4 実戦訓練
ある日、訓練所に向かう途中に騎士団の待機室から言い争う声が聞こえてきた。
こっそり覗いてみると、騎士団長のカリエスが宰相と言い争っていた。
「こんな状態で、魔物相手に実戦訓練など馬鹿げています!!」
「そうは言っても、これは国王陛下直々のご命令で・・・」
「それでもです。若い四人は強力なスキルこそ習得しましたが、まだまだ基礎的な訓練をさせるべきです。今のままでは、調子に乗ってすぐに命を落としてしまうかもしれません。それにアオイ殿は実戦で使えるスキルを全く習得していないのです」
あれから訓練を続けているが、全くスキルは習得できなかった。カリエスや騎士団の皆さんが、付きっきりで頑張ってくれているのに、正直心苦しい。
「それは十分に理解しているのだが、いくら進言しても、国王陛下は聞いてくれないのだ」
「それをどうにかするのが宰相閣下の仕事でしょう?」
「そう言われると辛いところではあるが・・・」
「一体なぜ、国王陛下は勇者の実戦訓練を早めようとしているのですか?」
「それはだな・・・」
呆れて物も言えない。
この大陸には、最大領土を誇るライダース帝国という国が存在する。
ライダース帝国と私たちを召喚したザマーズ王国は戦争状態ではないのだが、共に張り合っている間柄だと言う。
「つまり、今度の大陸会議で、勇者のことを自慢したいだけということですか?」
「そうみたいだ・・・」
「そんなことのために勇者たちを危険にさらすなど、許せません」
「ここは一つ頼むよ。形だけでいいんだ」
宰相が去った後、カリエスは机を激しく殴り付けていた。
心配になって、カリエスに声を掛けた。
「聞いていたのか?」
「申し訳ありません。偶々、通りかかったもので・・・」
「気にすることはない。これがこの国の現状だ。無駄なプライドのために勇者召喚を行い、こっちの都合で、危険な任務に就かせる・・・本当に情けない」
「カリエスさんが、気に病むことはないですよ。それに実戦訓練までにやれる訓練はしっかりやりましょう。私もいつも以上に頑張ります」
そうは言ったが、私自身、頑張り方が分からない。ただ、スキルを使って突っ立っているだけだしね。
まあ、最近は基礎訓練で吐かなくなり、少しお腹周りもスッキリした。
この頃は、ちょっと厳しめのダイエット合宿に参加していると思うことにしている。
私なりに頑張っているよね?
★★★
そんなこんなで、実戦訓練の日がやってきた。
残念なことに私は新たなスキルを習得することができなかった。実戦訓練は、王都付近の森で行われる。移動は馬車だ。
高校生たちが、ワイワイと楽しそうにしている中、私は一人寂しく景色を眺める。何とかコミュニケーションを取ろうとしたが、ジェネレーションギャップというやつだろうか、全く会話が盛り上がらなかった。
「到着したぞ。くれぐれも無理はせず、指示に従うように」
勇者のレンが言う。
「大丈夫だよ。俺たちは強い。もう騎士団長以外で俺に勝てる奴はいないしな」
勇者たちが馬車から降りた後にカリエスが呟く。
「こんな状態で魔物討伐が上手くいけば、調子に乗るだけだ・・・」
カリエスが高校生たちに厳しく指示をしている最中に思い掛けない人物が現れた。
それは国王と国王の娘で第一王女のエルザだった。
「国王陛下!!どうしたのですか?予定にはなかったはずですが・・・」
「急遽こちらのライダース帝国の大使殿が、勇者たちを見たいと申してな。折角だから見せてやることにしたのだ」
国王が去った後、カリエスは呟く。
「大使に自慢したいだけだろうが・・・これでは計画が丸潰れだ」
この計画の策定には、私も関わった。
カリエスは事務仕事が苦手だったので、私がOLの経験を生かして手伝った。計画書を作るだけだから、大して苦にならなかったけど、カリエスからは、かなり感謝された。
その計画というのは、戦闘以外の薬草やキノコの採取、森での戦闘の基本などを中心に指導し、最後に申し訳程度の戦闘を行う予定だった。これも高校生たちに変な自信をつけさせないためだ。
しかし、国王の一言ですべて台無しにされてしまう。
「我も大使殿も忙しいのだ。早く戦闘を見せろ」
「そうですよ、カリエス。私はこんな森なんかに長いこといたくは、ありませんわ」
どうやら王女も、あまり性格がよろしくないようだ。
仕方なく、カリエスの部下が魔物を探しに行った。しばらくして、魔物を発見したようで、報告に帰って来た。
「発見した魔物はDランクのフォレストブルだ。一匹一匹は大したことはないが、連携攻撃は厄介だ。安全策を取って、訓練どおりに・・・」
言い掛けたところで、勇者のレンが遮る。
「所詮Dランクだろ?適当にやっても勝てるよ」
この世界の魔物は、危険度によってA~Fのランクに分けられているそうだ。Dランクといえば、一人前の冒険者が何とか勝てるレベルらしいが、もうすでに高校生たちは、種類によってはBランクの魔物にも勝てるくらいの戦力があるという。
ただ、実力があっても経験がないと思わぬ事故が起きる。そのことをカリエスは心配している。
魔物の発見場所まで、高校生たちが走って行くのを私も追いかけた。
最近、体力的に何とかついて行けるようにはなっている。
私が到着するのと同時くらいに戦闘が始まった。
フォレストブルは、大きな牛型の魔物で角による突進攻撃が特徴のようだ。フォレストブルは全部で7匹いる。
レンが指示する。
「じゃあ、俺が2匹、サラが2匹、ミスズが2匹、クルミが1匹でどうだ?」
大魔導士のミスズが言う。
「私はそれでいいけど、オバさんの分はいいの?」
「アイツは戦えないだろ?」
「それもそうね」
高校生たちは、フォレストブルを圧倒する。
剣や魔法であっと言う間に討伐していく。戦闘が苦手そうだった聖女のクルミも、巨大なメイスで頭を一撃で潰していた。
虫も殺さないような顔をして、エグいことをするわね・・・
当然だが、私の出る幕はなかった。
遠巻きに見ていた国王が言う。
「どうだ?大使殿」
「素晴らしい戦力ですね。我が国にも欲しいくらいです」
「そうか!!皇帝陛下にも伝えてくれ。カリエス、我らはこれで帰るぞ。こんな所で野営なんてしたくはないからな」
長いOLの経験を持つ私から言わせれば、こんな社長だと会社は倒産する。この国もそうなるかもしれない。いや、むしろそうなってほしい・・・
国王と王女と大使が帰還するのを見送り、カリエスが指示をする。
「では、魔物の解体を行う。手順は・・・」
今度はミスズが声を上げる。
「嫌よ!!気持ち悪い。クルミもそう思うでしょ?」
「そ、そうだね・・・私、血とか見ると気分が悪くなるの・・・」
おい!!お前の討伐の仕方が一番エグかったんだけどね。
「それでも、これは必要なことだ。勇者としては、戦闘以外の面でも・・・」
ミスズが遮る。
「だったら、そこの何もしてないオバさんにやらせたらどう?いいでしょ?」
オバさん、オバさんって・・・アンタは!!
ただ、何もしていないのは事実なので、これは受けることにした。
「分かりました。やります」
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