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お嬢様、悪だくみをしましょう

「それで、首尾はどうだったんだい?」

「あなたの予想通りよ。この段階で戦争が止められるなら、そもそも戦争なんて起きないわ」

「だろうな。まぁ、君の名前と顔を彼に再認識させることができたのだから上々だ」


 生徒会室での密談の後、私はリリスと合流して帰途に就く。

 殿下との密談は、先述の通りまぁまぁと言ったところ。顔合わせと、私という存在の認識をさせたところに意味がある。戦争なんて二の次だし、帝国の存亡なんてさらにその次だ。


「と言っても、君と私の野望のためには、まだ帝国に滅んでもらっては困る。ちょいと痛い目に合う程度、そして君の名が高まる程度には、頑張ってもらいたいものだ」

「たかが学生身分の私が、しかも没落貴族の私が何かできるのかしら」

「だからこそ、成功時のインパクトは並以上だろう。そのためにも、あの皇太子が何を言っていたかを詳しく聴こうじゃないか」


 リリスの目が微かに光る。人間同士の醜い営みが大好きなのは実に悪魔らしい。


 私は殿下から教えてもらった機密情報、特別軍事作戦と動員兵力について彼女に教えた。無論、このことを誰にも漏らさないという条件で殿下は私に教えたのだが、私はそれを守る義務もない。殿下もこの程度の情報漏洩は気にしてはいないだろう。たぶん。

 一応、他の人間に聞かれないよう、人目のないところで話しているつもりだ。


「動員兵力12万か。威嚇にしては多いな。威嚇にしては」

「威嚇じゃなければ?」

「威嚇じゃなく戦争したいなら、あと3倍は必要だろう。クライン共和国はそこまで小さな国ではないはずだよ」

「同感ね。まともに戦えば負けはしないでしょうけど、得るものは何もなく失うものが多すぎて戦略的な敗北は必至と言ったところかしら?」

「そんなところだろう。いやはや、愉快な話じゃないか」


 帝国にとっては、愉快な話でも何でもない。


 クライン共和国は、帝国にとっての宿敵である西方諸国の支援の元独立を果たした国家である。この国に戦争をするとなると、西方諸国の反発や、より強固な支援が共和国を獰猛な戦士に変えるだろう。

 一方で、こっちは首がまともに回らないやせ細った狂犬である。威勢だけは立派な、そんな国家だ。


「問題は、我々はそこにどうつけ込むかだが……」

「志願兵として従軍する?」

「それもありだろうが、もしかしたらその必要はないかもしれないよ」

「……どういうこと?」

「ふっ。半年もすればわかるさ」


 予想が外れるかもしれないがね、とリリスは保険を張ったが、しかし何を予想したかは教えてくれなかった。


「けど半年何もしないでは能がないわ。今できること、もしくは半年後にすることの準備をしましょう」

「賛成だ。というわけで、君はベルアクティと仲良くなりたまえ」

「……は?」


 ベルアクティ?

 フルール・ベルアクティのことを言っているのだろうけど、なぜ急に?


 私の疑問を察したのか、リリスはすぐに答えた。


「ベルアクティ家が何者かを、君は知らないのかい?」

「知ってるわよ。帝国四大銀行のひとつ、ベルアクティ銀行の創業家でしょ。経済力で言えばその辺の貴族家よりも上で、正直まだ貴族じゃなくて平民なのが驚き」


 四大銀行とはそのままずばり、帝国で最も資産額・預貯金額が多い銀行トップ4の、すなわちエグリゴリ銀行、ルカニック・レット銀行、アスラピスク銀行、ベルアクティ銀行の総称である。


 その四大銀行の中で、創業家が平民なのはこのベルアクティ銀行だけ。他は貴族家だったり、元は平民だったが貴族の血を受け入れて陞爵している。

 そのためなのかはわからないが、四大銀行の中で最も地位や格で劣っており、市場での競争力不足に陥っているという話もある。


「で、そのベルアクティ銀行がどうしたのよ。口座でも作って貯金でもするつもり?」

「まぁ、それに近いな」

「はぁ?」

「銀行家というのはあまり好きな人種ではないが好き嫌いをしている時間もない。なにせ半年しかないからな」

「いったい何を――」


 するつもり、と言いかけたところで、


「あ。こちらにいたんですね、ミドラーシュさん!」


 そう名前を呼ばれた。

 聞いたことのある声。振り向かずともわかる。というか、都合の良いことである。噂をすればなんとやら、という奴だ。


「フルールさん、どうかしましたか?」

「いえ、急にいなくなったのでどこに行っていたのかと思っていたんです。……えっと、お邪魔でしたか?」


 人目のつかないところで密談。なるほど、確かに隠れて何かしているのではと考えるのは普通だ。実際、悪だくみをしていたわけだから。


「いいえ、何でもないわ」

「そうですか? なら、一緒に食堂へ行きませんか? ちょうどよい時間ですし!」

「えっと――」


 一瞬、断ろうと考えた。しかしふとリリスの顔を見ると、彼女は私に向けて笑みを浮かべている。親睦を深めるいい機会なのだから、これを逃すなと顔面で訴えかけていた。


「えぇ、いいわ。一緒に行きましょう」


 一体何を考えているのか。私には、この悪魔の考えなどわからない。

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