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穴抜けるとそこは異世界でした

「それなら夢の中に『穴』があると考えていいのでしょうか? それなら私達がこちらの世界に来る前、全員が眠っていた事も説明がつきますし」


 『穴』っていうのはどうやらこの世界と日本を繋ぐ道のことみたい。全員が睡眠時にこの世界に来たという共通項と燈里ちゃんのひらめきから、美波さんは夢の中にその道があると推測しているようだ。でも夢はあくまで記憶の整理やストレス軽減の為に脳の中で行われている作業の一つに過ぎない。つまり夢の中っていうのは夢を見ている本人ただ一人だけで完結している世界の筈。そこに誰かが道を作る事なんて出来るのかな。


「でも夢なんて……自分の意思でコントロールできるものじゃないわよね?」


 千紘さんが難しい顔で呟く。けれど私達のもやもやを吹き飛ばすように、レビエント殿下から実にあっさりとした回答が返ってきた。


「出来るよ」

「え?」

「現に、自分の意思で夢を渡ってつがいに会っていた者が目の前にいるでしょう?」

「あ……」


 思わず私の口から音が漏れる。今も私の腰に両腕を回し、しっかりと抱きしめている体温の主を振り返った。


「セナード?」

「…………」


 私の、いや私達の疑問にセナードが言葉を発する事はなかった。彼はただ、私を見つめるばかりだ。そこには悲しみも喜びも無く、一貫して強い意志だけが現れている。

 無言で見つめあう私達を目にして、千紘さんが力の抜けた声で言った。


「つまり、『穴』を開けたのはセナード殿下ってことですか……」

「その後、同じく番を求める者達が無意識にその穴から番を呼んでしまった、という事のようだね」


 この世界の竜によって番である女性達がこの世界へと呼び込まれた。ならば、


「なら、その竜が戻っても良いと願えば、眠っている間にその穴を通って帰れるって事?」


 燈里ちゃんが希望を持った声でレビエント殿下にそう問いかける。けれど殿下は首を横に振った。


「……それは難しいかもしれないね」

「何故です?」


 その答えに眉を顰めたのは千紘さんだ。


「今までの仮説が全て真実なら皆さんが元の世界に帰るには三つの条件が揃う必要がある。一つ目はその穴が今も開いている事。二つ目は帰る日が季節祭であること。三つ目は竜が番を帰したいと強く願う事」


 あれ? レビエント殿下が示してくれた条件には先程まで話に出ていなかった事項が含まれている。私と同じ疑問を持ったのか、美波さんが首を傾げた。


「確かに私達がここへ来たのは季節祭の初日でしたが、何故帰る時も?」

「護国は竜と人が交わって繁栄してきた。当然年月が過ぎるほど一人が持つ竜の血は薄くなっていく。だから番を得たいと願った竜一人の力だけで次元を超えて他の世界から人ひとりを呼び寄せることが出来たとは思えない。そこには護国の民全員が関わっているのだと思う。現に季節祭には竜の血を引いた護国の民が王都に集まる。それだけで他の地にはないエネルギーが一箇所に集まる事になるんだよ」

「護国の皆さんのエネルギーが竜の想いを後押ししたということなんですね」


 私達が季節祭の日にこの世界に来たのはそういう訳だったの。その理由には全員が納得したようで静かに頷いている。


「えぇ。次々と皆さんが此処へ来たことから考えて、まだ穴が開いている可能性は高い。けれどその条件が揃ったとしても帰るのが難しいのは……」

「竜が、自分から番が離れる事を良しとする筈がないから」


 レビエント殿下の言葉を冷静な声で継いだのは、それまで無言を貫いていたセナードだった。

 

 


【燈里side】


「アカリ?」

「あ、うん。遅くにごめん。ちょっと話がしたいんだけど」

「珍しいね。お入り」

「お邪魔しまーす」


 就寝前、白の王城に用意してもらった客室を抜け出し、レビエント王子の部屋を訪ねる。いつもよりラフな格好のレビエント王子は嫌な顔一つ見せず中に入れてくれた。どう話を切り出そうかと考えていると、先に王子が口を開いた。


「今日の話のことかい?」

「……うん。なんかさ、帰るためにはつがいの竜が許してくれたら、って結論だったじゃん?」

「あぁ、そうだね」

「でもさ、あたしは皆と違って番がいないし……、それって要は帰れないってことだよね?」


 明言しなくてもあれだけおおっぴらにイチャイチャしていれば、千紘さんにも番の竜がいるって事は分かっている。

 自分で口にしてヘコむあたしに、レビエント王子は優しい眼差しでほんの少し首を傾げる。


「本当に、アカリを求めている番はいないと思うかい?」

「へ? だって会ってないし……。レビエント王子じゃないんでしょ?」

「そうだね。私は違うよ」

「だよね~」


 はぁ、と口から大きな溜息が漏れる。本当にあたしにも番がいるとしても、見つけられなかったら帰して欲しいと頼むこともできない。


「アカリ」

「ん~?」

「ちゃんと周りに目を向けてごらん。必ず君の番がいる筈だから」


 確信を持った王子の言葉。びっくりして見返すけれど、王子が嘘を言っているようには見えない。


「……レビエント王子はその人のこと知っているの?」

「さぁ、どうだろうね」

「いじわる……」

「ふふっ。本人のあずかり知らぬ所で想いを告げるのはルール違反だろう?」

「そんなもんかな~」


 まぁ、よくよく考えられば、自分が番だと告げるって事はその相手のことが好きだって告白するのと同じ事だもんな。それなら勝手に教えられないって言うのも分かる。

 けど、本当にいるのかなぁ、そんな物好き。


「さ、今日はもうお眠り」

「はーい。おじゃましました。おやすみなさい」


 ぺこりと頭を下げて退室するアカリ。それを見送ったレビエントは慈愛を含んだ笑みを浮かべていた。


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