、仕方ないか・・・
必要最低限の物資を購入した私は、ザマーズ王国の東隣にあるマダマシーズ王国を目指すことにした。理由は、この国に居場所がないと思ったからだ。それに王都から一番近い隣国だしね。私は乗り合い馬車の発着場に向かった。流石に歩いては無理だから、乗り合い馬車を利用することにした。
そんなとき、私はガラの悪そうな男たちに声を掛けられた。
「アオイだな?ちょっと来てもらおうか」
何で私の名前を知っているのだろうか?
落ち着いて考えてみると、ある結論に達する。エルザ王女は私を始末することを考えていたのだ。私に転移したときのパンツスーツを着させたのも、ゴロツキたちに一目で私だと分かるようにしたのだろう。
「ひ、人違いじゃないですかねえ・・・私はこれで・・・」
隙を見て私は走り出した。
「待て、コラ!!」
「おい!!絶対捕まえろよ」
ゴロツキたちは追って来る。私は必死で逃げ続けた。
「クソ!!意外に速いぞ・・・」
こんなところで、基礎訓練の成果が出るなんてね・・・
逃げ切れると思っていたが、甘かった。
ソール川に掛かる橋の上で、挟み撃ちにされた。
これは不味い・・・
こなったら一か八か、やるしかない。
私は意を決してソール川に飛び込んだ。
飛び込むときにスキルで鋼鉄化した。入水の衝撃を受けないが、川底まで一直線だった。しばらくして、川底に着いた。
でもこの後どうしたらいいんだ?
このまま数時間、ここでじっとしていればゴロツキたちはいなくなるだろう。鋼鉄化していれば、息をしなくても大丈夫なんだよね。これは、お風呂場で偶然発見したことだ。お風呂場で滑って転んだ時に自動で鋼鉄化してしまい、そのまま湯船に落ちた。その時発見したことが、役に立った。
だけど、ゴロツキたちがいなくなった後に鋼鉄化を解除したら、今度は溺れてしまう。
そのとき、私は思いついた。「重量調整」のスキルを使えばいいんじゃないの?
「重量調整」で体重を軽くして、浮き上がればいいことに気付く。
実際にやってみると、少し浮き上がることができた。後は・・・
私が目指すマダマシーズ王国は、このソール川の下流にある。このまま流されて行けば到着するだろう。それに鋼鉄化している間は、お腹も空かないしね。
私は1時間程、川底で待機した後、浮かび上がり、川の流れに身を任せることにした。
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次回から第一章となります。




