19 ギルド選び
私たちは東ギルドにやって来た。
ここでも、ギルドカードを提示するとギルマスが応対してくれる。ギルマスは筋骨隆々の暑苦しいおっさんだった。
「ギルマスのナダルだ。ほう・・・聖女に魔導士に弓使いか・・・明日からでも、来てほしいくらいだ。具体的な運用だが・・・」
ギルマスの話を聞いて、私たち三人は青ざめた。
「ウチは近接戦闘がメインのパーティーが多いし、傭兵稼業もやっている。どのパーティーも部隊も魔導士や回復術師、それにサポートができる弓使いは不足しているんだ。だからパーティーや部隊のサポートをメインに個人単位で活動してもうらおうと思っている。パーティーとしての活動は減るが、その分、個人の出来高で評価する。報酬は弾むぞ」
私たち三人は、今でこそBランクの冒険者パーティーとして、それなりの評価を受けているが、一人一人のスキルや魔法は、大きな欠陥を抱えている。ミウは高威力の魔法は撃てるが、コントロールは最悪だし、ダクラは対象に矢を当てること以外に興味はない。そもそもサポートをする気もない。
そして私だが、体を鋼鉄のように固くするしか能がない。ギルマスの口ぶりでは、私を回復術師か何かと勘違いしている節がある。ギルマスの構想のとおりに運用されたら、1日でお払い箱だろう。
「ちょ、ちょっと検討してみるニャ・・・」
「あ、ああ・・・そうだな・・・いいギルドだとは思うのだが・・・」
ミウとダクラも、そのことは十分理解しているようで、「このギルドは絶対にない」と、心の中で思っているようだ。
ギルマスに「少し検討する」旨を告げて、ギルドを出ることにした。
ギルドを出ようとしたところで、全身鎧を着こんだ集団が揉めていた。重装歩兵部隊のようで、隊長クラスの男が、小柄なドワーフの少女と口論をしていた。ドワーフの少女は、左手が不自由なようだ。
「ノーリ!!その左手では無理だ。部隊を抜けてもらう」
「私の槍捌きは、右手一本でもなんとかなるッス!!」
「個人ならばそうだろう。だが、部隊としては無理だ。楯を構え、隣の味方を守れんだろう?」
「そ、それはそうッスけど・・・」
「気の毒だが・・・」
ドワーフの少女は泣き崩れる。
話を聞く限り、少し前の戦闘で左手を負傷し、それから左手が不自由になったようだった。
「これから、私はどうすればいいんスか?」
「ギルマスには話を通してある。Fランクからだが、冒険者として北ギルドが、契約してくれることになっている」
「Fランクって・・・それはあんまりッス」
「その左手では仕方がない。努力すれば、きっと這い上がれる・・・」
ドワーフの少女は、うなだれて、ギルドを出て行ってしまった。
「同じような光景を見たような気がするニャ」
「私もだ」
東ギルドを出た私たちは、南ギルドに向かった。
「やめよう」
「やめるニャ」
「論外だな・・・」
南ギルドの建物を見た瞬間に私たちは、同じような言葉をつぶやいた。
南ギルドはスラム街にあり、建物の周りには、如何にも怪しそうな連中が大勢たむろしていた。どう見ても、希望に燃えた冒険者が来るような所ではなさそうだ。
ダクラが言う。
「後ろ暗い奴やそういった思想を持っている者以外を近付けさせない意図があるのだろうな。私たちが合うはずがない」
「同感だね。というか、この付近から早く離れたいわ」
「私もそう思うニャ。臭いもヤバいニャ」
★★★
一応、見るだけ見てみようという話になり、私たちは北ギルドを訪れた。
見るからにお金が無さそうだ。建物もボロボロだ。中に入ると、活気はなく閑散としている。冒険者はいるにはいるが、怪我人が目立つ。四肢の欠損がある者も数人いた。
受付に行くと、中年の受付嬢が言った。
「新入りかい?訳アリかい?あるなら、ギルドカードを出しな」
私たちはギルドカードを提示した。受付嬢は驚愕の表情を浮かべる。
「Bランクって!?アンタら、ここがどういうギルドか分かっているのかい?」
「ブレダムには最近来ました。所属するギルドを探すために、各ギルドを周らせてもらっているのです」
「ちょっと待ちなよ。すぐにギルマスを呼ぶからね。オーイ!!ギルマス!!大変だ、すぐに来てくれ!!」
カウンターの奥から現れたのは、くたびれた中年の男だった。
如何にもうだつが上がらなさそうだった。
「ギルマスのケアルです。えっと・・・ここがどういうギルドかをまず説明しますね。貴方たちのような将来有望なパーティーが来るところではないと分かりますからね」
ギルマスの話を説明を聞く。
噂通り、北ギルドは掃き溜めのようだった。
「このギルドは、他のギルドと設置目的自体が違うんですよ。一言で言えば、夢を諦めてもらう施設ですね・・・」
このギルドに所属しているのは、他のギルドをお払い箱になった者がほとんどだという。理由は様々で、怪我や単純な実力不足、人間関係のトラブルなどらしい。そのような者たちを集め、次の就職先が見付かるまで、面倒を見るのが、メイン業務のようだった。
「私はこう見えて、元Aランクの回復術師です。四肢の欠損までは治療できませんが、ある程度の治療はできます。このギルドで怪我を治し、生活できるだけの資金を稼いでいる間に他の仕事の斡旋を行います。町から補助金が出ていますので、何とかやって来れているんです」
冒険者崩れが犯罪者になることは、よくある話だ。
そうなるよりは、一箇所に集めて就職などを支援したほうがいいと考えたのだろう。
「だから、貴方たちのような新進気鋭の冒険者パーティーが所属するようなギルドではないのです。怪我をしたりして、他のギルドでお払い箱になれば、ここに来ることもあるでしょうが・・・」
私たち三人は顔を見合せた。
「この町って、冒険者の町だけど、まともなギルドがないわよね?」
「そうだニャ・・・西ギルドが一番マシかもしれないニャ」
「この町を出るという選択肢もあるぞ」
そんな話をしていたとき、ドワーフの少女がギルドに入って来た。東ギルドで揉めていたドワーフの少女だ。
「ここに所属すると、治療もしてもらえると聞いたッス。お願いするッス」
「すみませんね。こちらの方の対応を優先しますので・・・」
ギルマスは、ドワーフの少女と応対を始めてしまった。
「終わるまで、待ちましょうか?このギルマスなら、この町の詳しい事情なんかを教えてくれそうだし」
「そうするニャ」
「構わんぞ」
私たちは、ギルマスとドワーフの少女とのやり取りが終わるまで、待つことにしたのだった。
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