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ゲドー様メテオ

 爆発の余波は凄まじかった。

 俺(※生首)は木っ端屑のように、天高く吹き飛ばされた。


 マホの結界が残っていなければ俺の首は消し飛んでいたことだろう。


 大陸北部は丸ごと消滅し、海面に没した。

 魔王はもはや跡形すら残っていない。


 俺の最強魔法をぶっ放したのだ。

 当然の威力と言える。


 爆発の瞬間、マホが自分自身にも結界を張ったのが見えた。

 奴の結界ならぎりぎり生き残っていることだろう。



 それはともかく、爆風は凄まじかった。

 首だけの俺は軽いから、とにかく吹き飛んだ。


「ぐはあああ」


 飛んだ。


 空を飛んだ。


「あああああああ」


 ひたすら飛んだ。


 雲を突き抜け、遠く遠くまで飛んだ。


「ああああああああああ」


 何十キロも飛んだ。


 何百キロも飛んだ。


「ああああああああああああ」


 そして自然の摂理に従って落下する。


 ぐんぐん落下する。


 ズッドーーーン!


 隕石のごとく落下した。


 屋根を貫通して床をぶち抜き、地面に埋まって止まった。


 ここでマホの結界は力尽きて壊れた。

 マホの奴は褒めてやらねばならんな。



「ひゃああああーっ!?」

「きゃあああ!」


 すぐ側で悲鳴が上がった。

 2つ。

 どちらも女の悲鳴だ。


「おい。誰か知らんがそこの愚民ども、このゲドー様を拾い上げて速やかに汚れを落とせ」


 脳天から地面に突き刺さっている俺は、首だけだからして振り返ることもできんのだ。


「えっ、ゲドー様!?」

「げ、ゲドー様……?」


 よく聞くと知った声だった。

 具体的には、ボクっ娘とボロ奴隷の声だ。


 小さなクレーターの中心から、エルルが首だけの俺を拾い上げた。


「ええっ、ゲドー様だー! 本物!? 首だけ!?」

「やかましいわ、ボクッ娘が」

「こ、この言い方は本物だよー!」


 エルルが近くのテーブルの上に、俺をちょこんと乗せる。


 そして恐々とシーリィが近づいてきた。


「ほ、ほんとにゲドー様ですか……? 首だけ……」

「本物だ。見てわからんか」

「で、でも生首……」

「触ってみろ。本物だとわかる」

「は、はい……」


 シーリィはびくっとしたが、おずおずと俺に手を伸ばす。


 むにぃ~っ!


 シーリィは俺のほっぺたを引っ張った。


 むにぃぃ~~っ!


