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鋼鉄の聖女~勇者召喚されたOLですが、不遇なジョブの所為で追放処分を受けました。でも実は、私のジョブは最強のようで、いつの間にか無双しちゃってます。  作者: 楊楊
第四章 鋼鉄の聖女教団

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60 獣王国へ

 獣王国は、小国家群に属する獣人の国だ。

 代々、獅子族が治めており、自然環境に恵まれていることから、比較的裕福だと言われている。


 私たちは、すぐに王都を目指さずにコボルトのトールの生まれ故郷の村を訪ねた。

 レーヴェ王子の計らいだ。レーヴェ王子としては、国外で活躍するトールも労いたいと言っていた。村に着くと、大歓迎される。元々、レーヴェ王子の人気が高いうえに、この村出身のトールが一緒に村に帰って来たのだから、お祭り騒ぎとなった。


 村人を前にレーヴェ王子が演説をする。


「こちらのトール殿は、有名クラン「鋼鉄の聖女団」に所属し、個人でも「南の塔」の最高踏破記録を更新した・・・」


 演説のほとんどが、トールを称賛する内容だ。

 トールは誇らしげだし、トールの両親は涙を流して喜んでいる。村を出る頃には、村人全員がレーヴェ王子のファンになっていた。それはトールもだけどね。


「レーヴェ王子!!何でも僕に命令してください。王子のため、この国のため、命を懸けて依頼をこなしてみせます」

「ありがとう、トール。その時が来れば、当てにさせてもらうぞ」

「はい!!」


 旅の間、レーヴェ王子と接してみて、かなりの人心掌握術を持っているように思う。

 勢いで、やっているように見えて、実はかなり計算されているような印象を受ける。それを思うと、ミウに求婚したのも、何か裏があるように感じられてならない。それにトールを手懐けたのも、何か意図があってのことだろう。


 ただ、これを口にしたところで、状況は変わらない。

 私としては、王都に着くと同時にすぐにシュルト山に帰りたいのだけど、多分、厄介ごとに巻き込まれるだろう。



 ★★★


 王都に到着する。

 一応依頼としては、ここで終わりだが、「じゃあ、これで」と別れることはできない。レーヴェ王子から獣王への謁見を求められた。まあ、そうなるよね・・・


 謁見の間には、獣王だけでなく、各部族の代表者が勢揃いしていた。リザードマンや虎人族、餓狼族などがいる。

 獣王が言う。


「レーヴェよ。そちらのお嬢さんが、ミウ殿か?」

「そうです、父上」

「なるほど・・・素晴らしい耳に尻尾、それに膨大な魔力を感じるな。王太子妃に相応しい」


 そんな話をしていたところに、各部族の代表者が口々に反対意見を述べる。


「そんなどこの馬の骨とも分からない猫娘に王太子妃は、務まりません」

「そうです。何の実績もない小娘になど・・・」

「せめて、実力を示してくれたら、認めましょう」


 レーヴェ王子が言う。


「父上、だったら、ワイバーンの討伐をお願いしましょう。彼女らはドラゴンの討伐経験もあり、一捻りでしょう。そうだな?トール殿」


「もちろんです。聖女様とダクラ師匠とミウ師匠がいれば、不可能はありません。当然、僕もサポートを頑張りますよ」


「決まりだな。では、聖女殿よろしく頼む」


 あれ?そんな話だったっけ?

 当初は、獣王に挨拶し、軽く食事して親交を深めるだけだったはずだ。どうも腑に落ちない。


 獣王が言う。


「謁見はこれで終了とする。聖女殿、レーヴェ、今後のこともある。別室で細かい打合せをしよう」


 私たちは、獣王と共に別室に案内された。

 別室に入ると、いきなり獣王は、レーヴェ王子をぶん殴った。レーヴェ王子が転がる。


 一体、どういうことだ?


「レーヴェ!!お前は何を考えているのだ!?ワイバーンの危険性も伝えず、ワイバーンの討伐依頼を受けさせるなんて、騙し討ちではないか!!」

「父上・・・しかし、民が・・・」

「それは、分かっておる。だったら、正々堂々と窮状を訴えて、助力を請えばよいではないか?」

「それでは、我ら獣王国の誇りが・・・」


 言い掛けたところで、レーヴェ王子は、また獣王に殴られた。


 獣王が私たちに向き直り、頭を下げて来た。


「馬鹿息子が迷惑を掛けた。申し訳ない。正直に事情を話す」


 獣王が言うには、獣王国の北部で、強力なワイバーンが出現したそうだ。

 そのワイバーンは、赤色の鱗で、ファイヤーブレスを吐いてくるそうだ。調査の結果、新種のワイバーンと判明、レッドワイバーンと名付けたという。


「レッドワイバーンが出現したのは、獣王国北部の穀倉地帯だ。たかがワイバーンなど、どうとでもなると思い、獣王戦士団を派遣したのだが、返り討ちにあったのだ。どうも普通のワイバーンとは違い、知能も高い。近接戦闘が得意な我が獣王戦士団が到着すると、上空に逃げ、嫌らしくファイヤーブレスを吐き続けるのだ。こちらには魔導士はほとんどおらず、弓兵のレベルも低い。そんな状況であるから、一方的に上空からブレスを撃たれ、なすすべなく、撤退したのだ」


 獣王が一旦、言葉を切った。


「もうすぐ種まきの季節だから、早く討伐せねば食料危機に陥る。何とかしなくてはならん。前にも言ったが、きちんと冒険者ギルドに依頼すればよかったのだ。このような可憐で美しいお嬢さんを騙して、死地に向かわせるなど、許すことはできん」


 レーヴェ王子が言う。


「しかし父上、そんなことをすれば、周辺国に侮られてしまいます。それにミウ殿が討伐すれば、同じ獣人ですから、プライドも保て、それに我が妻となれば・・・」


 またレーヴェ王子は、獣王に殴られた。


「プライド、プライドと言うが、真のプライドとは、何をしてでも民を守るという心意気だ。お前の言うような、小手先のものでは、決してない」


 話が見えて来た。

 レッドワイバーンの出現で、獣王国は非常に困っているが、プライドから、冒険者ギルドに依頼を出せないでいる。普通に私たちにこの話が来たのなら、受けたかもしれない。しかし、レーヴェ王子の行動は許せない。ミウの乙女心を弄んだし、トールもいいように利用されていたしね。


 今思えば、各部族の代表者が騒ぎ出したのも、レーヴェ王子の指示だったのだろう。

 ここで、「そんなことは、気しないで下さい。受けますよ」という程、私はお人好しではない。


「事情は分かりました。指名依頼という形であれば、ギルドを通して受けることは可能です。しかし、ミウの気持ちはどうなるのでしょうか?きちんとした謝罪を求めます。それと、ミウが受けないと言えば、この依頼は受けません。ミウがいないと、討伐は無理でしょうからね」


 獣王が言う。


「もっともだな。レーヴェ、ミウ殿に謝罪しろ」


 レーヴェ王子がミウに謝罪する。


「本当にすまなかった。ただ、我のミウ殿を思う気持ちに嘘はない。少しだけ、打算もあったが、ミウ殿の美しさと気高さに惚れたのだ。できれば、依頼として受けてくれないだろうか?」


 謝罪するフリをして、口説いている。

 ミウはというと・・・


「べ、別に気にしていないニャ・・・私としては、依頼を受けてあげてもいいと思うニャ」


 ミウは、相当チョロい奴だった・・・



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