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支配してやるぞ下等生物ども

 マホ、エルル、オッヒー、キシリーはいずれも俺がボコボコにしたので治療が必要だった。

 南下して一番近くの町に行き、神官に治癒魔法をかけさせた。


 一番最初に復活したのがマホだったので、俺はマホだけ連れてマンマール王国に凱旋することにした。


 他の3人はまだ治療院のベッドで横になっている。


 全く軟弱な連中だ。

 少々アバラや鼻が折れたくらいでくたばりおって。


 そのうち俺が直々にこいつらを鍛え直してやる必要があるな。



◆ ◆ ◆



 そういうわけでマンマール城に戻ってきた。


 もちろん馬車などという面倒な旅路ではない。

 今の俺は飛翔の魔法を自由に行使できるからな。


 唐突だったから出迎えはない。

 まあパレードをされても胸糞悪いからこれでよい。


「これはマホ殿。ゲドー様」


 城門の兵士が慌てて敬礼をする。


 城内の通路を歩くと、居並ぶ兵士たちも次々にビシッと敬礼する。


 さもありなん。

 やはりこの俺の強者オーラには兵士どもも平伏するしかないようだ。

 まあマホの人望も多少はあるのだろうが。


 謁見の間の扉に辿り着く。


「マホ殿。それにゲドー様も」


 扉の横にいた呼び出し係が敬礼する。


「ヒメール姫様に取り次いでほしいのです」

「はっ。では少々お時間を……」

「いらん」

「はっ?」


 ドガッ!


