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【エピローグ】 黒の地竜と天竜の娘(2)

 

 洗顔フォームを丁寧に泡立てる。くるくるマッサージするように顔全体に滑らせて、ぬるま湯で洗い流す。最後に肌をこすらないよう柔らかいタオルで水気を取れば、正面の鏡に映ったのはいつもの自分の顔。それを見て自然と溜息が零れる。

 変わらない朝の始まり。変わらない日常。そして変わらない自分。溜息が出てしまうのは変わらない自分の顔が映っていたから。

 私の顔は二十九歳の時から全く変化が無い。いや、護国から東京に帰ってきてから、と言った方が正しいでしょうね。それの何が問題なのかと言えば、それは私の年齢だ。だって、私は既に今年五十になるのだから。


 四十ぐらいまでは良かった。護国で出会った黒の国の双子王子ナキアス・ナルヴィと約束していた通り独り身を貫いているから、稼いだ給料はエステにつぎ込んでいるとか言い訳が出来たもの。けれど五十も近くになってくるといくらんなんでも見た目が変わらないのはまずい。

 誤魔化しに限界を感じたのは美魔女として雑誌の取材が来た時だ。アンチエイジングの方法を教えて欲しいと言われ、流石に焦った。老後の為に貯めたお金もあるしで、段々と元の会社にも居辛くなって退職した。今は在宅ワークの仕事を細々とやっている。


 どうしてこうなってしまったかはなんとなく予想がついている。それは私がナキアスとナルヴィが言っていた言葉を覚えていたから。


――竜は寿命の長い生き物だから。その伴侶の竜の血が薄ければ後天的に竜に近い体になってもらって添い遂げるんだ。だから寿命も延びるし子供を授かる事もできる。


 その具体的な方法として彼らは竜の血を飲む、と言っていた。もしかしたら彼らと一緒にとっていた食事の中に竜の血液が入っていたのかもしれない。普通なら考えられない事だけど、彼らなら迷わず実行しそうで想像するのも恐ろしいわ。

 その方法は私の予想に過ぎないけれど、原因が彼らなのは間違いない。彼らの策略のせいで竜に近い体になり、今の私は普通の人よりも寿命が延びてしまっているのだ。お陰でこちらでは生活しづらくなってしまった。

 もう既に両親も他界しているし、友人たちも歳を取っている。あまり外に出なくなっても支障はないけれど。でも同じ場所に長居をしていれば、近所の人達もいつかは気付くでしょうね。もしバレたら、ヘタすれば不老不死なんて騒がれて私の人生お終いだわ。

  

「ったく、なんて子達なの……」


 今でもナキアスとナルヴィのことははっきりと覚えている。護国での事は忘れようにも忘れられない体験だったし、まるで忘れさせまいとしているかのように最近は夢にまで出てくるようになった。


 全く、離れていても本当憎たらしい子達だわ。

 

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