05.ペナルティの重さにビビるガール
見学してる時から薄々思ってましたけど、コレっていわゆるアレですよね?
「たしか毒手だっけ? 手に毒の成分を染み込ませるやつ」
前世のお兄ちゃんが漫画好きだった影響で、わたしも生まれ変わる前には色々と借りて幅広いジャンルの作品を読んでいたものです。そんな数々の作品の中でも特にバトル要素のあるやつで、たまに見かけたのが『毒手』なるイロモノ武術。
普通に武器に毒を塗るんじゃダメなのかとか、得られる強さとリスクが見合わないだろうとか、読みながら少なからず内心でツッコミを入れていた覚えがあります。あと、その手のスキルの使い手は大体味方側のキャラにやられる悪役なので、わざわざ重いリスクを負っている割に勝率は往々にしてよろしくなかったような気が。
あちこちの作品で度々出てくる設定ではありましたが、少なくとも二十一世紀の日本で暮らしていた当時のわたしは実物にお目にかかったことはありません。そもそも実在するのかすら怪しいトンチキ拳法だと思っていたのですけれど……。
「まさか自分が習得することになるとは……」
人生一寸先は闇とは言いますが、これは流石に予想できるはずがないでしょう。
おっかなびっくり頑丈な木の杭を殴ってみたら、案の定、骨の芯まで響くような痛みと衝撃がやってきました。現金にも現金の魔力で捻り出したモチベーションが、早くも萎れてしまいそうです。
「これもお金のため……お金のため……」
丁寧に丁寧に、一打ごとに体重と心を込めて。早くも両手が真っ赤に腫れ上がっているのは、なるべく視界に入れないようにしておきましょう。
そうして左右三十回ずつくらい叩いたら、例の世界樹汁配合の怪しげな軟膏を手に塗り込んでいくわけですが……なるほど、たしかに恐ろしいほどの効き目です。あっという間に腫れと痛みが引いていきました。
院長先生のありがたい説明によりますと、たとえ骨が折れたり爪が剥がれたりしても軟膏を塗って数分もすれば完治するとのこと。あまりに効きすぎて怖いものがありますが、例の激マズ香草茶でわたしの身にも謎の世界樹成分への耐性が付いている……はず。前々から同様の修行をやっている先輩方も皆さん健康そのものですし、少なくとも数年単位で同様の訓練を続けても明確な健康被害はないものと考えていいのでしょう。そうとでも思わなければやってられません。
先輩方が打ち込みの際に奇怪な奇声を上げていたのも分かります。
いわば意図的に狂気のスイッチを入れるルーティンみたいなものと申しましょうか。
傍目から見たらヘンテコなのは百も承知。そうやって無理にでもテンションを高めて勢いを付けないと、現実的な肉体の痛みの前では簡単に心が折れてしまうのです。
「しゃあっ! キャオラッ」
わたしも前世で読んだ格闘漫画をイメージしつつ、金銭欲を原動力にひたすら拳を突き出していきました。殴っては治し、殴っては治し、そんなことを何度繰り返した頃だったでしょうか。痛みと疲労で意識が朦朧としていたので、途中から半ば記憶が飛んでいたようですが。
「そうそう、新入り共。うっかり大事なことを言い忘れてたよ」
「はぁ……はぁ……な、なんでしょう?」
日が傾きかけた夕方頃、院長先生がわたしとクーちゃんに追加の注意事項を伝えにきました。その内容は明らかに「うっかり」で済ませていいものではありませんでしたが。
「なに、そう難しいこっちゃない。アンタらは今日から本格的に修行を始めたわけだけど、当然ながら明日や明後日にすぐ目に見える成果が出てくるわけじゃあない。三年か五年か、モノになるまでどれだけかかるかはアンタら次第だけど、アタシが許可するまで無断で誰かを治そうなんて考えちゃあいけないよ」
まあ、これは仕方がないでしょう。
わたしだって無免許のお医者さんにかかりたくはありません。
「なにしろ、この活法はちょっと加減を間違えたら簡単に人が死ぬからね。もうちょっと具体的には過剰に叩き込まれた生命エネルギーが体内で暴走して、全身の内臓という内臓が破裂したり、穴という穴から派手に血を噴いて死ぬ的な?」
やっぱり毒手じゃないですか、コレ!?
そんな風に人を死なせてしまったらお金稼ぎどころではありません。
死に様が特殊すぎて失敗した場合の隠蔽も絶対に不可能でしょう。
半端な腕前のまま修道院に内緒で誰かの治療をしてお小遣い稼ぎ……みたいな浅はかな真似は考えないほうが良さそうです。わたし達はコクコクと頷いて了解の意を示しました。
「うんうん、ちゃんと言いつけを守るんだよ。もし破ったらその両手が二度と動かないよう潰した上で追い出さなきゃいけないところだ。実際、二十年くらい前に修道院にいた馬鹿を……おっと、アンタらがお行儀よくしてくれる限りは別に知らんでもいいことさね」
ペナルティが異常に重すぎる……。
一子相伝の拳法で唯一の伝承者以外を事実上の再起不能にする的なやつ……いや、それとは違いますか。どちらかというと流派の奥義を悪用した門弟を、正当なる伝承者が拳の戦いを通じて裁きを下すみたいな。どっちにしろ殺伐としすぎていることに違いはないですけど。
「明日からは怪我や病気の程度に応じた打ち込みの工夫についても教えてやるよ。くくっ、嬉しくて涙が出るだろう?」
「は、はは、嬉しいなぁ……はぁ」
どこの誰に苦情を入れるべきなのかも不明ですが、まあ一応。
ファンタジーな世界観の中で癒しの力を身につけて人々を救うって、なんというかもっと平和的でキラキラした雰囲気であるべきではないでしょうか?
あと二話か三話くらいで恋愛要素が出てくる予定です。




