男の涙も武器
「貴方が、本当にあの夢の人なの?」
するとにっこりとセナードが微笑む。
やっぱりそうなんだ。でもどうして……?
「不思議ね、夢の中の人に会えるなんて」
現実よりも夢で先に会う人が居るなんて信じられない。いまだ事情を飲み込めないでいる私の耳元でセナードが囁く。
「ずっと会いたかった……」
「え?」
「ヒナタに会いたいって、ずっとずっと願ってた。そうしたら、会えた」
「……それがあの夢だったの?」
コクンとセナードが頷く。なんだかこの仕草が段々可愛く思えてきたから不思議。
それにしても、セナードが願ったから私達は夢で会う事が出来たということ? 一体、セナードって何者なの?
「でも、出会ってすらいなかったのに、どうしてあの夢で会う前から私のこと知ってたの?」
「もっともっと昔から、ヒナタの事知ってた」
「……なんで?」
「ずっと夢で会っていたんだよ、ヒナタ」
「ずっと……?」
セナードの話だと、私達はずっと幼い頃から時折夢の中で会っていたのだと言う。普通ならそんなこと信じられないけれど、セナードが私を慰めてくれたあの夢の事は今でも覚えている。確かに私達は夢の中で会っていて、そして今こうして実際に再会しているんだ。
「セナードは……、やっぱり白の国の人なの?」
彼の首が縦に振られる。
「王都に住んでいるの?」
この問いにもまたコクン。
「ご家族も此処に?」
はい、コクン。なんだかセナードは必要以上に言葉を発しないみたい。でも可愛いから許せてしまう。私よりも年上っぽい一人可愛いなんて失礼かな? でもそうとしか思えないのだから仕方がない。
「私はね、今プリモ村でお世話になっているの。知ってる? プリモ村」
コクン。
「今日は同じ村の子達と王都に遊びに来てるの。そうだ、途中ではぐれちゃって……、皆探してるかもしれないから戻らなきゃ」
けれど今度は『コクン』が無かった。それ所かぎゅっと拘束が強くなる。
「セナード?」
「行かないで……」
「でも、心配かけちゃうし」
「もう離れたくない」
“もう”?
夢の記憶というのは私にとってふわふわした曖昧な感覚でしかない。けれどセナードは違うみたい。これ程強く願うほど、強く求めることが出来るほど、セナードにとっては夢の中の存在でしかなった私にこだわっている。でも、何故なの?
「セナ……」
触れ合う唇に遮られ、言うべき言葉が飲み込まれていく。なんで私抵抗できないんだろう。まるでこうするのが当然のようにセナードは触れてくる。昔から夢で会っていたとしても、夢の中では決してこんな関係じゃなかった筈なのに。
「ヒナタ……」
濡れた銀色の目が今にも泣き出しそうで、私は彼の腕を振り払うことが出来なかった。




