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恋に落ちると言うこと  作者: 川木
その後の話
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よしよし

 那由他ちゃんが高校生になってから、早くも二年が過ぎ、もう高校三年生になった。最近の那由他ちゃんは、どうにも私を子供扱いしたがる。


 そのきっかけはほんの三か月前の些細なことだった。私が一人暮らしを始めた初日から那由他ちゃんには合鍵を渡しているから、残業をして遅く帰ったある日、那由他ちゃんが家にいたとしてもおかしいことではない。

 約束はしていなかったけど、お休み前だから来てくれたのだ。だけどいつもなら那由他ちゃんが来ると気持ちを切り替えてテンションをあげていたところ、そうと知らない私はへろへろのまま帰ってしまい、さすがに会ってすぐにテンションを切り替えられずにくたくたに疲れた顔を見せてしまったのだ。


 そんなふがいない私に那由他ちゃんは呆れることなく誠心誠意お世話を申し出てくれて、着替えを手伝ってくれ、用意してくれていたお風呂に入っている間に夕食を仕上げてくれ、あーんして食べさせてくれた。

 今は食後、私がぼんやりスマホをいじっている間に那由他ちゃんは洗いものをすませて自分もお風呂にはいり、あがってから私の髪を乾かしてくれている。


「かゆいところはございませんかー?」

「ないでーす。いやぁ、ほんとにごめんね。全部やらせちゃって。もう乾いたでしょ? 代わるね」

「はい、お願いしますね」


 元々タオルドライで時間もたっていたので、私のはすぐに乾いた。交代してソファの下におりた那由他ちゃんを膝の間に入れての髪を乾かす。

 那由他ちゃんは髪を段々伸ばしていて、高校入学時点ではまだ肩に届きだしたくらいだったけど今では肩甲骨の下まである。すっかりロングヘアで、日々色んなヘアスタイルを楽しんでいる。女子力も昔と段違いである。


 ドライヤーで乾かしたら、仕上げに三つ編みにする。那由他ちゃんは髪が伸びてから寝る時はいつも三つ編みだ。これがまた、清純っぽくて可愛いんだよね。最高。


「はい、可愛い」

「ふふ、ありがとうございます。時間はまだ早いですけど、今日はもう寝ますか?」

「うーん、そうだね。那由他ちゃん来てくれてるのにほんと申し訳ないけど、疲れたし」


 ドライヤーを置いて三つ編みの毛先を揉む私に、那由他ちゃんは振り向いてそう言った。まだ10時。いつもに比べたら早い。普段の平日でも11時は過ぎてから寝てるし、那由他ちゃんが来ている時なら日付が変わっていたって珍しくない。


 だけど今日は元々那由他ちゃんが来ると思ってなかったので、気力を使い果たしてしまったし、甘やかしてくれるのが心地よくてこのままだらだらしたまま心地よく眠りにつきたい気分だ。

 そんなただお世話になるばかりで訪ねてきてくれた恋人に対してなにも返せない私に、那由他ちゃんはにっこりと微笑んでくれる。


「気にしないでください。約束せずに来たのは私ですから。それに、お疲れの千鶴さんを少しでも癒せたなら嬉しいです」

「あー、那由他ちゃん好きぃ。もう那由他ちゃんなしで生きられない。結婚してぇ」

「はい、来年ですね。楽しみです」

「うん……」


 健気すぎる那由他ちゃんに思わず軽くはハグしながら告白する私に当然の様に微笑んでくれる那由他ちゃんが慈愛の女神過ぎて、ふざけて言ったんだけど、こう、現実に予定が迫ってきてると思うと、なんか照れてしまった。


 照れ隠しに抱きつくのをやめて、そのままソファに横になる。手足を伸ばしてのびをする。ぼき、と背中がなった。最近は運動不足がひどい。春頃はどうしてもバタバタしてしてしまうんだよねぇ。残業も多いし。


「千鶴さん、横になるならベッドにしてくださいよ」

「うーん、もうちょっと」

「もう……あ、いいことを思い付きました」

「え? ちょっ、ちょっと待って。実行する前に教えてくれる?」


 那由他ちゃんがにんまり微笑みながら立ち上がったので慌ててソファに手をついて体を起こしながらとめると、那由他ちゃんはむっと眉を寄せた。


「なんですかその言い方。まるで私が変なことばかり思い付くみたいに。私はただ千鶴さんをお姫様抱っこで運んであげようと思っただけです。昔より力もついたので、できるかな、と」


 みたいに、じゃなくて那由他ちゃんはわりとやべーこと思い付いてしまう子なのでとめたのだけど、どうやら今日は問題ないらしい。確かに那由他ちゃんは最近では中華鍋も余裕で振れるようになったし、お米も片手で抱いてる。

