32 修行
ギルマスたちとの会合の後、私はミウとダクラに相談した。
「ダンジョンって、入ったことないんだけど・・・」
「アオイは異世界人だから、当然だニャ」
「だったら、試しにダンジョンに入ってみるか?」
すぐにケアルさんに相談する。
「だったら、南ギルドに話を通しておきますよ。アオイさんたちは、まだ南ギルドに行ったことがなかったですよね?」
「そうですね。でもちょっと怖いです」
「大丈夫ですよ。本当のギルドは、まともな場所にありますから」
次の日、私たちは南ギルドを訪ねた。
南ギルドは、南区の高級住宅街にある商店の3階にあった。1階の店舗で、「斥候がいないとパーティーが成り立たない」という謎の合言葉を言うと、案内された。
すぐにギルマスのシャイナさんが応対してくれた。
「話は聞いている。パーティーでダンジョンに挑戦するのは、初めてらしいね?」
「そうです」
「いくら戦闘力が高くても、ダンジョンは別物だ。斥候がいないと、攻略は厳しい。Bランクならせめて、10階層に到達できないと、恥ずかしいぞ」
「そうなんですね・・・」
「まあ、ダンジョンの洗礼を浴びるといい。今回は特別に入場料は無料にしてあげるよ」
★★★
3日後、私たちは指定された「南の塔」にやって来た。
「南の塔」は塔型のダンジョンで、やけにトラップや迷路が多いらしく、冒険者泣かせらしい。攻略に臨むパーティーは、こっそりと南ギルドに所属する斥候を臨時でパーティーに加入させるのが、一般的らしい。
そんなことは知らない私たちは、その事実をダンジョンに挑む直前に知らされる。
その知らされた相手はというと・・・
「お久しぶりです、皆さん。皆さんの記事を掲載すると、売れ行きがいいんですよ。だから、今回も取材で来ました」
アンさんだった。
というか、どこから情報を仕入れたんだ?
文句を言いたいことは、山程あるけど、愛想笑いを浮かべて、取材を受ける。敵対して、あることないこと書かれても嫌だしね。
「トラップの解除なんかは、誰が担当されるんですか?」
「トラップですか?えっと・・・みんなで協力して・・・」
「迷路対策は?」
「か、勘で・・・」
「かなり荷物が少ないようですが、何か理由があるのでしょうか?」
「それなりに準備はしてきましたが・・・」
取材を受けて、私たちは圧倒的に準備が足りないことに気付いた。
ミウとダクラもダンジョンに挑戦したことはあるが、帝国軍にいた時に研修で入った程度らしい。ダンジョン攻略の基本を知っているメンバーが誰もいないという驚愕の事実が判明する。
「失礼を承知で言いますが、このままダンジョンに入るのは危険です。少し確認を取らせてください」
「お願いします。アンさんと話して、私たちは準備が圧倒的に足りないと分かりました。場合によっては、ダンジョン攻略を諦めようと思います」
アンさんは、カバンから水晶玉のような魔道具を取り出した。
その魔道具は通信の魔道具で、誰かと連絡を取り合っているようだった。
「そ、それは本当ですか!?分かりました・・・アオイさんにはその旨を伝えます」
アンさんが言うには、ケアルさんが南ギルドに話を通した時、初心者なので、経験豊富な斥候を派遣してくれるという話になっていたという。だから、ケアルさんは私たちの準備が足りなくても、何も言わなかったようだ。今の状況を知っていたら、冒険者思いのケアルさんが、ダンジョン攻略を認めなかっただろう。
「これは嵌められましたね」
「そうみたいですね・・・」
「腹が立つニャ」
「だが、準備が足りなかったこちらにも落ち度はある。引き返してもいいと思うぞ」
「記者としての勘ですが、やはり今回は中止したほうがいいかもしれませんね。何か陰謀めいたものを感じます。それにしても、卑怯で最低です。このことは来月の「月刊冒険者パーティー」で断罪してやりますよ」
これは三人で、必死に止めた。
また余計なトラブルに巻き込まれても嫌だしね・・・
そんな話をしていたところ、覆面をした集団が現れた。南ギルドに所属する冒険者のようだった。
「なんだ?帰るのか?」
「そりゃあ、そうだろう。臭い獣と耳長には、無理な話だ」
「臭い獣と耳長は、ドブ掃除でもやってろよ」
「臭い獣」は獣人を蔑む言葉で、「耳長」はエルフやダークエルフを差別する言葉だ。
私のことは別に馬鹿にされてもいいけど、親友で同志でもある二人が差別されるのは許せない。
「土下座して頼んだら、一緒に入ってやってもいいぞ」
これには、流石にキレた。
気付いたら、大声で怒鳴っていた。
「何を言っているのよ!!アンタたちがいなくても、こんなダンジョンなんて、軽く攻略してあげるわよ。10階層くらい余裕よ」
「ほう・・・後悔することになっても、知らないぞ」
私は勢いに任せてダンジョンに入った。
ミウとダクラも続く。後ろからアンさんの叫ぶ声が聞こえる。
「アオイさん!!落ち着いてください!!これも何かの陰謀です!!」
ダンジョンに入ったら、少し冷静になった。
ミウとダクラが声を掛けてくる。
「アオイ、何か作戦はあるのかニャ?」
「うむ、圧倒的に準備は足りないだろ?」
「作戦なんてないわ。ミウとダクラが馬鹿にされて、腹が立っただけよ」
「アオイが怒ってくれたのは嬉しいけど、結構ヤバい状況だニャ」
「うむ、ダンジョンは戦闘だけじゃないし、私たちもトラップを解除するスキルはない」
少し、考えて言った。
「じゃあ、しばらくダンジョンの中で時間を潰して、アイツらがいなくなったら帰るのはどう?」
ミウとダクラは絶句していた。
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