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冒険者スレイ

時間変更させて頂きました。これからは昼の12時に投稿させて頂きます<m(__)m>

 魔海マカイ、魔族領と人間領を隔てる巨大な海のことを差す。そして、人間族が魔族領に攻め入るのをためらっていた一番の理由は魔族の強さではない。もちろんそれも要因の一つではあるが、一番の理由は魔族領のほとんどが過酷な環境の土地ばかりだからだ。

 先の戦いでは、砂漠という環境が人間族に行軍の厳しさを教えていた。だが魔族領は砂漠などはまだまだ序の口であることを教えるように、先に進めば進むほど環境が厳しくなり、普通の人間族では息をするのも困難になる。


「どうしてこのような格好をするのですか?」

 

 供として選んだツララが、自らの衣装について質問を投げかけてくる。ツララの衣装は白い髪に白い肌を隠すように白いローブに包まれている。

 氷雨族は魔族としての赤い瞳を持たず、青い瞳をしているのでわざわざ隠す必要がない。


「今から俺たちは人間族の軍隊に潜入する」

「潜入でございますか?」

「そうだ。俺たちは冒険者パーティーとして人間族と共にリヴァイアサン領に入る」

「どうしてそんな周りくどいことをなさるのですか?スレイヤー様ならば勇者など倒せるのではないのですか?」


 ツララはスレイヤーの正体について知っている。そのため軽々しく倒せると口にするが、スレイヤー自身は勇者を簡単に倒せるとは思っていない。

 むしろ、勇者を理由してもう一つの目的を達した方がいいとすら思っていた。


「俺のことはスレイヤーと呼ぶな。今から俺たちはスレイとツララ。冒険者パーティーで、勇者の仲間となる」

「説明はしていただけないのですか?」

「する必要がないだろ。お前は俺がすることに反対するのか?」

「絶対致しません」

「だろ。なら、問題ない」

「そうですね」


 スレイヤーの物言いに納得したツララはそれ以上質問を重ねることはなかった。二人はベルゼブブの街に建てられた冒険者ギルドで、ツララの冒険者登録を終えてリヴァイアサン領へ赴いた。

 ベルゼブブの街は完全に復興が終わり、人間族の街として生まれ変わっていた。ベルゼブブ城があった場所から綺麗な森と湖が見えることから、湖緑コリョクの街と呼ばれるようなっていた。


「ここまで人間族が多いところには初めて来ました」

「そうだろうな。ツララの一族は魔族の中でも閉鎖的だからな。まぁ領から出たとしても生きにくいだろうしな」

「魔王城に比べれば快適な空間ですよ。湖から来る風は心地よく、涼やかなものですから」

「これから向かう魔海はここよりも風が強いぞ。へばるなよ」

「もちろんでございます」


 スレイヤーは露天商から商家となった商店街を通って買い物を済ませ、ベルゼブブの街をあとにした。


 二人は魔海があるリヴァイアサン領へ入り、すぐに勇者たちが率いる遊撃軍へ参加した。冒険者の身分証を見せれば、参加するのは容易なことだった。

 先のアモン領大戦で多くの人間族を失ったことは、人間族にとっても誤算だったのだ。参加する冒険者が極端に減り、王国から命令された兵士と大戦を生き残った強者の冒険者だけがリヴァイアサン領へ進軍する軍隊へ参加していた。


「まだ若いのに根性あるやつだな。俺はサイモンだ」


 二人を受け入れてくれたのは、冒険者でもベテランのサイモンだった。サイモンは先のアモン領大戦で冒険者の義勇軍を率いる隊長の一人だったらしい。しかし、サイモンが率いた義勇軍はその半数を失った。それでもサイモンはリヴァイアサン領の戦いに参加したのは償いのためだったと後に語る。


「世話になる。冒険者のスレイだ。それでこっちがツララ」


 スレイヤーは友好的に握手を応じ、サイモンの手を取る。


「おう、スレイとツララだな。魔族は強い。だが、若いお前らは絶対に生き残ってくれよ」

「ありがとう」


 サイモンは二人の快く歓迎して、すぐに義勇隊へ紹介してくれた。勇者からは少し離れた位置で、スレイヤーとツララは人間族の部隊へ合流を果たした。

 燕尾服を着ているときのような丁寧な口調ではなく、冒険者らしい言葉遣いで話しかけていた。


「勇者はここにいるのか?」

「やっぱりお前も勇者が気になるのか?ああ、もちろんいるぞ。まぁ俺たち冒険者とは天幕が別だがな。王国騎士様たちの立派な天幕の方にいるだろうぜ」


 サイモンの言葉にスレイヤーは都合がいいと思った。


「俺たちはどうすればいい?」

「二人は男女だが、天幕は同じでいいのか?」

「さすがに「問題ありません」」


 スレイヤーが断ろうと言葉を発した瞬間、ツララがかぶせるように了承を口にする。


「どうやら嬢ちゃんの方は乗り気みたいだな」


 サイモンは面白そうにツララとスレイを見比べ、ニヤニヤと笑った後に小さな天幕を指さした。


「それぞれ男女で分けるならデカい天幕もあるが。男女二人でいるならばあれで十分だろ」

「おっおい」

「ありがとうございます。スレイと二人で使わせて頂きます」


 スレイヤーが何か言うよりも先にツララの言葉で遮られ、サイモンは片手を上げて去っていく。


「ツララ」

「どうせ、我々は他の者たちと一緒にいることはできません。それに、あなたの世話をするのに一緒にいる方が便利です」

「ハァー、わかった」


 ツララの言葉に反論する気も失せたスレイヤーは溜息を吐いて納得した。


いつも読んで頂きありがとうございます。

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