 昔は体が大きくても子供って感じだったしインドアらしい貧弱さがあったけど、高校生になったくらいから随分改善されてるしね。もちろん私たちの体格差が前提だけど、多分できるんじゃないかな。


「それならまあ、ちょっと恥ずかしいけどお願いしようかな」

「はい。じゃあ、腕回してください。行きますよ。ふっ」


 ソファの横に立った那由他ちゃんが私に腕を回してくるので、そっと首の後ろに手を回し、那由他ちゃんに身を任せる。掛け声と共にぐっと体が浮き上がった。その思った以上の力強さに、ちょっとびくっとして那由他ちゃんに力いっぱい抱き着いてしまったけど、安定している。


「た、立つ瞬間はちょっと大変でしたけど、大丈夫そうです」

「おー、那由他ちゃんたのもしー。カッコいい。ドキドキしちゃう」

「え、えへへ」


 家事をしてくれると言っても、体育会系の部活をしている訳でもない那由他ちゃんが私を軽々お姫様抱っこするなんて。やっぱり体格差って大きいみたい。あと、体重差もある方がやりやすいんだよね。確か20キロ差くらいはあったほうがいいんだっけ。ちょうどそのくらいなのかな?

 背が高いんだからある程度重さだってあって当然だし、ちょっと全体的にむちっとしてる感じが好きなのでこのままでいてほしい。


「じゃあ、おろしますね」

「はーい。ありがと、那由他ちゃん大好き」


 那由他ちゃんは危なげない足取りで私をベッドに運んでくれた。おろしてもらう時は少し勢いがあったけど、全体的に百点なお姫様抱っこだったので、頬にキスしてお礼をする。


「んふふ。どういたしまして。千鶴さん、ついでに子守歌でも歌ってあげましょうか?」

「あー、意地悪な言い方して。ふふ。でも、折角だしお願いしちゃおっかな」

「えっ、わ、わかりました」


 いつものように私の隣に入っ布団をかけてくれた那由他ちゃんは悪戯っぽく、私を子ども扱いするみたいなことを言い出したけど、私は別に嫌ではないのでお願いしてみた。那由他ちゃんの方がびっくりしてしまっているけど、言い出したからひけないと思ったのか、私のお腹の上に手を乗せてポンポンしながら小さく歌いだした。


「ね、ねーんねーん」

「せんせー、声が小さくて聞こえませーん」

「せ、先生って何ですか。からかわないでください。もういいです。千鶴さんを癒してあげようと思っただけなのに」

「ごめんごめん。でも癒された。もうね、那由他ちゃんと触れあってるとすごい癒される。ありがとう、那由他ちゃんこそ私の天使だよ」


 膨れて赤くなる那由他ちゃんに思わず笑ってしまいながらそっと頬を撫でると、もう、と言いながらも笑ってくれた。


「もう、また調子のいいことを……じゃあ、こうしてあげます」

「あー」


 那由他ちゃんはそう言いながら私の頭をそっと胸に抱きしめた。横向きなので普通に胸が強調されているし、当たるとぽよぽよしてとっても気持ちいい。思わず顔を摺り寄せる。


「ん、あ、あんまりすりすりされると、くすぐったいです」

「いやー、これはいい。と言うか、めっちゃ癒されるね。よく思いついたね」

「んふ。千鶴さん、前から私の胸好きじゃないですか」


 確かに普段から那由他ちゃんの胸に顔をうずめるのはちょいちょいしていたけど、でもその時はだいたいその後えっちなことをするので興奮しているからね。癒されると言う感覚はそんなになかったけど。

 でもこうして、疲れて性欲どうでもいいやって状態で顔をうずめると、ほんと、純粋に癒されるなぁ。いい匂いだし、柔らかくてあったかくて気持ちよくて、疲れが溶けていくようだ。


「確かにね。これは盲点だったよー。はぁー……」


 私は那由他ちゃんの背中に手を回して存分に那由他ちゃんのおっぱいを堪能する。これは、これはよいものだ。那由他ちゃんのおっぱいは天国。


「ふふふ。千鶴さん、子供みたいですよ」

「うぅ、那由他ちゃんの子供になっちゃいそう」

「可愛い。んふふ、じゃあ、これからも千鶴さんが疲れた時は、私がママになってあげますね。よーしよーし」

「そ、それはやりすぎ」


 と言いつつ那由他ちゃんに胸に抱かれ頭を撫でられながら、私は眠りについた。もちろん翌日は元気いっぱいで、子供ではできないこともたくさんした。


 そんなことがあってから、三か月もたった今では私が疲れた様子をみせるとすぐ、当然の様に胸に抱っこして頭を撫でてよしよししてもらう流れができてしまったし、妙にママと呼ばせようとする。


