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鋼鉄の聖女~勇者召喚されたOLですが、不遇なジョブの所為で追放処分を受けました。でも実は、私のジョブは最強のようで、いつの間にか無双しちゃってます。  作者: 楊楊
第四章 鋼鉄の聖女教団

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54 新たなスキル

 私は今、新設された訓練所に来ている。


 ブレダムにある、どのギルドの訓練所よりも大きく、設備も整っている。訓練所の開所式には、スピーチをさせられ、おまけに訓練にも定期的に参加させられる。かなりレベルが高く、ザマーズ王国の騎士団よりも個人能力だけで言えば、こちらが圧倒的に上だ。集団戦になれば、話は変わってくるだろうけど。


 だから、ランニングや筋トレなどの基礎訓練を終えると、私は決まって瞑想に入る。

 だって、戦闘訓練なんて、レベルが高すぎて、私が太刀打ちできるレベルではない。必殺の聖女パンチも、軽く躱されるだろう。まあ、拳が固い以外は普通のパンチなんだけどね。

 今も、エルフやダークエルフと重装歩兵隊が激しい模擬戦を繰り広げている。


「聖女様は凄いな・・・」

「ああ・・・微動だにしない」

「並みの精神力では、ないのだろうな」


 そんなレベルの高い訓練員たちも、私には一目置いてくれる。だからやめるにやめられないのだ。



 ★★★


 その日は少し、様子が違った。

 エルフの王女エレノアが、駆出し冒険者に弓の基本を教えていた。助手はリリィだ。最近、二人は仲がいい。エレノアとリリィが弓の指導をしている横では、ダクラの弟ダクルが、剣士をメインに近接戦闘の基本を指導していた。指導者も訓練員も一生懸命だった。


 いつも通り、瞑想をしていると、急にエレノアが訓練を中断させた。


「みんな、一旦訓練を止めて、集合して!!」


 訓練員たちは、訓練を中断してエレノアに注目する。


「みんな、聖女さんを見て。凄いと感じない?」


 訓練員たちは、感心したように私を見つめる。

 ちょっと恥ずかしい。


「前にエルフの試練のことを話したと思う。確かにダクラの弓の腕は本物よ。私以上よ。だけど、私が一番心を動かされたのは、聖女さんよ。いくらダクラの腕を信じていたとしても、飛んで来る矢に微動だにしないなんて、並みの精神力じゃないわ・・・」


 多分、エルフの里で行った、嫌がらせの話をしている。


「私は聖女さんに会うまでは、純血エルフこそが至高の存在であると信じきっていたわ。だけど、私は気付いたのよ。私たちエルフに同じことができるだろうか?そして、友を心から信頼し、命を懸けて友の命を救おうとした行為は、私たちよりも崇高なのではないのかと。そんな聖女さんの行動を目の当たりにした私は、こう思うようになったわ。純血とか混血とかハーフエルフとかダークエルフとか・・・そんなことは些細な問題だと・・・」


 エレノアは、リリィに向き直った。


「今こうして、リリィと仲良くできているのも、すべて聖女さんのお蔭よ。弓の上手い、下手はある。だけど、そんなものは二の次よ。この訓練を通じて聖女さんの精神性を少しでも学んでほしい。私とダクラとの差は、技術ではないと思っているわ。精神力の差よ。その精神力を身に付けるためにこの地で、私は修行しているのよ」


 訓練員は感動している。

 訓練員の中には、私を拝む者まで出てきた。


 言っておくが、私が取り立てて精神力があるのではない。そういったスキルだからだ。でも、この状況で「違います」という勇気はない。そのことからも考えて、私の精神力は強くない。


 そんなことを思っていたら、急に頭の中にイメージが浮かんだ。


「鋼鉄化移動」


 呟いてみると、具体的なイメージが浮かんだ。

 どうやら、鋼鉄化したまま動けるようだ。私は、明るい未来に酔いしれた。


 もう私は無双できる。この状態のまま、体を動かすことができれば、誰も私を止められない。もう無敵の聖女だ。これなら、ドラゴンの単独討伐も夢ではない。

 しかし、現実は甘くなかった。


 体は動くには動くのだが、かなり遅い。

 多分5メートルを進むのに1分は掛かる。分速5メートルだ。それならばと、上半身を動かしてみるが、結果は同じだった。太極拳くらいのスピードだった。

 でも、このスキルを使い続ければ、きっと速く動けるようになると信じ、私は一生懸命に体を動かすことにした。OL時代に太極拳が好きな取引先の社長を接待したとき、自宅が近くだったことが縁で、朝に公園でやっている太極拳教室に誘われ、取引が終わるまで、太極拳教室に参加していた。

 その時のことを思い出し、太極拳っぽいことを始めた。

 かなり恥ずかしいけど仕方ない。


 訓練員たちが騒ぎはじめる。


「聖女様が動かれた」

「何だ?あれは?かなり特殊な動きだ。それも遅い」

「エレノア先生、あれはどういった意味が?」


「私にも分からないわ、しばらく見学しましょう」


 私は訓練員に注目される中、太極拳っぽい動きを繰り返した。

 同じく訓練を見ていたダクルが言う。


「実際にやってみると、意外に難しいですね。多分、何かのトレーニングじゃないかと思います。ちょっとみんなでやってみましょう」


 それから訓練員全員で、太極拳擬きが始まってしまった。

 更に超一流の「拳闘士」だったマーサさんがやって来て、「もしかしたら、伝説の訓練法かもしれない。私の師匠から、そういった訓練方法があると聞いたことがある。それによく見ると、武道の型に似ている」と言ったから大変だ。

 いつの間にか、訓練前の儀式のようになってしまった。


 更に悪い事は続く。

 またまたアンさんが「月刊鋼鉄の聖女団」に精神力を高める秘伝の訓練方法として、記事を掲載した。この反響は大きく、冒険者ではない一般人やリタイアした高齢者の間で大流行した。怪我もしないし、それなりにいい運動になるからね。


 そうなるともう、止められない。私は毎朝のトレーニングの後に広場で、一般市民を対象に太極拳擬きを教えている。


「大地の息吹を感じ、今生きていることに感謝して、今日も頑張りましょう」


 自分でも何を言っているか分からない。

 また、それっぽいことを言って、その場を凌いでしまった。


 ダクラとミウが遠巻きに見ながら呟く。


「またアオイが変なことをやっているニャ」

「まあ、アオイだから仕方がない」


 二人にも、変な人だと思われているようだ。

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