48 エルフの試練
次の日、朝早くダークエルフの里を出発したので、昼過ぎにはエルフの里に到着した。
里の入口でダクラスさんが用件を伝える。
「女王陛下は不在です。会うことはできません」
「緊急事態だ。そこをなんとか、頼む」
「しかし・・・」
そこに若い女性エルフがやって来た。
「何をしているの?」
「エレノア様、ダークエルフの族長が来られて、エルフの試練を受けたいと・・・」
「何だ・・・ダクラじゃないの。試練を受けに来たの?」
ダクラが答える。
「そうだ!!」
「受けさせてあげるわよ。どうせ失敗するでしょうしね」
「なら、今すぐに頼む。時間がないんだ・・・」
私たちは、エレノアにエルフの弓術場に案内された。
このエレノアというエルフは、女王の娘でダクラにエルフの試練を持ちかけた人物だという。私たちが弓術場に入ると、訓練していたエルフたちは、訓練を止め、一斉に胸に手を当てて頭を下げた。これを見るだけで、エレノアがかなりの力を持っていることが分かる。
「私は王女よ。でもそれ以上にエルフで一番の弓の腕を持っていることが、尊敬されている理由なのよ」
聞いてもいないのにエレノアは、私たちに自慢してきた。
ミウが小声で言う。
「そんなことを自慢しても、ダクラに勝てなかったニャ・・・」
それがエレノアに聞こえていたようで、エレノアはこちらを睨み付けてきた。
「ミウ、余計なことを言わないで」
しばらくして、エレノアが訓練をしているエルフたちに言った。
「みんな、覚えてる?前の弓術大会で、調子に乗って痛い目を見たダークエルフを」
エルフたちがざわつく。
「その彼女が、試練を受けに来たんだってさ。まあ、やるのは自由だけど、結果は目に見えているわ」
「それはどうかな?」
「まあいいわ。準備しなさい」
すぐに準備が始まった。
準備といっても、私が的がある所に移動するだけだけどね。
「ところで人間の貴方、本当にいいの?下手すると死ぬわよ」
「私は、ダクラを信じていますから」
「勝手にしなさい」
私はリンゴを頭に乗せて、「鋼鉄化」を発動した。
ダクラはというと、弓を番えるとすぐに矢を放った。そして、私の頭の上に乗せているリンゴを見事射抜いた。
あまりのスピードにエルフたちは、驚いている。
「射抜いたダクラ殿も凄いが、それよりもあの人間の女も凄いな」
「ああ・・・こんな状況で微動だにしない」
「余程、精神を鍛えているのだな・・・」
一方、ダクラの家族とミウは大喜びだ。
ダクラが言う。
「これで成功だな。早く呪いを解いてくれ」
「・・・こ、これは試練の一部に過ぎないわ。こんな簡単なことが、エルフの試練のわけないじゃない」
「それもそうだな。では、すぐに次の試練を頼む」
今度は、頭だけでなく、両手にもリンゴを持たされた。
それもダクラは、難なく射抜いた。
エレノアは青ざめている。
「なかなかやるようね・・・じゃあ次は・・・」
どんどんと、要求は高くなっていくが、すべてダクラはリンゴを射抜いた。
今なんか、足を高く上げて、そこにリンゴを乗せられている。ダクラの試練というか、私の試練に近い。まあ、日頃コツコツと柔軟体操をしているので、何とか高く足を上げることはできたけどね。
というか・・・ここまで来ると、これは試練ではなく、エレノアの思いつきではないのかと思ってしまう。
だって、エレノアは今も、ああでもない、こうでもないとブツブツと独り言を言っているからね。
「じゃあ、これが最後の試練よ。そこの人間、リンゴを両手に持って、胸の前に置きなさい。そして、心臓の位置に合わせて・・・」
私は言われるがままにリンゴを両手に持ち、心臓の前にリンゴを持ってきた。
エルフたちが騒ぐ。
「何て危険なんだ・・・これが最後の試練なのか・・・」
「そうだな・・・我々でも絶対にできない」
そんな時、ダクラスさんが私を止めに来た。
「アオイ殿、ダクラのために頑張ってくれたことは感謝する。ダクラには生きてほしい。しかし、アオイ殿を犠牲にしてまでは・・・」
「大丈夫ですよ、ダクラスさん。私には神の加護があります。きっとダクラは助かります。それが神のご意思です」
「す、すまぬ・・・この恩は、必ず返す」
最近、「神の加護」ということがマイブームだ。余計な説明が省けるからね。
エレノアが言う。
「やるの?やらないの?早くしてよ。別にやめてもいいんだけどね」
「やりますよ」
「ちょっと、貴方は馬鹿なの?いくら狙いがよくても、威力を調整するのは無理よ。リンゴを突き抜けた矢が貴方に突き刺さるのよ」
「大丈夫です」
エレノアは今度はダクラに言う。
「ちょっと、ダクラ!!仲間を犠牲にしてまで、助かりたいの?」
「犠牲にはせん。私はアオイを信じている」
「そ、そんな・・・」
普通はそう思うが、私にはスキルがある。
ダクラもそれが分かっている。そして、何の躊躇いもなく、ダクラは矢を放った。
カキーン!!
矢はリンゴに突き刺さり、私にも当たった。でもスキルを発動させているので無傷だ。
エレノアが叫ぶ。
「そ、そんな・・・おかしい・・・そうよ、絶対に不正をしているわ!!」
「そんなことはしていない。それよりも早く呪いを解いてくれ」
「認めない・・・絶対に認めない。純血の私たちよりも、混ざりものが優秀だなんて、認められないわ」
「だから、そんなことはどうでもいい。呪いを解けと言っている」
そんな話をしているところに、かなりオーラのあるエルフの女性が現れた。
「何をしておるのじゃ!?この騒ぎは何事じゃ?エレノア、説明せよ」
「お、お母様・・・これは・・・その・・・」
ダクラスさんが言う。
「女王陛下、お久しぶりでございます」
「ダクラスよ、息災であったか?」
「はい、お陰様で」
「ところで、これは何の騒ぎなのじゃ?」
「我が娘ダクラが、エルフの試練を受けていたのです」
少し考えた女王は言った。
「エルフの試練?何じゃそれは?」
場が一気に凍り付いた。
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