 モチのように引っ張った。


「ち、ちゃんと触れます。本物です……っ」

「殺すぞ」

「ひぃっ、ご、ごめんなさい……!」


 エルルがタオルを持ってきて、俺をごしごしと拭く。

 苦しゅうない。


「ゲドー様、また会えて嬉しいけどどうしたの? 何で空から降ってきたの!? ていうか事務所が壊れちゃったよー!」


 なるほど。

 どうやらここはシーリィの新店舗で、俺は店のバックヤードにある事務所に落下したようだ。


「壊れたものはまた直せばよかろう。金ならたっぷりとやったはずだ」

「は、はい。お金ならまだあります……」


 シーリィはこくこく頷くと、俺に向かって深々と頭を下げた。


「ゲドー様。その節は本当に、ありがとうございました……」

「行動で示せ。新しい店は繁盛しているのだろうな?」

「は、はい。ゲドー様のおかげで」

「ならばよい」


 当然だな。

 この俺が力を貸してやって、繁盛していないなどと抜かしたらただでは済まさんところだ。


「そ、それよりゲドー様。どうして空から、首だけで……」


 シーリィが恐る恐る質問してくる。

 まあ生首など見慣れておらんだろうし、不気味に映るのだろう。


 かたやエルルはあまり気にしていないようだ。


 こいつは細かいことにこだわらないだろうしな。

 このゲドー様の圧倒的な存在感は、首だけになろうと不変なのだ。


「魔王をぶち殺した。その余波で吹き飛ばされたのだ」

「おおおーっ!」

「ま、魔王を……!」


 エルルとシーリィが驚きの声を上げる。


「ゲドー様、ほんと!?」

「誰にものを言っている。この俺は最強だ」

「すごーい! ゲドー様、すごいよーっ!」

「げ、ゲドー様。すごいです……!」


 口々に俺を褒め讃える2人。


「よい。もっと崇め奉れ」

「ゲドー様ちょーすごい! さいきょーだよー!」

「ゲドー様、すごいです。さすがです……!」

「ふははははは! はーっはっはっはっは! そうだろうそうだろう」


 エルルがキラキラとした目で俺を見つめる。

 シーリィは尊敬の眼差しだ。


 まあ俺にかかれば片手間の些事だったが、魔王討伐というのは一般的には偉業に分類されるからな。

 この反応は当然といえよう。


 凡人のこいつらもようやく、俺がいかに偉大な存在かを理解したようだ。


「じゃあもう200年前みたいな魔王大戦は起きないんだね!」

「よかった、よかったぁ……」


 エルルとシーリィは手を取り合って喜んでいる。

 ふん、弱者どもは全く大げさなことだ。


「でもゲドー様。何で首だけなの?」

「それだ」


 俺の疑問はまさにそこにあった。


 俺の卓越した再生能力があれば、そろそろ身体が生えてきてもおかしくない。

 いつまでも首だけというのは不可解だ。


 ……いや。

 待て。


 そうだ。

 思い出した。


 いつかの迷宮で、俺は死に掛けたマホに再生能力を分けてやったことがある。


 それだ。

 間違いない。

 俺の再生能力は万全ではない。


 今現在の再生能力では、生首だけになった俺の生命維持で手一杯なのだろう。

 肉体を再生するほどの余力がないのだ。


「マホの奴に、再生能力を返却させねばならんな」

「そういえばマホはどこ行ったの? 一緒じゃないの?」


 エルルがきょろきょろする。


 マホか。


 奴は卓越した結界使いだ。

 あの爆発の中でも生き残っているだろう。


 その後はどうするか。

 近くに俺の姿がないことはすぐにわかるはずだ。


 マホは俺と合流するために最適の手段を取るだろう。

 では奴は自ら俺を探しに出かけるだろうか?


 否だ。


 マホは馬鹿ではない。

 俺が一ヶ所に留まっているような性分でないことは理解しているはずだ。


 であればマホは、恐らく俺が元の場所に戻ってくるのを待っている。

 つまり魔王の居城だ。


 まあ魔王の居城は大地もろとも吹き飛ばしてしまったが、近くまで行けばマホはいるだろう。


 問題は、今の俺には移動手段がないことだ。

 魔力は生命維持のために費やしているから、迂闊に飛翔の魔法などは使えない。


 ふむ。


「おい、ボクッ娘」

「なになに?」

「俺をマホのところまで運べ。うやうやしくな」

「いいけど、どこ?」

「魔王の居城があった辺りだ」

「えーっ、ご近所じゃないの?」

「つべこべ言うな」


 エルルはうーんと唸ってから、シーリィを見た。


 シーリィはにっこりと笑った。


「お店なら大丈夫だよ」

「でも、シーリィ一人じゃ……」

「店員さんだって何人もいるよ」

「そうかもだけど」


 エルルはシーリィのことが相当心配のようだ。


「ゲドー様は私たちの恩人だから、困ってるなら助けてあげて」

「う~ん……。うん、そうだね!」


 エルルは悩んだが、最後には力強く頷いた。


「ゲドー様、私も何かお役に立てればいいんですけど……」

「そう思うなら店を繁盛させろ。この町一番の店にだ」

「い、一番はさすがに……」

「できんのか?」


 シーリィは少し俯いたが、きっと顔を上げた。


「いえ、やります。がんばります……!」

「それでいい。雑魚の貴様にできることは、あがくことだけだ。それを忘れるな」

「はい、ゲドー様……!」


 そこに気弱だったボロ奴隷の面影はもうない。

 こいつも愚民なりに多少はマシになったようだ。


「では我がしもべ。さっさと出発するぞ」

「ちょ、ちょっと待って。準備とかあるし!」

「急げ」

「もーっ、ゲドー様せっかちだよ」


 俺たちのやり取りを見て、シーリィがふふっと笑った。


「エルル。ゲドー様をしっかり運んであげてね」

「もちろんだよ! ゲドー様に何かあったら、ボク絶対後悔するもん!」


 エルルが俺の頭をぺたぺたと触りながら言う。

 やめんか鬱陶しい。


「ゲドー様。エルルのことをどうぞよろしくお願いします」


 シーリィが俺の生首に向かって、深々と頭を下げる。


「任せておけ。この俺は無敵だ」

「首だけなのに?」

「黙らんかしもべ」

「もーっ、ボクはエルルだよー!」


 だが確かに、この俺が首だけの無様を晒すなど許されんことだ。

 一刻も早くマホと合流せねばな。

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