白の地竜と天竜の娘
「そう。決めたのね」
千紘さんの言葉に私は頷いた。私は昨日セナードの傍に残ると決めた。そして今日は新節祭の三日目。皆がそれぞれの国へ帰ってしまう日だ。私はセナードやセドア殿下達と各国の皆をお見送りするために、正面玄関まで来ていた。
兄王子達と話をしているリーリアス殿下を横目に、風音ちゃんも自らの決意を口にした。
「私は、一度帰ってみようと思います」
「あら、リーリアス殿下は大丈夫なの?」
「納得はしてくれています。そもそも当日やってみなければ帰れるかどうかも分からないし、もし帰ることが出来たとしても、必ずリアス君がもう一度この世界に呼んでくれるって信じていますから」
それを聞いた燈里ちゃんがニカッと笑う。美波さんもくすりと笑みを零して頷いた。
「あー、それは心配ないんじゃん? 絶対呼び戻されるよ」
「そうですねぇ」
今度はそんな燈里ちゃんに千紘さんが尋ねた。
「そういう燈里ちゃんは? 帰れそう?」
「うーん。あたしは番の竜を探す所からだからなぁ。でも、最悪見つかんなくても帰る準備はしてくよ。イースがあたしの意思がしっかりしてれば多分大丈夫って言ってたし」
その言葉に思う所があるのか、千紘さんは神妙な表情で頷いた。
「……そう、ね。まだ夏節祭まで時間はあるし、頑張って」
「うん!」
ついつい気になって私も皆の会話に口を挟む。
「千紘さんは大丈夫なんですか?」
黒の国の人達は決して公言していないけれど、双子王子達の番が千紘さんなのはこの短い付き合いの中でも明らかだ。それに人目をはばからずイチャイチャしていた様子からも、彼らがそう簡単に千紘さんを離すとは思えない。けれどそんな杞憂など吹き飛ばすようにカラッとした笑顔で千紘さんは力強く言った。
「あー、私は大丈夫。絶対帰るって約束だから」
「あら、そうでしたか。なら、次に皆で集まるのは春節祭の前ですかねぇ」
「そうね。風音ちゃんをお見送りしましょうか」
「えぇ!! いいですよ! しばらくしたら帰ってくるつもりですもん。どうせなら、私が行って帰ってきたら皆で会いませんか?」
「それはいいわね。風音ちゃんの話も聞きたいし」
「ではそうしましょう」
次の約束をして、皆それぞれ帰路についた。年齢も職業もバラバラの人達。友達とは違う、不思議な関係。元の世界へ帰ってしまう人も居るけれど、きっとこの不思議な絆は続いていくだろう。
皆をお見送りした後、ぎゅっと後ろから慣れた体温に拘束された。
「セナード?」
「……さみしい?」
「うん。少し……。でもこれからはセナードが一緒にいてくれるでしょう?」
するとちょっと驚いた表情の後、セナードがこくんと頷いた。とても嬉しそうで幸せそうな笑顔で。
「あれ? これは?」
いつの間につけられたのか、私の左腕には細身の腕輪が付けられていた。細い銀色の文様が入った綺麗な腕輪だ。よく見るとセナードもお揃いのものをつけている。
「腕輪」
「うん。とっても綺麗」
「婚約の証」
「へぇ、婚約……。こ、婚約?」
思わず口を開けたままセナードを振り返る。いくらなんでも婚約なんて話が飛びすぎだよね?? 普通お付き合いの期間とか設けるんじゃないの??
そう問えば、何故?と返された。何故と言われても……。出会って直ぐ婚約なんてあまりに急な話だ。けれどセナードは首を横に振った。
「急じゃない」
「え? でも……」
「ヒナタの事はずっと前から知ってる」
あ、そうでした。セナードは赤ん坊の頃から私の事知ってるんだったね。なら、……しょうがないの、かな?
「ヒナタは俺の隣で幸せになって」
「……うん」
貴方がずっと私の傍に居てくれた。ずっと私を見守っていてくれた。
私はいつだって自分に自信がないから、すぐに悪い事ばかり考えてしまうけれど、二人一緒なら大丈夫だって思える。
ねぇ、セナード。照れくさいからまだ言わないけれど、本当は私もう幸せを感じているよ。もっと自信が持てるようになったら、今度は私から言うね。
私と一緒に幸せになってください、って。
長い間お待たせして申し訳ございませんでした。
これにて『ひきこもり竜と東大女子』はおしまいです。
さぁ、此処で問題です。セナードが婚約の証である腕輪を用意したのはいつでしょう?
1.今回の新節祭でひなたと再会した後
2.森の中で騎士達に見つかり、王城に戻った後
3.夢の中で暴れて穴を開け、ひなたをこちらの世界へ引き込んだ後
4.赤ん坊だったひなたに初めて夢の中で会った後
答えは、多分4です(笑)
残すはこのシリーズの『エピローグ』のみ。
シリーズ全て読んでいただいた方はお分かりかと思いますが、まだ色々解決していない人達がいますからね。
エピローグは『ひきこもり竜と東大女子』の後ろに掲載しようと思っていますので、まだこの話自体は『完結』状態に致しません。あしからず。
まだちょっとこの先が気になる!という方はもう少しお付き合いください。
宜しくお願い致します。




