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第三章 エピローグ




 




 2023年2月18日。


 多無羅市旧アーケード街。


 映画館前。




 人が多い。


 というか人混みが酷い。


 新作の映画目当ての人混みだろう。





「お父さん早く~~」

「待ちなさい」



 親子連れが僕の目の前を通る。

 というか以前見た顔です。あの子は映画館の中で首だけになっていた子ですね。


「楽しみだね」

「大怪獣パンダだろ~~久々の新作だな」


 友人同士。

 恋人同士。


 或は一人で。


 全員が映画館に見に来ていた。

 新作映画を見に。


「ごめん~~待った~~」

「ううん。今来たところ」



 あの人は地下室で解体されてた女性では?

 僕が最後の犯人達を始末する前に間に合わず、死んでいたはずだよね?

 でも今生きて眼の前にいるという事は、手遅れではなかった?


「どうやら元の時間に戻ってきたみたいだね」

『ああ……しかも過去改変されたオマケ付きでだ』


 うん。

 上手くいって良かった。

 いや。

 ガチで。


「僕達が間に合わなかった被害者の運命も変わったのかな?」

『というより<夕暮れの殺人鬼>を産んだ<金曜日会>が存在しなかった事になった世界線だな』

「だよね~~さっきの女性は僕達が間に合わずに助けられなかったんだし」







 地下室で解体されてた女性。



 北川と言ったか?

 あれに解体されていた女性だ。間違いなく。











 




 顔に恐怖の表情を張り付かせて死んでいた女性。






アイツらの獲物として天井から吊るされていたんだ。



錆びた鎖で。




女は解体されていた。






 まるでアンコウを解体するかのように。






 皮膚は剥がされ。

 血は抜かれ。

 腹は割かれ。

 内蔵は取り出されていた。



 あれで生きている方がおかしい。

 なのに今、恋人らしき男性と映画館前で待ち合わせをしている。

 これはおかしい。




『<夕暮れの殺人鬼>を産んだ元凶達を過去に遡り排除した。つまりこの事象を拡大講釈し<金曜日会>に所属していた全員の存在自体を無かった事にしたんだろう。だから被害者は存在しない』

「誰が?」

『<夕暮れの殺人鬼>という都市伝説を疎ましく思った存在か』

「だから誰だよ?」

『神に比類する意思か、そうでなければ世界の修正力だろう。或いはそれ以外のナニカ』

「つまり相棒にも分からないと?」

『うん』



 おい。


























「あれ? でも僕らは都市伝説のままだよ?」

『私達の背負っている都市伝説は、今回の過去改変の対象外だったみたいだな』

「な~~んだ」

『それはそうと』

「何?」

『今思い出したんだが……』

「だから何?」

『<夕暮れ時に現れる殺人鬼>だったよな? 君が最初に殺した都市伝説の名前は?』

「……二人共忘れてたね」

『もう居ないし、今更気にするな』

「そうだね……」


 気……気まずい。


 

 幸せそうな人たちの光景が今眼前に広がっている。

 それを人外となった僕は少し羨ましく思いながらも相棒と歩きだす。







「それはそうとして……」

『どうした?』

「話は変わるけど」

『どうした本当に』

「まさか実家から追い出されるとは思わんかった」

『ああ~~』


 相棒。

 その憐れむ様な視線は止めて。

 精神的にクル。


「いやね、普通は凄惨な事件に巻き込まれ、心に深い傷を負った息子を放り出すか?」

『錯乱して変な事をブツブツいう子供を養えと?』



 ほほう。


「それ。相棒が僕を操った上での偽装工作だよね?」

『迫真の演技』



 明後日の方をみるなや。


「真に迫りすぎた演技が僕が家から放り出される結果になると予想はしませんでしたか?」

『……』


 おい。

 相棒。

 視線を逸らすな。


「大学まで学費と生活費は出してくれるって両親とは約束したから良いけど」

『良いんかい』

「いや、流石に家族でも精神がオカシイ奴とは危険で同居できんだろう?」

『そこは素直にすまんと言っておこう』

「だからご飯を作る回数を増やしてくれ」

『それが本音かいっ!』

「中学生男子の家庭科の成績なんぞ期待しないで欲しい」

『そうだな……』


 憐れむ目は止めて。

 普通だからね。

 料理出来る男子はこの年齢だと希少だと思って欲しい。

 というか中学生男子に多くを求めるな。


『今どき卵かけご飯すら出来んとは……』

「出来るよっ! 卵は割れるぞ僕っ!」

『殻付きで卵を入れるのを出来るとは言わん』



 シクシク。

 泣いていいかな。


「まあ~~良いか相棒がご飯を作ってくれるし」

『気が向いた時にな』


 相棒の気が向いた時はほぼ毎日だがな。

 偶に夕食は無しになるが。

 何でかって言うと、僕が食材を買い忘れる時が有るから。

 その時は作ってくれない。

 だから僕が食材さえ買い忘れなければ、毎日ご飯は食えるはず。

 

