34 修行 3
転移スポットを使用して、ダンジョンから脱出した。
ダンジョンの入口には、更に人が増えていた。そこには多くの記者がいて、ケアルさんと南ギルドのギルマスのシャイナさんもいた。その周りには、フルボッコにされて、倒れている覆面集団がいた。ちょっと異様な光景だ。
すぐにケアルさんが、声を掛けて来た。
「ご無事で何よりです。後1時間しても帰還しないようなら、捜索隊を編成しようと思っていたんですよ」
私はケアルさんにドロップした魔石などを手渡した。
「何とか10階層のメタリックゴーレムを討伐しました。これがその時ドロップした魔石です。そして、こちらが2階層の宝箱の中から見付けた魔石です」
これには、どよめきが起きた。
「メタリックゴーレムを倒しただって!?」
「どうやって宝箱の中から魔石を取り出したんだ!?」
「7階層のトラップは一流の斥候でも、解除は難しいんだぞ」
7階層のトラップ?
あれか・・・火炎放射器のやつか・・・私には全く関係なかったけどね。
すぐに記者たちが群がって来た。
「冒険者タイムズのロンと言います。インタビューをさせてください」
「私はダンジョン通信のリリアナです。是非独占取材を!!」
「冒険者ポストでは・・・」
私たちが戸惑っていると、ケアルさんが間に入ってくれた。
「取材は後日、記者会見という形でさせてもらいます。本日のところは、お帰りください。彼女たちも、疲れてますので、どうかご配慮を!!」
記者たちは、文句を言っていたが、何とか解散してくれた。
少し落ち着いたところで、シャイナさんが頭を下げてきた。
「本当に申し訳ない。私としては、一緒にダンジョンに入り、きちんと案内することを指示していたのだが、この馬鹿どもが勝手に嫌がらせをしたんだ。このとおり、こちらで折檻はしておいた。もちろん謝罪だけでは、足りないのは分かる。慰謝料も支払う」
それで彼らは倒れていたのか・・・
「分かりました。それではまず、ミウとダクラを差別したことを謝罪させてください。慰謝料については、特に必要はありません。どうしてもというのなら、ケアルさんと相談してください」
フルボッコになっている覆面集団から謝罪を受けた後、私たちは北ギルドに帰還した。
★★★
私たちは一躍時の人となった。
新聞の号外も配られた。というのも、斥候なしで「南の塔」の10階層を攻略した初めてのパーティーになったからだ。この影響は大きかった。
順を追って説明すると、まず記者会見には多くの記者が詰めかけた。
北ギルドでは、記者全てを収容することができなかったので、不本意ながらマクミラン出版の本社で行った。アンさんが裏で根回しをしてくれたようで、大きなトラブルは起きなかったのだが、各社一斉に北ギルド以外のギルドをこき下ろす記事を掲載していた。
何となくだが、アンさんは冒険者やギルドに対して、恨みをもっているのではないかと思ってしまう。
各社一斉に記事を掲載したことで、依頼がやりにくくなった。
依頼と言ってもスライムの駆除なのだが、私たちが作業を開始すると人だかりができてしまう。これに目を付けた商人たちが、近くで屋台営業を始めたりして、毎回お祭り状態だ。
それに最近では、スライムの駆除依頼自体が減ってしまった。他の冒険者パーティーも積極的にスライムの駆除をするようになったからだ。アンさんに聞いたところ、スライムの駆除に強くなる秘訣があると、冒険者の間で噂になっているようだった。
スライムの駆除というよりは、スキルを使い続けることに意味があるんだけどね。
スライムの駆除が大好きというわけではないし、依頼が減ったところで、特に困ることはない。
また、密着取材も増えた。
アンさんを中心に記者が何人も張り付く日も多い。記者のほうから、要望もある。
「普段のトレーニングを見せてもらえませんか?」
確かにトレーニングはしているが、見せられるものではない。
ジョギングを少々と、ちょっとした筋トレ、健康維持程度のものだ。最近、腹筋が20回できるようになった。自分で自分を褒めたくなるが、世間一般ではそう思われないだろう。
ミウとダクラはというと、かなり調子に乗っている。
ミウは特大魔法を連発し、ダクラは正確な狙撃を行う。記者も大いに盛り上がる。
私はというと、戦闘力の低さがバレないように、座禅の姿勢になって「鋼鉄化」を発動する。意外にこれはウケがよかった。
「聖女様は凄いな。微動だにしない」
「やはり、心の強さが大事なんだろう」
まあ、そんな日々を過ごしている内にダンジョンバトルまで、2週間を切った。
私たちは、早めに現地入りすることにした。シュルト山近辺で活動しているノーリたちと合流し、連携を強化するためだ。連携といっても、どれくらい荷物を持って行くとか、夜営のシフトをどうするとかだけど・・・
村ではいつもどおり、熱烈な歓迎を受けた。
宴会の席にノーリがやってきた。
表情からして深刻な感じがする。
「実はライトルとトールが落ち込んでしまっているッス。できればアドバイスをもらいたいッス」
詳しく聞くと、今回のダンジョンバトルに臨むパーティーの一部は、既に現地入りしており、そのパーティーに模擬戦をお願いしたところ、フルボッコにされたそうだ。
「ライトルはライトボールしか使えないし、トールなんて、そもそも攻撃手段がないッス。それで、もう引退するとか言い出して・・・」
「仕方ないニャ。ノーリたちのパーティーは、模擬戦には向かないニャ」
「早めに魔物を発見し、奇襲で仕留めることしかやっていないからな。だが、それが悪いわけではない。今のままでも、普通に冒険者としてやっていけるだろ?」
「それはそうなんスけど、ライトルもトールも実力の割に、上昇思考が強いんス。それに最近は調子に乗っていたんで、特に落ち込んでい入るッス」
ダンジョンバトルのことだけを考えれば、ライトルとトールには是非来てほしい。
ライトルの光魔法は、薄暗いダンジョンでは効果はあるし、トールの鼻も重宝するだろう。
「とりあえず、ダンジョンバトルまで、できることをやりましょう。明日にでも二人を連れて来て」
こうして、ノーリたちを指導することが決まったのだった。
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