06.成長したガール
拝啓、故郷のお父さんお母さん。
それから可愛い弟妹達、お元気でしょうか?
わたしは元気です。
精神的には若干怪しいものの、とりあえず肉体的には引くほど元気です。
残念ながら修道院での修行内容について詳しいことは明かせないのですが、最近は素手で石とか割れるようになってきました。いやぁ、人間の可能性って本当にすごいですね。
いずれ一人前の修道女になってお暇をいただけたら、久しぶりに皆の顔を見に帰省しようかと考えておりますので、その日を楽しみに今後とも精進を重ねる所存です。
皆様のご健康とご多幸をお祈りしております。
わたしより。
◆◆◆
わたしが修道院に来て早くも三年の月日が経とうとしていました。
ここに来た時は十二歳だったわたしも、いつの間にやら十五歳です。
例のトンチキ拳法を習い始めてからに限っても実に二年半。
正直、痛いわ疲れるわで最初の頃は何度脱走しようと思ったかも数え切れませんが、いやはや人間の順応性というのは案外侮れません。単に絶望が突き抜けて諦念に至っただけかもしれませんが、今では硬い木の杭や砂袋を突くことにもすっかり慣れっこです。
「しゃあっ、千本突き終わり!」
最初の課題として出された杭折りには、なんと九か月もの時間がかかりました。
永久に折れないんじゃないかとも思いましたが、どうにか折れた時には不覚にも嬉しさと達成感で涙が滝のように出てきたほど。まさか自分にそんなスポコン的感性があろうとは、想像もしていませんでした。
そこから二本目の杭は三か月で、三本目は一か月でと折れるまでのタイムはどんどん短縮。最近はちょっと伸び悩んでいるものの、今では一本あたり平均五日くらいでしょうか。そろそろ練習用の的を杭ではなく何倍も太い丸太に切り替えることも検討中です。
「ええっと、今日は……やった、買い物当番!」
もちろん怪しげな毒手モドキ以外のお仕事や、真っ当な修道女らしいほうの修行も疎かにはできません。ちなみに本日のわたしのお仕事は、最寄りの街まで足を延ばして生活必需品のお買い物。日常の大半を修道院の敷地内で過ごす身にとっては、数少ないシャバの空気を吸える機会です。
未だ院長先生からの例のお仕事の許可をもらえず、従って基本的には金銭を得る手段もない身ゆえ、好き放題に買い物を楽しむというわけには参りません。が、それでも活気に満ちた空気の中を歩くだけで自然と気分が沸き立つものですし。ちょっと寄り道してウィンドウショッピングを楽しむくらいしてもバチは当たらないでしょう。
「そうそう、手紙も忘れずに」
先述の通り基本的には収入のない身分ではありますが、数少ない例外としてベロンベロンに酔っぱらった院長先生を夜遅くに酒場まで迎えに行く時にお小遣いをもらえることがあるのです。もっとも、カード賭博に勝って機嫌が良い時限定ではありますが。
そうして僅かなりとも得た金銭で買い食いでもしたいのは山々なのですけれど、今回の外出では実家への手紙を送る郵便代として使うことに決めていました。
人間同士の戦争などは昨今縁遠いようですが、それでも街を離れた山野には恐ろしい魔物がいる世界。近隣の街の騎士団が定期的に巡回している街道沿いを進むだけなら滅多に危険はないとも聞きますが、それでも安全対策に絶対はありません。商人の皆さんもリスクを負っている以上は仕方のないことですが、手紙や物品を他の町や村に送る郵送費は必然的になかなかお高めになってしまうのです。
「それじゃ行ってきますね。えっと、お塩と油と……」
修道院で暮らす人数は二十人以上。
自分達で育てている畑や家畜もあるとはいえ、流石に完全な自給自足というわけにはいきません。特に外部から買わざるを得ない塩やお酢といった調味料、それから油などは一般家庭で使う何倍もの量を買わないといけないので大変です。買い物がそのまま筋トレになって、ますます打撃の威力が上がってしまいます。
わたしは使い古された荷車を倉庫から持ち出すと、カラカラと車輪の音を響かせながら街への道を歩き始めました。街外れにある修道院からは、片道十分から十五分といったところでしょうか。
途中で修道院への一本道から街道へと合流すると、行き交う人々の数も一気に増えて賑やかに。この三年で外面を取り繕うテクにますます磨きをかけたわたしは、如何にも敬虔な修道女らしい微笑みを周囲へと惜しげもなく振りまいて……街へと入るちょっと手前でのことでした。
いや、本当に分からないものです。
まさか人生を変える出会いが、こんなところに転がっていようとは。




