62 火竜
レッドワイバーン改め、火竜ルージュと決闘することになってしまった。
私のスキルが勝つか、ルージュの攻撃力が勝つかの戦いになるだろう。まあ、スキルで防げなければ、それで終了なんだけどね。
「どこからでも、掛かって来い」
「いえ・・・そちらからどうぞ」
「本当にいいのか?では一瞬で決めるぞ」
ルージュは前足を大きく振り上げ、私に振り下ろした。
カキーン!!
いつも通り、ダメージを受けなかった。
「おのれ!!妾の爪が・・・」
爪が折れたようだ。
「だったらこれはどうだ!?」
今度はルージュが噛みついてきた。
「き、牙が・・・」
牙が折れてしまったようだ。
「ならば、妾の最強の技で屠ってくれよう。すべてを消し炭にしてやる」
今度はファイヤーブレスを吐いてきた。
猫人族の村にいたドラゴンとは比べ物にならないくらい強力なファイヤーブレスだった。流石は火竜といったところだろう。しかし、私には関係なかった。
「これでも駄目か・・・だったら、もっと魔力を込めて・・・」
再びファイヤーブレスを吐いてきた。さっきよりも、火力が強い。それに長時間、ファイヤーブレスを吐き続けている。
しかし、10分くらいすると、だんだんと火の勢いが弱くなった。そして、とうとうファイヤーブレスが止んだ。
「む、無念じゃ・・・次期竜王に最も近いとされた妾が、こんな所で敗れるとは・・・こ、殺せ・・・」
完全な自滅だ・・・
猫人族の時のドラゴンとは違い、ルージュはここの住人に迷惑を掛けたわけではないし、獣王戦士団にも気を遣っていた。殺さなくてもいいのではないだろうか?
そんなことを思っていたら、ルージュの体がどんどんと縮んでいく。そして、子犬サイズの大きさになった。
「魔力切れじゃ・・・もう動けん・・・」
私は子犬サイズのルージュを抱え上げた。
「別に死ななくてもいいと思うわ。とりあえず、他の場所に行ってもらえれば・・・」
「そんな場所があると思うか?」
「離島とかは?」
「ドラゴンが暮らしていくには、魔素が必要じゃ。魔素が多い場所は限られておる。魔素が少ないと、食事をせねばならんのじゃ」
「だったら、食べればいんじゃないの?」
ルージュがキョトンとする。
「そ、そうじゃのう・・・そういえば腹が減った。何か食べさせてくれ」
私は、持っていた非常食の干し肉を差し出した。
「これは、なかなか旨いな。貴殿に礼をせねばならんな」
「別にいいよ。それよりも、もっと美味しいものは、いっぱいあるからね」
「そうなのか?だったら、それを食わせてくれ。礼はそのときにするぞ」
私は、ルージュを抱きかかえたまま、みんなのところに戻った。
「小さくなっているニャ。意外に可愛いニャ」
「うむ。よしよししてやろう」
ルージュは、ミウとダクラにもみくちゃにされていた。
「や、やめるのじゃ!!そんなことよりも、もっと旨い物を持ってこい」
「レーヴェ王子、この子に食事を用意してもらえませんか?危険性はありませんので」
「分かった。聖女殿がそう言うのなら、用意させよう」
非常食をたらふく食べたルージュはすぐに元気になった。
体は小さいままだけど、その辺を無邪気に飛び回っている。
そこから移動し、村に着くと、早速宴が始まった。レーヴェ王子が事前に連絡をしてくれていたようで、席に着くとすぐに料理が運ばれてきた。みんなで美味しくいただく。
「旨いのう。妾も偶に食事をしていたが、旨いと思ったことは一度もない。ただ、腹を満たすだけだったからのう」
「よかったね。人間も捨てたものじゃないでしょ?人間と仲良くすれば、美味しいものがいっぱい食べられるよ」
「そうじゃな・・・よし、決めた。妾はアオイの騎竜となってやろう」
騎竜?
何だ、それは?
「その昔、竜騎士という者がおったそうじゃ。妾たちドラゴンに騎乗して、一緒に空を駆けたという。つまり、妾に乗せてやると言っているのじゃ」
「でも・・・その体に乗るのは、虐待しているようで、気が引けるわ・・・」
「それは大丈夫じゃ」
そう言うとルージュは、みるみる体が大きくなり、元の大きなサイズに戻っていた。
「さあ、アオイよ。妾に乗るのじゃ」
ここで、「乗りません」という勇気はなく、仕方なく、私はルージュに乗った。
こうして、私は伝説の竜騎士になってしまったのだった。
★★★
次の日、ルージュの計らいで、今回の遠征に参加したメンバー全員を乗せて、獣王国の王都まで運んでもらった。
「今回だけじゃぞ。それに別途報酬を貰うからな」
報酬といっても、食べ物なんだけどね。
余談だが、竜騎士とドラゴンの関係は対等らしい。ただし、伝統として竜騎士にはドラゴンの食事を用意する義務があるのだという。本当のところはどうか分からないけどね。
王都までは、あっという間だった。
獣王に事情を説明すると、大変驚かれた。
「なんとも・・・すぐに報酬を支払う」
破格の額だった。
「流石にこれは、貰い過ぎです」
「そんなことはない。国を救ったのだ。獣王国は安くはないのだぞ」
そう言われたら、断れないので、有難く受け取ることになった。
「それとレーヴェの件だが、再度謝罪する。そして当面の間、聖女殿の元で働かせようと思っている。こき使ってくれ」
「えっと・・・ミウがよければ・・・」
ミウに注目が集まる。
「私は気にしないニャ。勝手にすればいいニャ」
「ありがとう、ミウ殿。貴殿に相応しい男になってやる」
「あまり期待はしていないニャ」
ミウがいいのなら、私から何も言うことはない。
次の日、私たちはシュルト山に帰還することになったのだった。
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