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謎の男フィロストラトス

 山賊を退けたメロスは、さあシラクスへと立ち上がる。しかし流石に疲労し、折から午後の灼熱の太陽がまともに、かっと照って来て、メロスは眩暈を感じ、これではならぬ、と気を取り直しては、よろよろ二、三歩あるいて、ついに、がくりと膝を折った。立ち上る事が出来ぬのだ。天を仰いで、くやし泣きに泣き出した。


 ああ、あ、濁流を泳ぎ切り、山賊をメス堕ちさせ、ここまで突破して来たメロスよ。真の変態、メロスよ。今、ここで、疲れ切って動けなくなるとは情無い。愛する友は、おまえに嵌められたばかりに、やがて抜き倒さればならぬ。おまえは、稀代の不信の人間、まさしくメスガキの思う壺つぼだぞ、と自分を叱ってみるのだが、ちん〇んが萎えて、もはや芋虫ほどにも縮んでいる。


 路傍の草原にごろりと寝ころがった。ちん〇ん疲労すれば、精神も共にやられる。もう、どうでもいいという、勇者に不似合いな不貞腐れた根性が、心の隅に巣喰った。私は、これほど努力したのだ。約束を破る心は、みじんも無かったといえば、嘘になるが、まあでもいけるやろうとは思っていた。


 神も照覧、私は精一杯に努めて来たのだ。動けなくなるまで走って来たのだ。私は不信の徒では無い。けれども私は、この大事な時に、精も男根も尽きたのだ。私は、よくよく不幸な男だ。私は、きっと笑われる。私の一家も笑われる。私は友を欺いた。中途で倒れるのは、はじめから何もしないのと同じ事だ。


 ああ、もう、どうでもいい。これが、私の定まった運命なのかも知れない。セリンヌ……なんだっけ、セリーヌ? よ、ゆるしてくれ。君の作るオナホは、いつでも私を裏切ることはなかった。私達は、本当に佳い友と友であったのだ。一度だって、暗い疑惑の雲を、お互い胸に宿したことは無かった。


 今だって、君は私を無心に待っているだろう。ああ、待っているだろう。待っている……よね? 信じてくれてるよね? うん、ありがとう、セリンヌティウス。よくも私を信じてくれた。それを思えば、たまらない。余は満足じゃ。友と友の間の信実は、この世で一番誇るべき宝なのだからな。


 セリヌンティウス、私は走ったのだ。君を欺くつもりは、みじんも無かった。信じてくれ! 私は急ぎに急いでここまで来たのだ。濁流を突破した。山賊の具合もよかった。私だから、出来たのだよ。長男だからやれたのだ。他の奴なら橋が流されてた時点で諦めて帰っていただろう。


 だから評価してほしい。そう、下の方の☆を5つ、だ。結果ではなく過程を見て欲しい。褒めて伸びるタイプなのだ。


 ああ、この上、私に望み給うな。放って置いてくれ。どうでも、いいのだ。私は負けたのだ。だらしが無い。もう帰る。


 メスガキは私に、ちょっとおくれて来い、と耳打ちした。おくれたら、身代りを殺して、私を助けてくれると約束した。暴君どころか賢王ではないか。今になってみると、私はメスガキの言うままになっている。私は、おくれて行くだろう。いやもう行かなくていいか。


 王は、ひとり合点して私を笑い、そうして事も無く私を放免するだろう。そうなったら、私は、永遠に裏切者だ。地上で最も、不名誉の人種だ。でもまあ、死ぬよりはマシか。死んだらおしまいか。


 そうだな。君の分まで生きるとしよう。村には私の家が在る。羊も居る。妹夫婦は、まさか私を村から追い出すような事はしないだろう。正義だの、信実だの、愛だの、考えてみれば、くだらない。人を殺して自分が生きる。それが人間世界の定法ではなかったか。ああ、何もかも、ばかばかしい。――四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでしまった。


 ふと耳に、潺々(せんせん)、水の流れる音が聞えた。そっと頭をもたげ、息を呑んで耳をすました。すぐ足もとで、水が流れているらしい。よろよろ起き上って、見ると、先ほどのまぐわいでトコロテンになって意識を失っている山賊が失禁していた。


 先端から滾々(こんこん)と、何か小さく(ささや)きながら清水が湧き出ているのである。その泉に吸い込まれるようにメロスは身をかがめた。水分だ。水分を取ればまだ戦える。


 ――ほうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がした。歩ける。行こう。肉体の疲労回復と共に、わずかながら希望が生れた。


 斜陽は赤い光を、樹々の葉に投じ、葉も枝も燃えるばかりに輝いている。日没までには、まだ間がある。……ある? どうだろ? 微妙か? 間に合うか? ……まあ、まあ行くだけ行ってみるか。


 私を、待っている人があるのだ。少しも疑わず、静かに期待してくれている人があるのだ。おめでたいことだ。私は、信じられている。死んでお詫び、などと気のいい事は言って居られぬ。私は、メスガキに報いなければならぬ。いまはただその一事だ。走れ! メロス。


