01.まだ無毒なガール
新連載です。
そんなに長くはならない予定です。
『わたし』は転生者である。
が、しかし。
ただ単に前世の記憶があるというだけで、日頃それを何かに使うこともなし。リスタートの機会を得たからといって、無条件に人生に面白味が出てくるというわけではないようです。
二十一世紀の日本で暮らしていた人間の端くれとして、一応は義務教育プラスαの知識はありましたし、こちらの世界でオギャアと生まれてから最初の数年間はそのアドバンテージを活かして、このファンタジーっぽい世界で成り上がってやるぜヒャッホウ……みたいなことを考えなかったわけじゃありません。
いやぁ、そんなの無理ですって無理無理。
もっと文明レベルが低めの世界であれば、あるいは一人で軍隊を蹴散らせるような戦闘能力でもあれば、こちらの世間一般の皆様に対するアドバンテージを活かして栄達の道を拓くこともできたのかもしれませんけど、幸か不幸かわたしが二周目の人生を始めたこの世界の文明レベルはそれなりにお高めでした。
国のお偉いさんが教育の重要性をしっかり理解していると見えて、大体の一般人は四則演算くらいは楽々こなします。それ以上の高等数学をガッツリやり込んでいるインテリ層も多々いるような環境では、わたし如きの前世知識なんぞ大した意味はないでしょう。
「せめて魔法とか使えれば良かったんだけどねぇ」
前世で触れてきた読み物では、生まれ変わる時に都合の良いスーパーパワー的なヤツを居酒屋のお通し感覚でお出ししてくれるのがお約束だったはずなのだけど、残念ながらわたしを転生させた神様はそのあたりの作法というものを分かっていなかったのでしょう。
そもそも生まれ変わる際に誰かに会った記憶はないので神様とは限りませんが。
というか、実のところ気付いたら赤ちゃんになってたので死んだ記憶もないんですよね。
命に関わるような持病を抱えていた覚えはないので、考えられるとすれば事件か事故か。だとしたら痛かったり怖かったりした記憶がないのは逆に良かったかもしれません。あるいは死んで転生したというのが根本的に誤りで、元々のわたしは今も日本で健在でその記憶だか魂だけが異世界の人間にコピー&ペーストされた可能性も?
まあ、そのあたりは現状確かめようもありません。
同じく考えても仕方ないことではありますが、元の話題に戻りましょう。
生まれついての才能のみで使用の可否が決まるらしい魔法の才能はゼロ。
これでわたし一人だけが無才ならコンプレックスに苦しんだりしたのかもしれませんが、適性を有する人の割合が三十人だか五十人だかに一人くらいとあらば、むしろ使えないのが多数派なわけで大してショックもありません。こちらの社会における魔法使いは高収入と相場が決まっているので、たしかに残念は残念ですが所詮は適当に買った宝くじが外れたくらいのショックです。いつまでも引きずるほどのものではないでしょう。
なので、魔法に関しては潔く諦めるとして問題は他の部分です。
特別に運動能力が優れているということもなく、ついでに言えばお金もない。
今生の両親から遺伝した綺麗な金髪だけはちょっとした自慢ですけど、客観的に見たらルックスの良さだけで良縁が次々と舞い込んで生涯安泰というほどの美少女ではないでしょう。
別におっかない魔物と戦いたいわけじゃないので強さ関係と、あとルックス面に関してはこの際目を瞑るとしますが、ゼニの問題についてだけは同じように気軽に流せません。
というか、家が貧乏だったせいで修道院になんぞ入る羽目になったわけなのです。
一応、周囲への建前上は信仰の道を歩むため云々ということにしていましたけど、まあ実質的には家計を助けるためのセルフ口減らしみたいなもんでしょうか。自分から言い出したことなので家族に文句を言う気はないのですけど、いざこうして厳めしい修道院の建物前まで来てみると正直早まったかと思わなくもなかったり。
今生における両親は善良な尊敬できる人達ではあるのですけど、どうにも世渡りが下手と申しますか。知り合いに頼み込まれてお金を貸したら、そのまま返してもらえず貸し倒れるのが当たり前。
働けど働けど暮らし向きは苦しくなるばかり。そんな苦しい生活の中でも夫婦仲は良好で、次から次へとポコポコ子供が産まれてくるのは果たして良かったのかどうなのか。二人揃って生来の呑気者であるらしい両親は、そのあたり深く考えず大らかに笑いながら日々を楽しく過ごしていたのですけれど。
ですが、わたしの立場および感覚的にはそれを看過するわけにもいきません。
今生においてはまだ十二歳の若輩とはいえ、一応は前世で社会人経験のある身としましては、あの愛すべき貧乏一家の生活環境および経済状況を見て見ぬフリは出来ませんでした。
なにせ、一応これでも一番上のお姉ちゃんなものでして。
まだ幼い弟妹に少しでも良い暮らしをさせてやりたいという気持ちもあります。
わたし一人分の生活費を浮かせて他の皆に回した程度では雀の涙でしょうが、それでも週に一回か二回くらい多少なりとも皆の食事の量が増えれば万々歳。育ち盛りの小さい子には栄養が必要なのです。
まあ、大体そんな流れで今回の修道院入りとなったわけでして。
なにしろ修道院で尼僧としての修行をしている限りは、無償で衣食住の面倒だけは見てもらえるのだそうです。常に募集の枠が空いているわけではないですし、その話がそこそこ離れた町に住んでいたわたしの耳に入ったこと含めて幸運ではあったのでしょう。
女性の僧職ということで便宜的に尼僧とは申しましたが、前世の仏寺にいる尼さんのように頭を丸める必要はないそうですし。もちろん崇める神様は別人ならぬ別神なのでしょうけれども、イメージ的には前世で見かけた教会のシスターさんが近いでしょうか。
正直、信仰心なんてモノが欠片もないわたしがタダ飯目当てでご厄介になることに幾ばくかの罪悪感がないわけじゃあないのですけれど、なにしろ死んで生まれ変わってもなお神様にお目にかかった記憶がないものでして。
空気を読んで表面上は敬虔な修道女のフリをする気くらいはありますので、もし神様的存在がおられるなら内心の在り方についてはご寛恕願いたいところです。
「ごめんくださーい」
そんなこんなで生まれ育った町を離れて早三日。
目的地の最寄りの街までは顔見知りの商人さんの馬車に乗せてもらって、新たな職場兼お家となる街外れの修道院まで来たわけですが……ああ、なんということでしょう!
この時のわたしは、まさか自分が毒手の親戚みたいなトンチキ拳法を極めし聖女となるなど、まったく夢にも思っていなかったのです。もっとも事前にこんな流れを予想していたとすれば、魔法とは別ジャンルの特殊能力者として特に伏線なくエスパー的な予知能力にでも目覚めたか、最悪の場合は官憲の皆様から良からぬ薬物の使用を疑われても文句は言えないでしょうが。いえ、そういうのとは別種の薬物についてはこれから嫌と言うほど触れることになるんですけれど……。
いや、本当にどうしてこうなっちゃったんでしょうね?
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