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【エピローグ】 黒の地竜と天竜の娘(3)

 私より先に日本に戻ってきた燈里ちゃんとはずっと連絡を取り合っていた。十五年前、彼女が短大卒業と共にあちらの世界に行く決心をした時も連絡をくれた。ご家族に真実を打ち明けて、尚且つあちらに再度行くことを決意した燈里ちゃんは本当に強い子だと思う。


(私は……、どうなるのかしらね……)


 このまま中々歳を取らずに世間から隠れて生活をして行くしかないのよね。ま、自分が選んだ選択だもの。責任を取るのも私自身。なるようになるしかないわ。

 けれどやはり独りは寂しさも募る。私だけが世間から外れていくというのは奇妙で孤独な人生だ。


(なんか、朝からしんみりしちゃったわ……)


 気分を変えようとお気に入りのフレーバーティーの缶を取り出し、お湯を沸かす。多分こんな思考に陥ってしまったのは、今朝も彼らの夢を見たせいだ。こんな日はちゃっちゃか仕事モードに入るに限る。今日頑張れば現在進行中の仕事も一区切り付くわね。明日には休みを取ってのんびりしようかしら。





 * * *


 翌日、私はよく行くお気に入りのカフェに来ていた。有機野菜中心のメニューを売りにしているこのカフェはOLを中心にランチタイムには女性客で行列が出来るほど人気のお店。幸い時間に縛られない仕事をしている私は平日午前中の空いている時間を狙ってお店を訪れる。今日も静かな店内でのんびりと遅い朝食を取っていた。

 すると食後のお茶をサーブしてくれた男性が私の顔を見るなり笑顔を見せた。


「お久しぶりですね。最近いらっしゃらないなぁと思っていたんです」


 え?と思って香りの良い紅茶から顔を上げる。にこやかに微笑んでいるのは長めの髪に緩いパーマをかけた黒髪を後ろで一つにまとめたの男性。整えられた顎鬚が似合ういかにもおしゃれなカフェの店員さんね。知り合いだったかしらとチラリと名札を見れば、どうやら彼はここの店長みたい。成る程、店長さんなら常連客の顔を覚えていても不思議はないわね。


「最近詰まっていた仕事が片付いたので寄ってみたんです」

「そうでしたか。お疲れ様でした」


 爽やかな笑みを残して店長さんが席を離れていく。うーん。雑誌で取り上げられそうなイケメン店長だわ。年齢は三十代前半くらいかしら。向こうから見れば私は年下見えるんだろうけど、私からすると若いなぁという感想しか出てこない。ま、良い目の保養ね。

 お茶を楽しんでそろそろ出ようかと席を立つ。すると、また店長さんから声を掛けられた。


「宜しければこちらお持ちになってください」


 差し出されたのは最近良くあるショップカード。お店の住所や簡単な地図、電話番号などが書かれた名刺のようなもの。彼の説明では常連さんだけに配っていて、これを見せれば裏メニューの注文やお店の席の予約が優先的に出来るらしい。御礼を言って遠慮なくカードを受け取った。

 店を出て、そのカードを眺めながら歩く。何気なく裏返した所で私の足が止まった。そこには黒いボールペンの走り書きがあった。


“ずっと気になってました”の一言と携帯の電話番号。それは声を掛けてくれた店長さんのプライベートの携帯番号だった。

 

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