 ……筈。


 因みに家事をする時だが……。

 相棒は一部分を実体化させてしてくれる。

 どうするかと言えば、調理する時だけ両手だけを実体化。

 等という感じだ。

 そうすることで実体化の負荷が減り時間延長ができる。

 

「なあ~~相棒」

『何だ?』

「二人きりでアパートに居るとさあ~~」

『何なんだ?』

「同棲してるみたいだね』

『おまああああああああああああああああっ!』


 

 照れてる。

 照れてる。


「相棒。夕飯は何?」

『お前の好きなハンバーグだ』

「良いね」




 アパートに帰る前にスーパーに寄らんと。

 食材を買いに。



 さて。


 今日は疲れたな~~。





















 薄暗くなり始めた時間に下校する生徒たちがいた。

 殆どが女子高生だ。

 清楚な女の子。

 或いは茶髪に染めたヤンキー。

 


「でさ~~大介先輩なんて言ったと思う?」

「なんて言ったの?」

「お前に明子さんは任せられないっ! 幸せに出来るのは俺だけだっ!」

「ださっ!」

「そうだよね~~」














































「ねえねえ。知ってる?」



 



「何を?」


 取り巻きの一人が振り向く。


「あの噂」

「あの噂って?」




「<夕暮れ時に現れる殺人鬼>」





「人の居ない路地を歩いてると何処からともなく現れるという」



「殺人鬼」





「ボサボサの頭にホッケーマスク」

「血と泥で汚れたにボロボロのトレンチコート」

「様々な道具で惨たらしく人を殺すという」


















「殺人鬼の都市伝説」




















 

「夕暮れに現れる斧を振るう殺人鬼」

「ああ~~あれね。噂でしょう?」



 訝しげに考え込む女子。


「というか出刃包丁と聞いたけど?」

「私はチェンソー」


 疑わしげな表情で考え込む。


「噂じゃないみたいよ。二年の子が遭遇したって」

「えっ!? 嘘じゃないの?」

「本当みたい」

「うわ~~マジか~~」

「幸い逃げ切れたらしいみたいよ」


 

「へ~~なら~~もしもの時はあの子に頼れば良いのかな?」


 


「都市伝説だよね?」


 

 

「同じ都市伝説だし良いんじゃない?」


 


「ラジオを持った子供」


 



「惨劇の現場に何故か居合わせる子供」

「正確に言えば子供ではない」

「現れるのが子供とか女性とか厳つい男とか姿はあやふやだとか」



 必ず凄惨な現場に遅れてやって来るという都市伝説。

 運が良ければ生き残りを助けてくれるという。


「そうだね」

「クスクス」


 それは他愛のない噂話。

 それはここ最近巷で流行っている噂だった。


 そう唯の噂だ。


























 噂の筈だった……。

 



 

「ねえ……」





 立ち止まる一人の女子高生。




 なぜ立ち止まるのか首を捻る友人達。

 

「どうしたの? 震えてるよ」


 ガタガタ。

 ガタガタ。


 その子は震えていた。

 顔を青ざめて指を前に指す。







「あれ」







 え?


 その指先。


 その方角に目を向ける。


「何?」

「あれは何?」


 震える指先にいる存在。


「アレは何?」



 唯の。

 噂だった筈だった。

 震える指先に居る者。

 そこにはさっきまで噂をしていた都市伝説がいた。



 ヴウウウウウウウウウウウッ!



 そいつはこちらを見て嗤っていた。

 チェーンソーのエンジンを動かして。

 そのままこっちに走ってくる不審者。

 


 ヴウウウウウウウウウウウッ!





 その途端、飛び散る血潮。








「え?」






 誰が呟いたのか分からない。

 今となっては。




 クルクルと不審者の首が飛ぶ。


 クルクルと。

 クルクルと。


 そのまま血飛沫を上げてアスファルトに落ちる。

 軽い音を立てて。

 思ったよりも軽い。








「亡霊は死んどけ」









 頭のない胴体から大量の血飛沫が上がる。

 噴水のように。



 そのままドサリと胴体が倒れる。

 

 それをポカンと見ていた。

 


 


 冗談のような光景。

 現実離れした光景。

 非現実。


 


 それを成し遂げたのは小柄な人物だった。




「は?」

「何なの?」



 ポカンとする女の子達。



「今日あった事は忘れて早く家に帰りな」

『そうだな』






「相棒なんなのアレは? <夕暮れ時に現れる殺人鬼>に似た都市伝説は」

『過去の残りかすだな』

「残りかす?」

『過去、<夕暮れ時に現れる殺人鬼>が存在したという改変前の残滓を消去しきれず、お前の幼馴染達を改変前の歴史の流れに沿って、殺そうとしただけだな』

「はた迷惑な」

『今後、<夕暮れ時に現れる殺人鬼>は<夕暮れの殺人鬼>に姿を変えて現れん』

「本当に?」

『多分』

「視線を逸らすなや」





 その小柄な人物は夕日を背に歩きだした。

 それを見送る女子達。




「何なのかな? 薫さん」

「さあ?」





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