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 ことのはじまりは、あの社である。秋も半ば。一年でもっとも豊かな、解放の季節。

 恒例の縁日の日であった。


 いつまでも言うことをきかない、ぐずをこねる小夜を、見かねた祖母が祭へと手を引いてきたのだ。


 刻限はすでに(だいだい)の暮れ時である。提灯のおぼろ明かりのなか、うっすらとふれる風のつめたさを感じ、小夜は鼻を鳴らした。

 しだいに天高くなる深空。

 また寒いばかりで良いことのひとつもない、うんざりする季節がやって来るのだ。

 おまけに今年は、小夜を気にかけかまってくれる相手もいない。まちかまえる退屈な夜長を思うと、先が心底思いやられた。


 間際から耳にいたい、かん高い歓声が鳴りひびく。ふり向けば、歳の頃は十五から二十まで、いまが盛りの精悍な若衆(わかしゅ)らが群がっている。たわむれに、神輿をかつぎ回して力比べをし、ばか騒ぎをしていた。

 村の者達が、往来からもの見高く見物する。祖母も立ち止まって彼らを見た。

「お神輿をあんな粗末に扱って……」

 ぼやきながらも、妙にまぶしげに目を細める。


 ふと若衆のひとりが首をめぐらせ、途端、青ざめて叫んだ。

「おい、逃げろっ」

「この悪餓鬼どもめっ」

 怒声とともに、地響きおこして駆けつけたのは神主だ。悪餓鬼(・・・)たちは奇声をあげて、一斉に蜘蛛の子を散らした。

 この種の悪戯は一度や二度でなかったらしい。怒り狂った神主は、さながら阿修羅のごとく、首すじまで赤くそめ、怨念こもった(まな)つきでしぶとく若衆を追い回す。その様が滑稽で、ほうぼうから笑いがおこった。


「すずっ、かくまって」

 若衆のひとり、草多(そうた)が、姉衆(あねしゅ)たちのもとへもぐりこんだ。

 日に焼けた悪戯小僧の笑顔で、ためらいもなく“すず”と呼ばれた少女の背後に隠れる。

 まわりの少女達からたちまち黄色い歓声がわきおこった。


 姉衆とは、歳の頃は十代から二十代までの、娘たちの集まりのことだ。若衆らとさして年頃は変わらず、落ち着きがないのもまた同様だった。


「草多ったら、あなた達がわるいのでしょうに」

「厳しいなあ、すずは。未来の夫さえかばってくれないつもり」

 またも黄色い歓声があがる。相も変わらないにぎやかさに、小夜はぎゅっと目をとじて、やり過ごそうとした。祖母の手を強く引っ張る。

 その頑とした意思表示に、祖母は小さく苦笑をもらしてまた歩きだした。


 ぎり、ときつく噛みしめていた、小夜の小さな奥歯が鳴る。


 姉――すずは、もうすぐ嫁に行く。

 小夜を大切に愛おしんでくれ、優しい笑顔を向ける彼女が、いけ好かない男のもとへ行ってしまう。


 もう小夜の家に帰ってくることはない。


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