56 ドワーフの依頼
最近は、小国家群各国の代表者への対応も落ち着いてきた。
私はというと、細々と訓練を続けている。一向に速くは動けないが、明日を信じて頑張っている。
スキルの成長は今のところないが、太極拳愛好者は、爆発的に増えた。
それに変な噂も流れている。
「この体操をすると、幸せになれるらしいよ」
「私は恋人ができるって、聞いたわよ」
「大地とつながって、悟りが開けるの間違いじゃないのか?」
もうここまで来ると止められない。
このブームも、いつか去ると思い、聞かなかったことにしている。
それと、私たち三人は依頼も受けている。
そのほとんどは、ボンバーロックの駆除だ。冒険者は実力者揃いだが、コスパが悪いからだ。安全に駆除しようとしたら、Cランク以上の全身鎧を纏った重戦士が5名、魔道士か弓使いが3名は欲しいところだ。そのメンバーを揃えて、駆除したとしても、ほとんど素材が取れないので、大赤字になってしまう。だから、必然的に私たちにこの依頼が回ってくる。
今日も、今日とてボンバーロックの駆除に向かう。
フライングボンバーアタック!!
説明しよう!!フライングボンバーアタックとは、私がボンバーロックを抱え込み、ミウの風魔法で敵のど真ん中に私ごと飛ばす、超必殺技なのだ。爆発させるタイミングは、ダクラが私の抱え込んでいるボンバーロックを矢で爆発寸前までダメージを与えることによって、ある程度爆発のタイミングを調整することができるのだ。つまり、フライング聖女アタックの威力を更に高めた技なのだ。
この作戦を思い付いてからは、簡単にボンバーロックを駆除できるようになった。だから、最近では討伐ではなく、駆除と呼ばれるようになってしまった。
私としては、この技をもっとブラッシュアップしていきたいのだが、ミウとダクラは難色を示す。
「ボンバーロックを育てるのはどう?いつでも、フライングボンバーアタックが使えるんじゃないの?」
「誰がそんな危険な魔物を飼育するのニャ?」
「そうだ。そんな魔物を持ち歩くなんて、生きた心地がしないし、色々な町で出入り禁止にされる」
「それはそうだけど・・・専門のテイマーを雇うとか?」
「そんな奇特なテイマーはいないニャ」
「そうだ。魔物とはいえ、大切に育てた仲間を使い捨てにするなんて、聖女の発言とは思えないな」
「そうだよね・・・育てていたら、情も湧くしね・・・」
本当のところ、フライングボンバーアタックなんて、私もしたくない。
「鋼鉄化」したまま、もっと速く動ければこんなことをしなくて済む。努力はしているが、全くスキルは進化しない。結局は以前と変わらない戦術を採用しているのだった。
地道に頑張るしかないか・・・
★★★
ボンバーロックの駆除を終え、クランハウスに戻り、達成報告をする。
最近、私たち以外のパーティーも調子が良さそうだった。選抜チームを編成して、ダンジョン攻略に臨み、南ギルドが管理する「南の塔」の最高踏破記録を更新したそうだ。そのチームには、ノーリたち「鋼鉄の聖女団サポーターズ」も入っていて、ノーリたちの実力も、かなり上がっているようだ。
「最近、ノーリたちに会ってないけど、こんどお祝いでもしようよ」
「そうだニャ。いい考えニャ」
「うむ。師匠として最近の頑張りを労って、やらねばな」
そんな話をしているところにノーリが、偶々通りかかった。
私が声を掛けようとしたところ、何やらドワーフの男性と話込んでいた。
「ノーリ、聖女様に頼めないのか?」
「話だけはできるようにするッスけど、できるかどうかは・・・」
「でも神の奇跡か何かで・・・」
「でも、そんな危険なことはさせられないッス。兄貴も夢ばかり追いかけていないで、普通の武器や防具を作るッス」
どうやら、ドワーフの男性はノーリの兄のようだった。そして、私に何か頼みごとがあって来たようだ。
とりあえず、声を掛ける。
「ノーリ、久しぶり。どうしたの?」
「聖女様、お久しぶりッス。こちらは私の兄ッス。話を聞くだけ、聞いてもらえないッスか?」
「初めまして、聖女様。俺はノルトです。鍛冶職人をしているのですが、聖女様にお願いしたいことが・・・」
ノルトの頼みというのは、私に超高温炉の中で作業をしてほしいとのことで、その作業が成功すると、伝説の金属であるオリハルコンが生み出せるとのことだった。
「理論上は可能なんです。ただ、超高温炉での作業となると、防護服を着ても無理です。それで、ドラゴンのファイヤーブレスにも無傷だった。聖女様ならと思いまして・・・」
「兄貴!!報酬はどうするんスか?聖女様を長期間拘束するようになるし、兄貴が払える金額ではないッス」
「そ、それは・・・コンテストに優勝した賞金で・・・」
「優勝できなかったら、どうするんスか?」
「必ず優勝できるから、心配はするな」
「そう言って、兄貴はずっと・・・だから、私が出稼ぎに出るようになったんスよ」
とりあえず、北ギルド出張所所長のマーサさんと交渉事担当のアンさんに相談してみた。
「ギルドとしては、許可できないね。そんな依頼を受け出したら、他の冒険者が困るようになるよ。ただ働きさせられる冒険者が増えるからね」
当然の意見だ。
一方、アンさんはというと・・・
「是非、私も同行させてください。聖女様の奇跡がこの目で見られるなんて、なんという幸運なのでしょう。早速、準備をしなくては!!」
アンさんは、すぐにいなくなってしまった。相談すべきではなかったと後悔した。
「受けてあげたい気はしますが、今後のことを考えると・・・」
そんな話をしているところにエルフの女王が現れた。
「困っているようじゃな?我にも話を聞かせてくれ」
ノーリが事情を説明する。
「なるほど・・・それなら考えがある。そろそろ我らもエルフの国に帰ろうと思うのだが、護衛が必要だ。ついでにドワーフの王にも会って帰ろう。我らエルフは出不精だから、こういった機会がないと、他国にも行かんからな」
エルフたちに護衛なんて、必要ない。
私たちに恩返ししようと思い、提案してくれているのだ。
マーサさんも、話を合わせてくれる。
「護衛依頼ならいいんじゃないか?護衛のついでに現地で、ちょっとした困りごと解決する。厳密に言えば、あまり褒められた行為じゃないけど、どの冒険者も多少はやっているし、そこまでギルドもうるさくは言わないよ」
「本当にありがとうッス。バカ兄貴のために・・・兄貴もお礼を言うッス」
「ありがとうございます」
こうして私たちは、ノーリの故郷であるドワーフの国に向かうことになったのだった。
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