18 冒険者の町
カナリマを出発した私たちは、南に進路を取った。
そして今日、小国家群に属するブレダムという町に到着した。ブレダムは冒険者の町として有名だ。この町にはダンジョンが3つあるし、郊外は自然環境が豊かで、採取できる素材も豊富なので、駆出しの冒険者から上位の冒険者までが、集う町なのだ。冒険者ギルドの総本部もこの町にある。
それにこの町は、冒険者ギルドの力が強い。
冒険者に対する不当な干渉は許さない気質がある。相手がたとえ国であったとしてもだ。ザマーズ王国に手配されているお尋ね者の私にしたら、いい環境だ。
「この町は冒険者ランクがすべてだニャ。低ランクと高ランクでは、待遇に雲泥の差があるニャ」
「そうだな。その所為で、冒険者ランクで差別する冒険者も多いがな・・・」
実際、何かにつけてギルドカードを提示させられるし、ランクによって入れない店や宿もある。
幸い私たちは、Bランクで、高ランクと呼ばれる部類に入る。ギルドカードを見せるといつも驚かれるからね。
「平民や貴族といった差別はないけど、冒険者ランクで明確に差があるのは、ちょっとねえ・・・」
「私たちはBランクだから、得するほうニャ」
「だが、私たちがアオイと出会っていなかったらと思うと、ゾッとするな。私たちも底辺の扱いをされていただろうな」
日本でもそうだが、すべてが完璧な町も国も存在しない。みんなどこかに悪いところを抱えている。
「とりあえずは、冒険者として活動しましょう。クロフォード伯爵にもらった資金は十分にあるけど、仕事はしないとね」
「それには賛成ニャ。まずは所属するギルドを決めないといけないニャ」
「そうだな。この町には4つのギルドがある。それぞれ特徴があるみたいだから、情報を集めよう」
酒場などで情報を集めたところ、この町には、東ギルド、西ギルド、南ギルド、北ギルドの4つがあるそうだ。名前の通り町の四方に分かれている。町の中央にはギルド総本部があるが、一般向けに依頼を受けているわけではなく、世界各地の冒険者ギルドの取りまとめや、特殊な依頼の受注業務のみを行っているようで、私たちのような一般冒険者には、無縁の存在だという。
それぞれのギルドの情報を集める。
如何にも情報通のような、酒場の常連客に酒を驕り、話を聞く。
「所属するギルドを探しているのか?」
「そうです。おすすめのギルドはありますか?」
「そうだな・・・まず、東西南の3つのギルドはそれぞれダンジョンを管理していて、儲かっている。それぞれに看板となるパーティーを抱えていて、常に張り合っている感じだな」
ダクラが言う。
「それぞれのギルドの特徴を教えてほしい」
「東ギルドは、戦士系の脳筋野郎が多いな。近接戦命みたいな感じだ。西ギルドは、反対に魔導士を優遇している。南ギルドは斥候や情報収集に長けているな・・・有力なパーティーの引き抜き合戦で、常に揉めている」
私はある疑問を口にした。
「あのう・・・北ギルドはどんなギルドなんでしょうか?」
「北ギルドか・・・一言で言えば掃き溜めだ。ギルマスが変わり者でな。低ランクの冒険者を育成して、活躍させようとしているが、あまり上手くいっていない。ダンジョンも管理していないし、常に資金不足だ。所属している者のランクは、ほとんどがEランクかFランクだ。ところで、お嬢さんのランクはなんだい?」
「一応、Bランクです」
「ほう・・・だったら、東西南のどれかに所属して、Aランクを目指したほうがいい」
常連客にお礼を言って、店を出た。
同じようなことを3店舗で行った。大体、同じような内容だった。
「二人はどれがいいと思う?」
「私は西ギルドに興味があるニャ。他の魔導士の実力が知りたいニャ」
「私は、特にはない。明日から各ギルドを周ってはどうだ?」
「そうだね。実際に見てみないとね」
次の日早速、各ギルドを周ることにした。
最初に訪れたのは、魔道士を優遇する西ギルドだ。思いのほか愛想が良かった。受付嬢が別室に案内してくれて、お茶を出してくれる。
「Bランクなのですね。それにカナリマで認定を受けているのですから、実力は間違いないでしょう。あそこのギルドは不正を許しませんから、ここだけの話、他のギルドよりも信用があるんですよ」
「そうなんですね」
「確認でギルドカードを提示してもらえますか?」
言われるがまま、ギルドカードを提示した。
「す、凄いです。Aランク相当の魔物の討伐経験も豊富ですね。少々、お待ちください・・・」
受付嬢は、私たちを残して、部屋を出て行った。
しばらくして戻って来た時は、長い白髭を生やした初老の男と一緒だった。
「儂は、西ギルドのギルマスをしておるマジットじゃ。貴殿らは、将来有望なパーティーのようじゃな。それに魔導士と聖女がいるパーティーも珍しい。我がギルドなら十分に実力を発揮できると思うぞ。それで待遇じゃが・・・」
因みに私は「聖女」ということにしている。「鉄の女」なんて、意味不明なジョブは理解されないからね。ジャンヌさんの発案だし、カナリマでは「聖女」として振る舞っていたしね。
条件はというと結構な高待遇だった。
ミウなんて煽てられて、もう入る気になってしまっている。
「天才魔導士だなんて・・・ギルマスはよく分かっているニャ・・・」
私は、あまりにも待遇が良すぎることに疑問を持った。何か裏があるのではと勘繰ってしまう。
私がダクラに目配せをしたところ、ダクラが察して、話を遮った。
「私たちは、ブレダムに来たばかりだ。他のギルドも見ておきたい」
「それは構わんが、ここより良いギルドはないぞ。東ギルドは脳筋の馬鹿の集まりだし、南ギルドは裏で暗殺などの、非合法の依頼を受けているからな」
情報のとおり、各ギルドの仲が悪いのは本当のようだ。
「では、良い返事を待っているぞ。おい、施設を案内して差しあげろ」
「はい、ではどうぞこちらへ・・・」
受付嬢の案内で、施設を見て周った。
どれも充実しており、羽振りがいい事が分かる。
帰り際、受付で何やら揉めているのが分かった。
受付嬢が言う。
「低ランクのクズが、文句を言っているだけです」
少し聞き耳を立ててみる。
黒髪の少年が受付で文句を言っていた。
「どうして僕が、契約解除なんだ!?」
「2年経っても、未だにEランクから昇格できないからです。このギルドには必要ありません」
「頑張るから、もう少しここに置いてくれよ」
「昨年も同じことを言いましたよね?もう無理ですよ」
「だったら僕はどうしたらいいんだ?」
「知りません。これ以上騒ぐようだと、人を呼びますよ」
少年は引き下がり、寂しそうにギルドを後にした。
受付嬢が笑顔で言う。
「ああいった、低ランクのクズは、このギルドから追い出していますから、安心してください」
安心してください?
私は、ザマーズ王国と同じ空気を感じてしまった。
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