20 ブレダムの闇
私は、ギルマスに応対が終るまで待つ旨を伝えた。
「分かりました。少しお時間をもらうようになりますよ」
「構いません」
ギルマスは、ドワーフの少女に向き直り、話を聞き始めた。
このドワーフの少女はノーリという少女で、「剛力」というジョブ持ちだった。規格外のパワーを持っているが、かなり不器用で、組んでくれるパーティーメンバーもいなかったという。そんな時、東ギルドに所属する重装歩兵隊の隊長にスカウトされ、重装歩兵隊に入隊することになったようだ。
「みんな同じ鎧を身に付け、大きな楯と槍を手に、集団で戦うッス。右手に槍を持ち、左手に持った楯で、自分と自分の左隣の仲間を守るッス。後は隊長の指示通りに動いていれば、それでいいッス。不器用な私には、いい環境だったんッスけど・・・」
ノーリが言うには、火トカゲの群れの討伐を行ったとき、ファイヤーブレスを受け続けたという。
ノーリは三列ある内の最前列に位置して、他の隊員が火傷で交代する中、最後の最後までファイヤーブレスを受け続けたそうだ。本人曰く、最大の功労者はブレスを受け続けたノーリらしい。しかし、その代償は大きかった。
「楯を持っていた左手が焼けただれ、それ以後、楯が握れなくなったッス・・・頑張ってリハビリしても、以前のようには・・・」
話を聞いていたミウが怒鳴る。
「酷すぎるニャ!!頑張って怪我をしたノーリを追放するなんて、あり得ないニャ!!」
「ミウ!!私たちは部外者だから・・・」
ノーリが言う。
「私のために怒ってくれて、有難いッス・・・」
ギルマスが言う。
「この町では日常的なことです。冒険者を使い捨てにして・・・僕だって、マーサだって・・・」
受付嬢が怒鳴る。
「私の話はいいよ!!早くこの子の話を聞いてやんなよ。私は少し、休憩するよ・・・」
そう言うと、受付嬢は足を引きずりながら、休憩室に入って行った。
「僕が冒険者を辞めたのも、マーサのことが原因です。僕とマーサは同じパーティーでした。Aランクに上がって調子に乗っていた僕たちでしたが、エースアタッカーだったマーサが大怪我を負ってしまいましてね。それからは酷かった・・・あっという間にCランクに降格されました。マーサも落ち込んでしまって・・・ああ見えて、超一流の「拳闘士」だったんですよ」
ギルマスも当初は、大怪我をしたり、不遇な扱いを受けている低ランクの冒険者に対して、「そういうものだ。実力がないから仕方ない」と思っていたそうだ。しかし、いざ自分たちの身に降りかかると、夢半ばで、この町を去って行った冒険者の気持ちがよく分かったという。
「このギルドも当初は、他のギルドを追放された者たちの再起をかける場所にしようと思って設立したんですが、今では夢を諦めてもらう場所になってしまっているんです」
一同が暗い雰囲気になる。
「ところで、私の左手は治るんスか?」
「難しいですね・・・治療とリハビリを続ければ、元には戻るでしょうが、それでも年単位の時間が必要です」
「そ、そんな・・・それじゃあ、部隊に戻れないッス・・・」
ギルマスは、少し考えて言った。
「ノーリさん、いい機会ですので、他の仕事を考えてみてはどうでしょうか?このギルドに所属し、治療をしながら、簡単な依頼をこなす。それに併せて、他の仕事を・・・」
「もういいッス!!失礼するッス」
ドワーフの少女は出て行ってしまった。
「実は東ギルドのギルマスから連絡がありましてね。東ギルドが治療費は全額負担するとね・・・彼女が戻るとしたら、東ギルドでしょう。東ギルドのギルマスに説得され、明日にでも、また来ると思いますよ」
話が途切れたところで、私はこの町の情報を聞こうと声を掛けようとした。
しかし、また来客があった。今度は西ギルドから契約解除された少年魔導士だった。
「今日はお客さんが多いなあ・・・すみませんね」
「いえいえ・・・待ちますよ」
少年魔導士はライトルといい、光魔法しか使えないようだった。
こちらは、怪我とかではなく、単純に実力不足のようだ。
「西ギルドからの紹介状によりますと、光を発するだけの魔法しか使えないとのことでしたが・・・」
「そうだけど・・・ダンジョンの探索なんかでは・・・」
「なるほど・・・西ギルドでは、光を発する魔道具を大量に配備したから、契約解除に・・・」
「そうなんだ。酷いでしょ?」
ギルマスは言う。
「紹介状によると、素晴らしい才能の持ち主のようですね。明日また来てください。期待してますよ」
「ほ、本当に!?すぐにAランクになってやるよ」
少年は大喜びで、ギルドを出て行った。
「これも紹介状に書いてあったのですが、『魔道士としての大成は望めないから、上手く言い含めて、サポーター職の技能を身に着けさせてほしい』とのことでした。本人は一流の魔導士になるつもりのようですがね・・・」
少し落ち着いたと思ったところで、今度はコボルトの少年がやって来た。
「た、助けてください・・・こ、殺される・・・」
今度は一体何なんだ?
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