22 冒険者活動再開
冒険者活動をブレダムで再開した私たちは、どんどんと依頼をこなしていった。
ほとんどが討伐と呼ばれない類の依頼ばかりだ。その一つがホーンラビットの駆除だ。ホーンラビットは、普通の兎の倍くらいの大きさで、大きな角が特徴的だ。スライムと並んで駆除と呼ばれる魔物で、こちらは郊外に多く出現し、畑の作物を食い荒らすので、スライムよりも嫌われている。
私たちの仕事の7割は、スライムとホーンラビットの駆除なのだ。
ギルマスは大喜びだった。
「実は、貴方たちの活躍で、冒険者ギルド総本部から表彰を受けましてね。補助金を増額してくれることになったんですよ。貴方たちにも何か報酬を出さないといけませんね。ただ金銭的には、まだまだ厳しいので、金銭以外の報酬だと有難いのですが・・・」
私は言った。
「そちらのマーサさんに指導を受けたいのです。特にパンチの打ち方を・・・」
マーサさんが言う。
「仕方ないねえ・・・見るだけは見てあげるよ」
裏庭に移動して、打ち込み台にパンチを打ち込む。
北ギルドには、訓練所なんて立派なものはない。なので、裏庭のちょっとしたスペースで指導を受ける。
「言っちゃ悪いけど、センスの欠片も感じられないね。その実力でBランクというのが、信じられないよ」
酷い言われようだ。
「身体強化魔法も使えない。センスもないじゃねえ・・・」
「そこを何とかなりませんか?どうしても倒したい魔物がいるんです」
マーサさんは考え込む。
「とにかく体重を乗せるんだ。それとスピードだね。そこを強化していけば、多少威力は上がるだろうけど・・・」
物理の授業で、質量が大きくなればなるほど、またスピードが速くなればなるほど、運動エネルギーは増加すると習ったのを思い出した。重くするならスキルでできるし、スピードは・・・
「ハイパー聖女パンチ!!」
極限まで軽くした状態でパンチを放ち、当たる直前で、重さを最大にする。マーサさんに習ったパンチの打ち方もある程度効果を発揮したことで、信じられない威力が出た。打ち込み台を粉砕してしまった。
「威力は十分だね。後は、基本的な戦い方を覚えなくちゃね。それはそうと、何の魔物と戦うんだい?」
「そ、それは・・・」
私は今、宿命のライバルと対峙している。
一般的にはホーンラビットと呼ばれる魔物だ。スライムを倒せたのだから、コイツもと思っていたが、意外に素早いし、私のパンチも躱してくる。私も自分の実力は客観的に見られるほうだ。他の魔物には勝てないが、コイツなら何とかなると思い特訓を重ねていたのだ。
突進して来たホーンラビットを「鋼鉄化」のスキルで受け止め、必殺のパンチを叩き込む。
「ハイパー聖女パンチ!!」
一撃でノックアウトした。
記念すべき、二種類目の自力魔物討伐の瞬間だった。しかし次の瞬間、ミウの特大魔法が飛んできて、あっという間に群れは殲滅された。
私の戦いって、意味なかったんかい!!
ミウとダクラが慰めてくれる。
「いつかきっと、役に立つときがくるニャ」
「そうだ。それに以前よりも、威力が増しているしな」
そうだよね・・・最初に比べたら、攻撃できるだけでも、成長したと思おう。
★★★
ある日、私たちに指名依頼が舞い込んだ。
北ギルドの依頼の特徴は、簡単だけど誰もやりたがらない依頼か、面倒なうえに報酬が低い依頼に大別される。
今回の依頼は後者だ。
北ギルドに所属する冒険者は実力に難がある者が多いので、必然的にこういった依頼が未処理となって残っていく。その処理をさせられるというわけだ。
ギルマスから説明があった。
「ここから2日程北に行ったシュルト山で、ボンバーロックが大量発生しているんです。その駆除をお願いしたいのです」
ボンバーロック?
「爆発する岩のことだニャ。誰もやりたがらないニャ」
「うむ・・・無駄に硬いし、数も多い。素材も取れない。そして、一定以上のダメージを与えると自爆する。冒険者には人気がない魔物だな」
「ですが、依頼者は本当に困っているんです。シュルト山は鉱山資源だけでなく、薬草やキノコ類も豊富に採取できます。近年では放牧にも力を入れており、一刻も早い解決が望まれるのです」
ダクラが冷静に言う。
「だったら、他の3つのギルドに頼めばよかったのではないのか?」
「それがそうもいかないのです。これはプレダム特有の事情なのですが・・・」
ギルマスが言うには、この町にいる冒険者の多くは、冒険者ランクを上げることや名声を高めることしか考えてないという。なので、ダンジョンに積極的に潜り、こんな割に合わない依頼には見向きもしないという。
「ボンバーロックを討伐するには、それなりの経験が必要になります。冒険者ランクでいうとCランク以上は必要ですね。ただ、Cランクのパーティーは早く、上位ランクであるBランクに昇格しようと必死で、こんな依頼は受けてくれません。当然、上位ランクのパーティーもね・・・」
やはりこの町も何か歪だ。
何のための冒険者かをみんな忘れている気がする。
「私は受けようと思うんだけど、ミウとダクラはどう思う?」
「いいと思うニャ」
「ああ。それにアオイには打って付けの魔物だからな」
私に?
その意味はすぐに分かることになった。
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