58 コンテスト開幕
ノルトとノーリたちとは別れ、コンテストまでの間、のんびりと過ごす。
主に観光や買い物に費やした。この観光代もノルトが払ってくれることになっていた。ツケで飲み食いをする。昼からエールを飲み、幸せな日々を過ごした。
気になることといえば、暴飲暴食の所為で体重が増加したことだ。
なので、4日目からは、ランニングをしたり、太極拳をしたりしてダイエットに努めた。
そして、コンテストの日となった。
私とミウとダクラは来賓席に座らされ、ノーリたちサポーターズのメンバーは、ノルトの助手として参加している。
来賓には、獣王国のレーヴェ王子も招かれていた。
「久しぶりであるな。こんなところで、また会えるとは運命を感じるな?ミウ殿」
「そ、そうかニャ・・・そう言われれば、そんな気も・・・」
ミウは仕切りに、このコンテストが終ったら、獣王国に来てほしいと口説かれていた。
そんなやり取りをしているところにドワーフの王が、エルフの女王と連れ立ってやって来た。
ドワーフの王がコンテストの開会を宣言する。
「エルフの女王をはじめとした、多くの来賓にまずは感謝を。それでは、コンテストの開会を宣言する」
コンテスト参加者は7名、いずれもドワーフの国で有数の職人だという。
その中で、ノーリの兄のノルトは、最年少での出場となる。コンテストのやり方は、順番に職人が自分の作品を持参して、審査員にプレゼンする方式だ。
早速、最初の出場者が自分の作品のプレゼンを始める。
「儂が作ったのは、この剣だ。鍛冶歴150年の技術と思いが込められておる。その切れ味は、そんじょそこらの剣とは比べ物にならんぞ。我こそはと思う者は、我が剣を使ってみてくれ。その凄さが分かるぞ」
ここで名乗りを上げたのが、何とレーヴェ王子だった。
ミウにいいところを見せようと思ったのだろう。レーヴェ王子は、出場者のドワーフから剣を受け取ると、試し斬り用の全身鎧に対峙する。
「流石に我でも、この鎧は斬れんぞ」
「お前さんもなかなかの剣の腕をしているようだな。普通ならそう思うだろう。だが、試しにやってみてくれ。恥は掻かせん」
レーヴェ王子は気合いを入れ、鎧に斬り掛かる。
何と、鎧が真っ二つになった。
「これは凄い・・・我が欲しいくらいの剣だな。見事な剣だ」
「そうだろ?ある程度の腕がないと、この剣の力は発揮できんが、それでも剣の素晴らしさは、伝わったと思う。儂からの説明は以上だ」
続いての出場者は、槍を持って来た。
伸縮式の槍で、先端の刃を付け替えれば、魔法が付与できるようだった。今回も試し斬りは、レーヴェ王子が務めた。
「なかなかの槍だが、もっと重量を重くしてもよいと思う。それだけ威力が上がるからな」
出場者は不敵に笑う。
「達人にはそう思うわれるかもしれません。ですが、私は万人がある程度使えることにコンセプトを置いているのです。だから、敢えて性能を落し、誰もが使える槍を作ったのですよ」
「なるほどな・・・一般兵に持たせるのも面白いかもしれんな。後はコストだが・・・」
「そこは、勉強させてもらいますよ」
そんなやり取りをしていると、最初の出場者が怒鳴る。
「馬鹿弟子が!!そんな量産品を作らせるために、儂はお前を指導したのではない!!」
「師匠の分からず屋ぶりは、相変わらずですね。武器なんて、使ってくれる人がいないと意味がありません」
「我らが、使う者を選ぶのだ。妥協した言い訳をするな!!」
「師匠こそ、自己満足のマニアックな武器しか作ってないじゃないですか!?」
喧嘩が始まってしまった。
二人は、かなり怒られ、これ以上やると失格にすると言われていた。
ドワーフの王が言う。
「相変わらずじゃな、お前たちは・・・まあよい、どちらも素晴らしい作品だと我は思う。結果が出るまで、大人しく待っておれ」
「はい、申し訳ありません」
「すみませんでした」
それからも、出場者が次々と作品を持って来た。
弓の作品が出た時は、ダクラが試し撃ちをした。ダクラも満足する出来だった。そう思うと、このコンテストは、かなりレベルが高いのだと思った。果たして、ノルトは大丈夫だろうか?
★★★
出場者の最後は、ノルトだった。
自信満々で、ノルトが登場する。ノルトが出品したのは、何の変哲もないナイフだった。審査員が困惑している。
「何だ、これは?普通のナイフに見えるが・・・」
「本当にそう思いますか?もっと、じっくり見てください」
「こ、これは・・・まさか・・・」
「そうです。完成したのですよ。伝説の金属、オリハルコンがね」
会場が騒然となった。
来賓のたちも騒ぎ立てる。来賓の中には、早速通信の魔道具で何やら、連絡を取っている者も現れた。それほどの重大事件だったようだ。
興奮冷めやらぬ中、ノルトが説明を始める。
「そちらに座っていらっしゃる聖女様のお蔭で、オリハルコンを精製することができました。まさに神の奇跡としか言いようがありません。アダマンタイトの強度とミスリルの魔力伝導率を兼ね備えたオリハルコンは・・・」
残念なことに審査員や来賓たちは、誰もノルトの話を聞いていない。
小国家群の商業都市の代表者は、勝手に審査員席に移動して、鑑定を始めてしまった。
「ま、間違いない・・・オリハルコンだ。鑑定歴30年の私の目に狂いはない・・・となると・・・」
来賓たちは、ノルトそっちのけで、私に群がって来た。
「今、噂の聖女様ですね?少しお話が・・・」
「製法を教えていただければ、報酬を弾みますよ・・・」
「聖女様、是非我が国にお越しください。国賓として・・・」
なんか、ノルトよりも私が目立ってしまっている。
ミウが言う。
「というか、ノルトは駄目ニャ。製法を秘匿にするとか、そういった契約の話は、一切されてないニャ」
「そうだ。それにあの製法だと、アオイがいて、原料と超高温炉があれば、誰でも作れるからな・・・」
確かに・・・
このコンテストに優勝したとしても、ノルトと工房の将来が心配になる。
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