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【エピローグ】 紅の地竜と天竜の娘(5)

 そんな筈ない。そんな筈ない。そう思いながら、けれど頭の片隅で希望と確信を持って一歩一歩足が前に出る。

 ゆっくりと彼女がこちらを振り向いた。そこに居たのは記憶の中の少女ではない。それよりも遥かに綺麗になった一人の女性。

 どくん、胸の中で鼓動がひときわ大きく鳴り響く。

 

「本当に……アカリ、ですか?」


 そっと震える手でアカリの頬に触れる。彼女はニカッと笑った。それは自分の良く知る快活な彼女の笑顔。


「ばーか! あたしじゃなかったら誰だっつーの!」


 明るい笑顔に明るい声。けれどその目には大粒の涙が溢れている。それを見た途端、僕は衝動的にアカリを抱きしめていた。


「アカリ!!」

「イース……」


 ずっとずっと求めていた姿が此処にある。今この腕の中に彼女の体温を感じる。彼女が自分を呼ぶ声が、確かに自分の鼓膜を震わせている。

 夢じゃない。彼女の傍に行けなかったあの夢とは違う。僕たちの間を阻む壁なんて何処にもない。彼女の目に、僕が映っている


「貴方が……、アカリが此処にいるという事は、もう、この手を離さなくてもいいのですね?」

「うん。頼まれたって離してやんないから」


 そう言ってアカリが僕の背に腕を回した。決して離さない事を伝えるように、僕も彼女を抱く腕に力を篭める。

 何度この日を夢見ただろう。何度夢の中で彼女の名前を叫び続けただろう。会いたい会いたいと願い続けて、そして目が覚める度何度落胆したことだろう。けれどもう離れる事はないのだ。求め続けた彼女の存在が今再び同じ世界にあるのだから。


「アカリ、僕の天竜……」


 思わず漏れた言葉に腕の中でアカリが顔を上げた。その目が驚きで大きく開かれる。


「あたしが……イースの天竜? あたしがイースのつがいなの?」

「……はい」

「そういう事はもっと早く言え、ばか……」


 再びアカリの目から大粒の涙が流れた。けれどやはりそこには笑顔があって、彼女らしい悪態さえ愛しく思う。


「あたしが、イースの事幸せにしてやるから!」


 アカリの言葉に僕の目にも涙が溢れて、二人で笑い合って泣いた。それは今まで感じた事のない幸せなひと時。


 もう一度あの言葉を言ったら、貴方はなんて答えてくれるだろう。 

 ねぇ、アカリ。


――僕の家族になってくれますか?





   END

 


 

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