67 幕間 聖女の憂鬱 4
投稿の順番を入れ替えてます。ご迷惑をお掛けしました。
~聖女クルミ視点~
その日私は、教皇以下の幹部全員が出席する緊急の対策会議に出席することになった。
全員が集められている時点で、かなりの重要案件なのだろう。最近分かったのだけど、どんな組織にも、「全員で決めました」という建て前が必要なのだ。だから、慈善活動しかしていない私も、聖女という立場から、出席を求められたのだと思う。
しかし、私が発言することはないだろう。ただ、時間が過ぎるまで座っていればいい。
そんなことを思いながら臨んだ会議だが、予想外の案件だった。
レオニダス枢機卿が会議を仕切る。
「お手元の資料のとおり、危険な教団が発足しました。急速に信者を増やし、小国家群の各国をまとめ上げています」
アオイさんが立ち上げた宗教団体が、急激に勢力を拡大しているとの内容だった。
私としては、放っておけばいいと思うのだけど、そうはいかないようだ。
「更に厄介なことに我が教会の収入源でもある欠損部位の治療も行っているのです。そのため、多くの貴族や王族が治療を断ってきています。資料のとおり、破格の安さなのです」
資料を確認する。私は驚きで叫びそうになった。
私の診療報酬って、こんなに高いの!?
資料によると私の診療報酬は、白金貨100枚、日本円で約1億円だった。更に相手を見て、吊り上げられるなら、どんどんと診療報酬を吊り上げるようだった。そりゃあ、無くなった腕が戻って来るなら、いくら払ってもいいという人はいるだろうけど・・・
しかし、アオイさんの宗教団体は、一律金貨100枚、日本円で約100万円だった。
こちらは、場合によっては無償で提供する場合もあるようだ。
そりゃあ・・・こっちに患者さんを取られても仕方がないと思う。
ここで教皇がレオニダス枢機卿に質問する。
「なぜだ?優秀な回復術師でもいるのか?」
「調査したところ、エルフが世界樹から作ったとされる伝説の霊薬エリクサーを使っているのです」
「エリクサーだと!?それをたった金貨100枚で!?」
「ええ。直近で言えば、マダマシーズ王国の王子の目の治療をしたとのことです」
「ならば、我らも診療報酬を下げねばならんか?」
「それは得策ではありません。これまで治療を行ってきた王族や貴族たちが文句を言うでしょうね」
それはそうだ。「ぼったくりじゃないか!!」って怒るよね。
「それにこの教団が我らよりも優れている点があります。それは複合治療による症状の改善です」
回復魔法は、上位、中位、下位の三種類がある。
上位の回復魔法は部位の欠損も治すことができるが、使える者はごくわずかだ。この大陸にも数えるほどしかいないという。そのほとんどは、レイア教会に所属している。
中位の回復魔法は、部位の欠損までは治せないが、骨折程度なら治せる。また、腕を斬り落とされた場合、斬り落とされた直後であれば、くっつけることくらいはできる。中位の回復魔法が使える者はそれなりにいる。ちょっとした町や村なら一人はいるレベルだ。下位の回復魔法を使えるの者は大勢いるけど、擦り傷や切り傷くらいしか治せない。
レオニダス枢機卿によると、その認識が大きく変わっているという。
「シュルト山に湧き出る温泉の効能を利用し、更に魔法薬や温熱療法などを併用することによって、下位の回復魔法でも劇的な効果をもたらすことが判明しました。これは既に論文として、学会に発表されているのです」
治療部門のトップが声を上げる。
「コイツらは馬鹿なのか?これを秘匿にすれば、大儲けができるのに・・・」
「そこが不思議なところです。目的が分かりません。更に悪い事にこの治療法は世界的な広がりを見せています。この教団は、シュルト山に治療法を習いに来た者には、無償で教えているのです」
再び、治療部門のトップが叫ぶ。
「何だと!?この資料によると来年の治療関係の収益予想は大赤字じゃないか!!」
「そのとおりです。我がレイア教会は、多くの回復術師を抱えています。しかし今後は、レイア教会を頼って来る者は激減するでしょうね。この方法を使えば、レベルの低い回復術師でも、環境さえ整えれば、それなりの成果を上げることができますからね」
一同が静まり返る。
そんな中、レオニダス枢機卿が発言する。
「この教団は非常に危険な集団と言わざるを得ません。亜人や獣人も取り込み、小国家群連合も発足させました。我が教会からも多くの者が、この教団に移籍しています。以上の状況から、このままでは、我が教会の存続自体が危ぶまれます。すぐに手を打つべきです。よって、ここにこの教団の代表である自称聖女のアオイを異端審問に掛けることを提案いたします」
異端審問は、審問とは名ばかりで、既に答えは決まっている。合法的に自分たちの都合が悪い者を処刑する制度だ。
なんでそうなるのよ!?
アオイさんは、別に悪い事をしているわけじゃないじゃない!!
それを自分たちに都合が悪いからって・・・
でも流れ的にアオイさんが、異端審問に掛けられる。
そんな時に教皇から私に話を振られた。
「異端審問とは、物騒な話だな・・・ここは一つ聖女殿の意見を聞こう」
教皇は、事なかれ主義を絵に描いたような人だ。
当然、裏の活動も知っているが、見て見ないフリをしている。多分、自分が異端審問を決定したということにしたくないのだろう。
だったら・・・
「私は反対です。彼女たちの真の目的が分かるまでは、もっと調査するべきです。一度、彼女たちと話をして・・・」
言い掛けたところで、レオニダス枢機卿に遮られる。
「それは名案だ!!当然その役目は聖女殿がやってくれるのでしょうな?」
私は意を決して言った。
「もちろんです」
こうして、私は「鋼鉄の聖女教団」の総本山であるシュルト山に向かうことになったのだった。
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!




