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臆病な思考と彼女の選択

「ねぇ、リアスくん……」


 ソファに座ったままリーリアス王子を抱きしめていた高科風音ちゃんが、その腕を緩めて涙で濡れる翠色の目をそっと覗きこむ。初めて会った人達だというのに、彼女の話は私の胸を締め付けた。それは私を抱きかかえたまま共にソファに腰を下ろしているセナードも同じなんだと思う。その証拠に風音ちゃんが帰りたい、と口にした瞬間セナードは肩を震わせていた。

 他人事のようで他人事ではない彼女達の会話はまだ続いている。


「家族と会いたいって気持ちはこれからも変わらないと思う。私はずっと向こうに居る間、ちゃんと家族と向き合ってこなかったから、それを後悔しているの。もっとちゃんと話をすればよかったって。でもね、リアスくんと一緒に居たいのは私も同じだよ。だから……」

「カノン……」

「向こうに行って、そして戻れる確実な方法がないのなら、私は行かないよ」

「ほ、ほんとに……?」

「うん。約束」

「カノン!!」


 彼女の選んだ答えはこの世界に残り、リーリアス殿下と共にある事。日本に帰ることさえ、彼女にとってはこの世界で生涯を過ごすために必要な、自分の気持ちを整理する為の手段でしかない。

 二人が離れ離れにならずに済んだことへの安心感と同時に、彼女の答えは私に焦燥を生んだ。私は彼女達の話を聞きながら、頭の片隅で彼女が出す答えが自分へのヒントになればと思っていたのだ。この状況を上手く打破する為のヒントに。けれどダメだった。何故なら、私は同じ答えを口にすることが出来ないから。


 自分の答えは自分自身で出さなくてはならない。自分の道は自分で選ばなくてはならない。


 やっと気が付いた。ずっと親に言われるがままの道を歩んできた私は、こんな時どうやって自分だけの選択をすれば良いのか分からないのだと。親の操り人形だった自分に絶望したくせに、糸を切り離した今、一人では動けぬただの木偶に過ぎないんだ。

 私よりも年下の風音ちゃんの方が、堂々と皆の前で自分の考えを口に出来る彼女の方が、ずっとずっと強い。


 その時、部屋にいた皆の視線がこちらに向けられた。この国の第二王子セナードとそして、私に。口を開いたのは、先程から皆を仕切っている千紘さんという背の高いスレンダーな女性だ。つり上がり気味の目がこちらを見る。


「私や燈里ちゃんは帰る方法を探しているけれど、実際の所仮説ばかりで具体的な方法が分かっているわけじゃないの。だから帰るかどうかなんて、今は無理に考えなくてもいいのよ」


 彼女の言葉にほっと息を吐いた。まだ、私はセナードに聞かせられるような言葉を持っていないから。


「はい。……ありがとうございます」

「でもね、協力はして欲しいと思ってる」

「それは、勿論」

「なら、ひなたちゃんがこちらに来た時の事、詳しく聞いてもよいかしら?」

「……はい」


 私はこれまでの経緯を、順を追って皆に説明を始めた。

 

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