死肉に群がるハゲタカ的な
マホが馬車を止めた。
「馬鹿め、のこのこと姿を表しおったな下等な羽虫が」
翼竜は竜種の中では下位に属する生き物だ。
無論このゲドー様の敵ではない。
ずしんと音を立てて翼竜が着地し、馬車の進路に立ちはだかった。
ククク、一瞬で終わらせてくれるぞ。
「マホ、さっさと魔力をよこせ」
「はいです……あ」
俺たちをすり抜けるように、キシリーが飛び出した。
すでに剣を抜き放っている。
「魔法使い2人に先陣を切らせるほど、我ら騎士は腑抜けてはいない! 王国騎士団の剣技とくと見よ!」
凛とした表情でキシリーが翼竜に接近した。
「はああああ!」
裂帛の気合を込めて剣を構え――。
ぺしっ。
「うわあーっ!」
爪の一振りで吹っ飛ぶキシリー。
ころころと転がって馬車まで戻ってきた。
「くっ! さすがは竜。これほど手強いとは」
「いや」
どう見てもお前が弱いだろ。
俺の視線に気づいたのか、キシリーが悔しげに俯く。
「実は……」
「何だ」
「我が国は魔法使いの国と呼ばれていてな」
「知っているが」
「つまり、騎士や兵士の育成にはあまり金をかけていないので、弱いのだ」
そうかよ。
「ゲドー様」
マホが俺の手を握り、魔力を供給してくる。
「おい少ないぞ」
「マンマール城で翼竜を倒したときと同じ量の魔力なのです」
ちっ。
まあ確かにあんな小物、これくらいで充分だ。
翼竜が翼をばたつかせながら突進してくる。
俺は翼竜の頭部に手を向けた。
「キロトン」
範囲を圧縮して威力を上げた爆発が、翼竜の頭部を爆砕させた。
断末魔の悲鳴を上げることさえできず、大地に倒れる翼竜。
「おお……。何と見事な」
「さすがなのです、ゲドー様」
ふん。
俺にかかればこの程度、朝飯前だ。
「翼竜討伐は終わった。キシリーはさっさと帰って国王に報告してやることだ」
「そうだな。協力、感謝する」
お前何もしてないだろ。
「では私はこれで……ん? 急に空が曇ってきたな」
「雨になるのです?」
空を見上げる。
ずいぶん低空に雲が蠢いていた。
しかも局地的に、俺たちの頭上にだけだ。
いや。
おい。
あれは雲じゃないだろ。
「あ、あれは……!」
キシリーが絶句する。
「全部、翼竜なのです」
10匹?
20匹?
いやもっと。
雲と見紛うほどの数の翼竜が、俺たち目掛けて落下してきた。
「ふん、羽虫どもが。よくもあれだけ集まったものだ」
下位の竜種とはいえ、数が多いのは面倒だ。
だが案ずることはない。
この俺は最強の魔法使いゲドー様だ。
あの程度、魔法の一撃で薙ぎ払うことなど造作もない。
「おいマホ。魔力ファッ!?」
マホとキシリーは遠くまで避難していた。
ちょっと待て。
ふざけるな。
「ぐへえ!」
先頭の翼竜に突進されて俺は吹き飛んだ。
地面に転がる。
「ぐが……。このくそ羽虫ぶげぁ!」
1匹。
2匹。
3匹。
たくさん。
「あああああ!」
まるで死肉に集るハゲタカのように、俺は翼竜に群がられた。
「ぎゃあああああああ!」
全身をひたすら爪や牙でザックザクにされる。
「みぎゃああああああ!」
ザックザック。
そして肉をついばまれる。
グッチャグッチャ。
「ぎあおおお……」
ザクザク。
ザックザック。
グチャグチャ。
グッチャグッチャ。
「かゆ……うま……」
バッサバッサ。
翼竜どもは一通り俺の身体を食い荒らすと、満足して飛び去っていった。
「……」
ぴくぴく……。
全身の肉とか内臓とか骨とかを、グチャグチャに食い散らかされた俺が残された。