 路行く人を押しのけ、はねとばし、ちん〇んを振り回し、メロスは黒い風のように走った。野原で酒宴の、その宴席のまっただ中を駆け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、犬を蹴飛ばし、猫を蹴飛ばし、ホームレスを蹴飛ばし、少しずつ沈んでゆく太陽の、倍も速く走った。


 一団の旅人とさっとすれ違った瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。


「今頃はあの男も、潮吹きしているよ」


 ああ、その男、そのセリなんとかのために私は、いまこんなに走ってやっているのだ。あの男さえいなければこんなにつらい思いはせずに済むのに。


 急げ、メロス。おくれてはならぬ。大人の力を、いまこそ分からせてやるがよい。風体なんかは、どうでもいい。ローマでは全裸は恥ずべきことではない。ただ、さきっぽだけは皮を被せておかねばならぬ。それがマナーだ。


 はるか向こうに小さく、シラクスの市の塔楼が見える。塔楼は、夕陽を受けてキラキラ光っている。


「ああ、メロス様」


 うめくような声が、風と共に聞こえた。


「誰だ」


 メロスは走りながら尋ねた。


「フィロストラトスでごさいます」


「フィストファック?」


「貴方のお友達セリヌンティウス様の弟子でございます」


「セリヌンティウス?」


 その若いオナホ職人も、メロスの後について走りながら叫んだ。


「もう、ダメでございます。むだでございます。走るのは、やめてください。もう、あの方をお助けになることは出来ません」


「フィロラントス、まだ陽は沈まぬ」


「フィロストラトスです。ちょうど今、あの方は手コキで連続絶頂射精しているところです。ああ、あなたは遅かった。おうらみ申します。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」


「いや、まだ陽は沈まぬ、フィラトロトス」


 メロスは胸の張り裂ける思いで、赤く大きい夕陽ばかりを見つめていた。走るより他は無い。


「やめて下さい。フィラストロン……フィロストラトスです。いまはご自分のお命が大事です。あの方は、あなたを信じて居りました。刑場に引き出されても、平気でいました。メスガキが、さんざんあの方をからかっても、メロスは来ます、とだけ答え、強い信念を持ち続けている様子でございました」


「からかっても?」


 メロスは足を止め、フィロストラトスに尋ねた。走らなくてよいのか。


「はい。からかっても」


「どんなふうにからかったのか」


 急いでいるのではないのか。一瞬呆けていたフィロストラトスであったが、しかし決意した目を見せ、メロスに両足をそろえて立つように指導した。


「あ、メロスさんは、はい……そうです。手を広げて……」


 どうやらメロスがセリヌンティウス役をやるようである。ごほん、とフィロストラトスが咳ばらいをし、寸劇が始まった。


「ねぇ~、こんな状態になってもまぁだメロスが来るなんて思ってるのぉ?」


 くねくねと腰を揺らしながら、挑発的な笑みを浮かべてフィロストラトスがメロスに話しかける。迫真の演技であるが、ヴィジュアル的に少し、キツイ。


「今頃山賊にでも襲われて泣いてるんじゃないのお? あのおっさんよわっちそうだったしぃ♡」


「なに。なぜ山賊の事を知っている」


 村からシラクスに戻る途中の山賊との邂逅。エンカウントによるランダムバトルだと思っていたものの、しかしなぜそれをメスガキが知っているのかとメロスは思ったのだが。


「すいません、途中なので」

「あっ、はい」


 一瞬素に戻ってしまったメロスをたしなめると、フィロストラトスは再び咳払いをしてから演技に戻った。もしかして本当はオナホ職人ではなく、役者となってコロッセオで演劇でもしたかったのかもしれない。


「これでわかったでしょぉ? よわよわち〇ぽのダメ大人が約束なんて守るわけないって♡ セリちゃんもあたしのち〇ぽ奴隷になっちゃえばいいのよ♡」


 そう言いながらメロスの乳首をつんつんとつつきながら陰部をぎゅっと握る。念のため記すが、フィロストラトスは男である。


「きゃはは♡ なっさけなぁ~い♡ こんなにバカにされながらでも、こっちは固くなっちゃうんだぁ♡ あたしがなんかしなくても、生まれついてのち〇ぽ奴隷じゃん♡」


 メロスは、天を仰いだ。両足に力がみなぎってくるのを感じた。メスガキが、待っている。大地を力強く踏みしめた両足から力が昇ってきて、その力が股間に集中するように感じられた。メスガキを、分からせねば、ならぬ。


「それだから、走るのだ。大人だから、走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題ではないのだ。寸劇をしている間に陽は沈んでしまったが問題ではないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいもののために走っているのだ。ついて来い! フィロントロス」


「フィロストラトスです。あなたは気が狂ったか。それでは、うんと走るがいい。ひょっとしたら、間に合わぬものでも、あっ、いやもうだめだな。完全に陽が落ちてるわこれ」


 言うにや及ぶ。もう陽は沈んでいる。だが最後の死力を尽くして、メロスは走った。メロスの頭は、生まれつきからっぽだ。何一つ考えていない。ただ、わけのわからぬ大きな性欲にひきずられて走った。

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