 俺は扉を蹴破った。

 何人たりともこのゲドー様を待たせることはできんのだ。


「ちょ、ちょっと困りぶぎゃ」


 俺は呼び出し係を張り倒すと、謁見の間に踏み込んだ。

 マホがため息をつきながらついてくる。


 謁見の間の壁際には数名の騎士が並んでいた。

 そして奥の玉座には、豪奢なドレスを纏った一人の女が座っている。


 ヒメールだ。


「ゲドー様。マホ」


 ヒメールが驚いた表情で、玉座から立ち上がる。


「よくぞご無事で。いつ戻られたのですか?」

「今だ」


 俺はヒメールと相対するように、謁見の間の中央で腕を組む。


「姫様。ご無沙汰しているのです」


 かたやマホは礼儀作法に則って、片膝をつく。


「マホ、ご苦労でした。大陸北部が一部消滅したという話は、私の耳にも届いています」

「はい。魔王は討伐したのです」


 マホの報告に、謁見の間がざわざわする。

 騎士どもが「おおっ、ついに」と歓喜の声を上げている。

 うぜえ。


「マホ。よくやってくれました。貴女は我らマンマール王国の誇りです」

「もったいないお言葉なのです」


 ヒメールの顔にも隠し切れない喜びが浮かんでいる。


「ゲドー様も本当にありがとうございました。感謝の言葉もございません」

「当然の結果だ」

「はい。伝説の大魔法使いゲドー様ならばと信じておりました」


 ヒメールは鷹揚に頷く。

 俺を見る目に恐怖や警戒の色はない。


 マホが俺を連れて帰還した時点で、俺の力は封印済みだと思っているのだろう。


 ククク。

 その形のいいツラがどう屈辱に歪むのか楽しみだ。


「これでマンマール王国は、魔王を討伐した国として、かつての威信を取り戻すことができます」

「残念ながらそうはいかんなあ」

「今夜はゆっくりと……え?」


 俺の言葉に、ヒメールが瞬きをする。


「この俺が貴様らを許すと思うか? 500年もの間、誰あろうこのゲドー様を封印した不遜なる貴様らをだ」

「マホ……?」


 ヒメールが戸惑いの視線をマホに向ける。

 マホは無表情のまま答えない。


「500年以上続いたマンマールの歴史は今日で終わりだ」

「ゲドー様、いったい何を仰っているのか……」


 ヒメールも周りの騎士どもも、さっきとは別の意味でざわざわしている。


「今日、この日。マンマールはなくなる」


 俺は仁王立ちで、謁見の間の中心で告げる。


「この大陸からマンマールという名の国は消滅するのだ」


 ざわざわ。


 ざわざわざわ。


「……ゲドー様。まさかこのマンマールを滅ぼされるおつもりですか?」


 ヒメールの顔色が青ざめている。


 クククク。

 いいツラになってきたな。


 だがまだこんなものではない。


「滅ぼしてやってもよかったがな。それより更にいい案を思いついた」

「それは?」

「本日よりこの国はゲドー王国に名を変える」

「……は?」


 ヒメールがぽかんとしている。

 周囲の騎士どもも同様だ。


「貴様ら下等生物にもわかりやすく説明してやろう」


 俺は両腕を広げた。


「この俺が! ゲドー様が! この国の王になり! 続いてこの大陸を支配する!」


 謁見の間を静寂が支配した。

 俺は構わず続ける。


「この大陸すべてがゲドー王国の! ゲドー様のものになる! この俺が愚民どもをことごとく支配してやるのだ!」


 俺はふんぞり返った。


「ふははははは! 徹底的に支配してやるぞ下等生物ども。伝説の大魔法使いゲドー様を王として崇め奉れ! 大陸最強の存在を王として戴けることを光栄に思うがいい」


 謁見の前に俺の哄笑が響き渡る。


「そ、そんなことは許されません」


 我に返ったヒメールが反論する。


「許されん? 誰にだ?」

「それはもちろん、大陸全土の民に……」

「その民とやらを力でねじ伏せることができる存在が、貴様の目の前にいる」

「力……」


 ヒメールが再びマホを見る。


「ゲドー様の力は封印されていないのです」

「つ、つまり……」

「ここにいるのは500年前の伝説に名を馳せた、邪悪なる大魔法使いその人なのです」

「そんな……」


 ヒメールの顔色がますます青くなっている。


「光栄に思えよ、ヒメール・アンダルシア・デ・マンマール。貴様は俺専属の侍女にしてやる」

「わ、私は王族です」

「だから何だ。ゲドー王国の王は俺であり、他の王族は不要だ」

「しかし……」


 ヒメールは気丈にも俺を相手に引かない。

 俺は唇を歪めた。


「だが俺は寛大だ。貴様には拒否権がある」

「……拒否するとどうなるのですか?」

「暇をくれてやる。永遠にな」

「そ、そんな」


 ヒメールは口元を抑えて絶句している。


 他の騎士どもも言葉がないといった様子だ。


「ええい、邪悪なる魔法使いめ! 大人しく聞いていれば付け上がりおって!」


 一人の騎士が、果敢にも剣を抜いて俺に詰め寄ってきた。


 ほう。

 なかなか骨のある奴がいるようだ。


「姫様、お下がりください。このような下郎の言うことなど聞いてはなりません」

「騎士団長、いけません!」


 騎士団長とやらはヒメールの言葉を無視して、俺に剣を突き付けた。


「下郎。今すぐこの城から立ち去れ。そうすれば命までは取らん」

「ははははは! 立ち去らなければどうするというのだ? ん?」


 騎士団長は怒りで顔を赤くしている。


「姫様に対する数々の無礼、もはや許されん。この場で剣の錆にしてくれる!」


 騎士団長が剣を振るう。

 刀身が俺の肩に食い込んで、血が飛沫いた。


「ククク……。どうした、まるで効かんなあ」

「ば、馬鹿なぐえ」


 俺は騎士団長の頭を鷲掴みにした。


「貴様はどうやら働きすぎのようだ。どれ、この俺が直々に暇をくれてやるとしよう」

「お、おやめなさい!」


 ヒメールが制止の声を発するがもちろん聞いてやる義理はない。


「務め、ご苦労。ゆっくりと休むがいい」


 俺は口角を吊り上げた。

 騎士団長の顔が赤から青に変わる。


「キロトン」


 騎士団長の頭が爆散した。


「ひっ、ひいい!」


 肉片や脳漿が飛び散り、周囲の騎士が悲鳴を上げた。


 俺は首から上がなくなった騎士団長を、床に放り投げる。


「な、何ということを……」


 ヒメールの顔色はもはや青を通り越して、白くなっている。


「さて」


 俺はヒメールに一歩詰め寄った。


「ひっ」


 ヒメールが怯えたように後退する。


「貴様が望むなら、騎士どもをもう少し休ませてやってもいいぞ。働きすぎは身体に毒だからな」

「そ、そんなこと……」

「貴様から全国民に発表するのだ。この国は今日からゲドー王国になったとな」


 俺はヒメールを見下ろす。

 ヒメールは恐怖で肩を震わせながら、俺を見上げている。


「何なら決断しやすくしてやろうか? 城下町が更地にでも変われば、貴様も肩の荷が下りるだろう」

「な……」

「どうだ、俺は優しいだろう。なあ、ヒメールゥゥゥ」


 俺が顔を近づけると、ヒメールの目に涙が浮かぶ。


 程なくして。


「わ、わかりました……」


 ヒメールが膝から崩れ落ちる。


「この国は……」


 ヒメールがカチカチと歯を鳴らす。


「この国は、今日からゲドー王国です……」


 ヒメールの顔はもはや土気色になり、表情は苦渋と絶望に染まっていた。


 ククク。


 クククク。


「ふはははははは! ははははははははははは!」


 そうだ。

 貴様のその表情が見たかったのだ、ヒメール。

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