火車(妖怪)7
何というか産毛を触られてるような此の感じだな。
空気が変わってる?
いや違う。
何だこれ?
湿気が多くなったというか……。
悪寒に似たこの感じは何だ?
「うん?」
『どうした?』
「空気が変わった気がする」
『空気だと?』
ゴロゴロ。
これは完全に雨が降るな。
雷雲が出ている。
ピカッ!
ドカーンッ!
「うえ」
ポタ。
ポタポタ。
ポタ。
ザア―ー。
「雨が降り出したよ」
あ~~。
降りて雨宿りするか。
そう思ったときだった。
妙な気配を感じた。
ソレを生き物と言って良いのか分からない。
何しろ居る場所が場所だ。
そこに何かが居ると言う想像が出来ない。
暗雲の中に生物が居るとは想像の埒外だ。
雷鳴が轟く。
ゴロゴロと。
空を覆う黒雲。
その中から突風とともに火の玉が飛来してきた。
火の玉は死体にかぶさった。
突然の事で僕らは固まる。
火の中に何か居る。
ナニカ。
二又の尾を持つ巨大猫。
その姿はまさしくソレだ。
死体に熊のような腕を突き出した。
何だ?
何だアレ?
まさか?
まさか?
亡骸が目当て?
何の為に?
亡骸を奪おうとするその手。
その腕は三本の爪が生え銀の針のような毛に覆われていた。
『アレは火車か』
「アレが火車?」
え?
『先程話した遺体を奪う妖怪だ』
「遺体を?」
『そうだ』
まさかクラスメイトを?
『奪った遺体は貪り食うらしい』
何かがキレた音がした。
静かな何かが。
「悪鬼変身」
キーワードを唱える。
瞬時に都市伝説に戻るキーワード。
これを唱えることで異能を開放する自己暗示を仕込んでいた。
力が漲る。
都市伝説としての力が。
力を取り戻す僕。
僕は気がつくと火車に攻撃を仕掛けていた。
『おいっ!』
相棒の言葉は聞こえない。
出刃包丁を振りかざし目を狙う。
「ガアアアアアアアアアアアアッ!」
それを防ぐ火車。
へえ……。
何故か愉悦感がする。
何故か。
にいい~~と嗤う僕。
続けざま隠し持っていたバールで殴る。
鈍い音がする。
だが何のダメージも与えてない様に感じる。
「ちいいいいいっ!」
体を捻り僕は蹴りを放つ。
駄目だ。
ダメージが通らない。
刃物でなくては駄目か?
「皆の者かかれっ!」
そんな時に翁が号令を下す。
ニャアアアアアアアアアアアアアアッ!
フウウウウウウウウウウウウウウウウッ!
シャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
猫又達が翁の命令で一斉に襲いかかる。
だが元は猫。
何のダメージも与えられない。
ミニャアッ!
ギャンッ!
何匹か猫又が道路の叩きつけられる。
不味い。酷い怪我だ。
ちいいいいっ!
「下がれっ! 後は僕たちが引き受けるっ!」
「しかしっ!」
僕の言葉に反抗する翁。
『こいつの言う通りにしてくれ翁っ!』
「くう……分かった」
相棒の言葉に引き下がる猫又達。
「さて……決着をつけるか? 火車」
獰猛な笑みを浮かべる僕。
「細切れにしてやる」
「ガアアアアアアアアアアッ!」
僕の言葉に激昂する火車。
すると火車の動きが突然遅く感じだした。
これは生体加速か?
無意識に起動させたソレ。
僕は火車の攻撃する。
大きく振り下ろした火車の右腕。
それを躱し懐に入る。
そのまま心臓に体ごと出刃包丁で突き刺す。
鈍い音がする。
あれ?
先端しか刺さらないぞ?
「ギアアアアアアアアアッ!」
火車は体を捻り左手で僕の胴体を薙ぎ払おうとする。
僕はその場に屈み横に飛ぶ。
ドンッ!
僕の元いた場所が火車の足で抉れていた。
おいおい。
冗談だろう。
速度が尋常じゃないんだけどっ!
僕は出刃包丁とバールで連続攻撃をする。
それを火車は躱し左右の手で捌いていく。
時折僕に相手の攻撃が当たる。
ダメージがデカい。
向こうのほうが図体が大きいので威力が有るのだろう。
手数は互角。
速度は向こうが上。
攻撃力はこちらが上。
ハッキリ言ってこちらが有利とは言えない。
決定打を与えられないからだ。
だから火車はこちらを見下し慢心をした。
だからフェイントに引っかかった。
ザンッ!
「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!」
心臓を狙おうとしたフリをして目に出刃包丁を刺した。
そうして止めを刺そうとした時の事だ。
火車は逃げ出した。
ちいいいいいいっ!
逃がすかっ!
『仕留めろ』
「ああ」
『そうしなければ死体となったお前の友人を奪いに来るぞ』
「分かった」
僕は加速して近づき火車に斬りかかる。
それを避けた火車はそのまま空を飛び逃げ出す。
速い。
だがっ!
僕は其処で跳躍。
火車に接近し斬りつけようとしたが逃げられた。
『ちいいいいっ! なら飛び道具で……』
相棒が何かをやろうとした途端。
火車は更に飛行速度を上げ逃走する。
恐ろしく速い。
これはもう追いつけない。
それだけなら良い。
問題は不意にその姿を消した事だ。
何で?
『一部の妖怪。もしくは都市伝説が持つ『姿隠し』の能力か』
「最悪なんですけど」
これでは追跡なんぞ出来るわけないわ。
追撃を諦めた。
「不味いな」
『ああ』
「このままでは死体が奪われる」
『不味いな』
「ねえ高速で移動する能力は無いの?」
『あるけど幾分、火車より遅い』
「あ~~確か殺人鬼から逃げ出した時使用した……」
『それだ』
不味いな。
速度が足りない。
しかも姿隠しを使われたらお手上げだ。
このままでは不味い。
そして時間をかければ人間に、この死体の山を見られる。
当然、検死の為に搬送されるだろう。
そうなれば警察病院に移動中に死体を奪われる可能性が有る。
どうにか出来ないか……。
うん?
思わず僕はビルを見上げた。
……。
………。
…………。
「姿隠しさえ無ければ……」
何とかなるんだが……。
「その様子。何か手はあるんだな?」
「翁」
僕に話しかける翁。
「それなら我らに任せろ」




