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 アカと呼ばれた狐面は、少年の姿をしており、小夜とそう年が変わらないように見えた。

 小夜より少しばかり背は高い。丈のみじかい着物から、薄汚れた、やせぎすな手足がのぞく。その風貌は、村で馴染みの悪がきたちを思い起こさせた。

 しかしもし村で彼を見たなら、怖くて逃げ出していただろうと思う。表情の知れない狐面はあまりに気味が悪く、いまこうしてかがり火の影をうけ、ぼうと突っ立っているだけでじゅうぶん背筋が粟立つのだから。


 場の中心地に、巨大な、あまりにも巨大な金の神輿が鎮座している。その周囲を狐面たちはあわただしく駆け回り、騒然としている。


御寮(ごりょう)にご挨拶されないのですか」

 こちらの視線を感じたのか、だしぬけにアカが言った。

 ぶっきらぼうな口調だが、しかしまさしく少年の声。小夜はとたんに力を得た。

「ねえ、ここは明井(あけい)ではないの」

「明井とはなんです」

 小夜の暮らす村のことだ。

 いぶかしげなアカに、小夜の顔はみるみる青ざめる。

「……ここはどこなの」

「どこでもありません。つまびき(・・・・)が聞こえたら出立する、それだけの場所」

「ど、どこへ行くの」

「峰のてっぺんへ」

「なにをするの」

「御寮をお送りする」

 アカがこちらをまともに向いた。


「――なんだ? ずいぶん、ものを知らない小夜(・・)さま(・・)だな」


 火影をうけた狐の顔。口調が変わり、不審そうに奥の瞳が細められる。

 とたん、小夜の背に悪寒が走った。


 ――異界っていうんじゃないか、ここは。


 ふと直感した。

 “悪いことをすると神隠しにあう”と、よく祖母は言っていた。神隠しにあったら、行ったきり、帰ってこれなくなると。

 その場所が、ここなんじゃないか。

 姉の幸福を願わないから、ここに連れて来られたんじゃないか――。


 逃げなければ、と思い、逃げられないと悟った。小夜の周りには狐面だらけだ。いま走って逃げたとしても、すぐに取り押さえられてしまう――。

 ふいに視界がにじむ。みるみるうちに涙があふれる。声もなく泣きだすと、アカはあからさまにうろたえた。

「おい、なぜ泣くんだ」

 顔をのぞきこむ。小夜がいやいやと首をふるので、さらに苦りきる。仮面をかぶっていても、その気配はありありとつたわってきた。

「子供みたいだな」

 途方に暮れた少年の声で言う。

 小夜の涙が止まらないのを呆然と見届ける()は、ハタと「なるほど」と手をついた。


「ははあ、もしかしておまえ、生まれたばかりなんだろう」


 ひく、と小夜が喉を鳴らす。

「夜の到来を告げに来たはいいが、何をすればいいかわからないんだな。たそがれ(・・・・)に生まれついて、すぐ急かされたんじゃあ、しょうがない。泣きわめくわけだ」

 アカが勝手に得心している。


 嗚咽で何も言えずにいると、ふと()が手をとった。ぎょっとしたが、そこには人の温もりがあり、それで小夜はふり払うことはしなかった。

「案じることはない」とアカは言った。



「おまえは小夜(・・)さまだ。銀月御前(ぎんづきごぜん)が遣わした、夜の先ぶれ。つまり、祝いの先ぶれだ。

 このあと、じきにつまびき(・・・・)が聞こえてくるから、それを合図におれたちは出立する。

 あの神輿――嫁御寮(よめごりょう)をお乗せした神輿をかついで、峰にのぼるんだ。

 峰では銀月御前が待っている。そこで御前と御寮は祝言をあげる」



 びっくりして小夜が見上げると、アカはごくかすかにわらった。

「なかなかお目にかかれない僥倖(ぎょうこう)だ。おれたちは幸運なんだぞ。そんなに泣いていたら祝言を見られない。早く仕舞いな。――それで」

 アカは取った手を軽く引いた。

「嫁御寮にいっしょにご挨拶に行こう。小夜さまが来たことを喜んでくださるよ」



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