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ゲドー様の必殺テラトン

 俺の首から下が消し飛んだ。


 首だけになった俺は、無様に地べたに転がった。

 ころころと。


「がっ……あっ……! 馬鹿な……!」


 死にはしない。

 限りなく不老不死に近い境地にいるこのゲドー様は、首だけになっても生存に支障はない。


 だがまずい。

 時間があれば肉体はまた生えてくるが、今は戦闘中だ。


 そして目の前には魔王がいる。


「フウウウウ――。好き放題やってくれたな、ゲドォォォ」


 ボディをべこべこにへこませて虫の息の魔王が、首だけになった俺を見下ろした。

 赤い双眸には怒りの炎が宿っている。


 魔王が俺を踏み潰さんと、大きく足を振り上げる。


 がああああ。

 くそがあああ!


 いかな俺といえど、頭を潰されたら死んでしまう。

 どれほど不老不死に近くとも、不死ではないのだ。


 魔王の足の裏が迫ってくる。


 やめろ。

 やめろおおお!


 この俺は最強のゲドー様だぞ!

 貴様のようなミンチ一歩手前の毛玉に殺されるなど、あってはならんのだ!


 足の裏がぐんぐん迫ってくる。


 くそがくそがくそが。

 くそがああああああああああ!


「トラエルシーダ」


 マホの結界が割り込んできた。


 魔王の足は結界をズシンと踏みつけた。


「でかしたぞ、マホ。褒めてつかわす」

「フウウウウ……。まだ魔力を残していたか、七賢者よ……。だがどれほど保つかな……」


 魔王が足をグリグリとする。

 俺を守っている結界がミシミシと軋みを上げる。


 マホの表情が歪む。


 咄嗟に張った結界だ。

 魔王の言う通り、どれほど保つか怪しい。


 マホは結界の維持に力を注いでいるが、このままでは結界が破壊されるのは時間の問題だろう。

 そして破壊されれば、後は魔王の臭そうな足が俺を踏み潰すだけだ。


 俺は魔王を見上げた。


 勝ち誇った表情で、牙を見せて笑っている。


 俺はマホを見た。


 歯を食いしばって結界を維持している。


 俺とマホの目が合った。

 マホの瞳には、悲観の色は浮かんでいない。


 マホはまだ諦めていないのだ。


 俺は口角を吊り上げた。


 それでいい。

 このゲドー様のしもべたる者、俺の勝利を最後まで確信していなければならない。

 なぜならこの俺に敗北はないからだ。


「ダム・ダム・ジア・ダム・ダム・エーク・オーム・エル・リータス」


 首だけになった俺にできることは、詠唱することだけだ。

 だがそれで充分だ。


 魔王が足をグリグリする。

 結界はもうヒビ割れ始めている。


 時間的に考えて、あと一度しか魔法を詠唱できまい。

 だが大いに充分だ。


「フウウウウ……。いまさら何をしようと無駄なことだ、脆弱なゲドォォォ」


 魔王は何度も結界を踏みつける。

 結界はもう割れる寸前だ。


「奈落よ。暗黒よ。闇よ――」


 俺は詠唱を続ける。

 俺を中心に、漆黒の波動がバリバリと収束を始める。


「大気に混じれ。渦を成せ。黒くなれ。塗り潰せ。漆黒よ来い。今すぐにだ」


 光栄に思えよ毛玉魔王。

 邪悪なる大魔法使いゲドー様の最強魔法をその身で味わえるのだからなあ……!


「グオオオオ……! この期に及んで何をする気だ、ゲドォォォォォ」


 膨大な魔力の収束を目の当たりにして、魔王が吼える。

 それが貴様の断末魔だ。


 滅びて鍋の具材になれ。


「テラトン――」


 視界一面が黒く染まった。


 闇色の爆発。

 音のない爆発。

 全てを飲み込む爆発。


 魔王ヴァルマ・ゲドンを肉片すら残さず塵に変えて。


 大陸北部は消滅した。

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