「ふぅ、今日は少し疲れましたね」

「そうだね。毎年のこととはいえ、ありがとう」

「いえいえ。疲れたならどうします? よしよししましょうか?」


 なので今日、休日に一日衣替えの為那由他ちゃん協力の元ばたばたしていたのだけど、那由他ちゃんも疲れただろうにそう当たり前のように提案してくれた。


 週末で那由他ちゃんがお泊りしてくれるし、今日は普通に、那由他ちゃんとえっちなことも考えていたのだけど、那由他ちゃんはそうでもないらしい。

 よしよしされていると、那由他ちゃんがやたら子供扱いするのもあって何となくそう言う感じにはならないんだよね。それはそれで幸せだけど、その頻度がそこそこあるので、ちょっと欲求不満なような。

 でも楽しそうだし、那由他ちゃんも今日疲れてるもんね。那由他ちゃんの服も多少おいてるとは言え、基本は私の物を当然の様に手伝ってくれたのだ。なら好きなようにさせてあげよう。私も嫌ってわけじゃないし、明日那由他ちゃんが帰るまでにまだ機会はあるしね。


「じゃあ、お願いしようかな」

「はい、どうぞ」


 那由他ちゃんはにっこり笑って私にむかって両手を広げて見せる。そこに躊躇わず飛び込むように抱き着くと、優しく抱擁され、思わず息がもれてしまう。

 はー、ほんと、癒される。と言っても、今日はこれまでの仕事終わりと違って、一日那由他ちゃんときゃっきゃしながらの作業なので、気力的にはまだ元気だ。なのでやっぱ、多少ムラムラしてしまうな。怒られない程度に那由他ちゃんの胸に手を添えて軽く手触りを楽しむ。

 

「よしよし。可愛いですね。ママって呼んでくれていいですよ」

「だからそれはいいって」

「いいじゃないですかぁ。そろそろ諦めてくださいよ。私のおっぱい好きなんですから」

「そ、それはそうだけど」

「いいじゃないですか。二人だけで、おふざけで呼んでってだけなんですから。そもそも、よしよしはOKなのにママは駄目なんですか?」

「いやぁ……ふざけて、ママ―って一回呼ぶくらいはいいけど、那由他ちゃん今後もずっとそれで呼ばそうとしてるよね?」

「よしよしの時だけですよ」


 それは全然、だけじゃないんだよね。だってすでにそこそこの頻度でしてくれてるし。甘えてるのだって割と恥ずかしいは恥ずかしいんだよ? ただそれを上回って心地よくて、ほんとに癒されるから抗えないだけで。

 私は那由他ちゃんの胸を横から軽くもみつつ、あのねぇ、と真面目なトーンで答える。


「これでも私、年上なんだから。ずっと那由他ちゃんと子供ごっこするのは恥ずかしいし、一応プライドとかもあるんだからさぁ」

「千鶴さんにプライドなんてあったんですか?」

「いやあるよ」


 すごいこと普通に聞かれた。プライドない人なんている? 那由他ちゃんにはいつも優しいからって、そんな情けない姿見せてたっけ? ……まあ、よしよしされてる時点で情けないか。うん。まあそれはね、仕方ないよ。那由他ちゃんも社会にでればわかる。


「うーん、じゃあこうしましょう。よしよしから、頭以外もよしよしする時だけママって呼ぶのはどうですか?」

「ん? ……えっと、あれかな、もしかして、赤ちゃんプレイ的なことがしたいってこと?」

「そ、そう言う言い方はやめてください。ぷ、プレイとか、いやらしいです」

「え、あ、ごめん。え? でも、ようは、する時にママ呼びで子供ごっこしながらしたいってことだよね?」

「んん……まあ、その、ち、千鶴さんが、私の胸に収まってる千鶴さんが可愛いので、その、胸がきゅんとすると言いますか、私の母性本能的なあれで、その、そう言うことです」


 いやそう言うことではないよね? 母性本能に訴えかけられてる状態でえっちなことしようと思わなくない? うーん、抵抗はある。あるけど、那由他ちゃんが普段に年上ぶろうとしたり、している最中に私におねだりさせようとするのは珍しくないんだよね。

 恥ずかしいけど、私がされる時はそれはそれで、あり寄りのありと言いますか。でもその二つを合体させるだけに飽き足らず、ママはさすがに。うむむむむ。


「……あの、子供ごっこくらいなら、まあ、お互いにね、無邪気な感じでするとか、悪くないよ? でも、ママはちょっと」

「どうしても、駄目ですか? 一回だけ、今日やって、どうしても嫌だったら途中でやめてもいいですし、とりあえず一回だけ、しませんか?」

「う……わ、わかった。一回だけね」


 那由他ちゃんは粘りだすと長いし、下手に断ると手を変え品を変え策をめぐらそうとしてくる。正直、そこまでするほどではない。一回して満足するなら、一回くらいなら、まあ。

 ……こういうところが、プライドないって思われてるのかな。でも、那由他ちゃんがそんな可愛い顔でお願いして、どうしてもとか言われて、心動かないような関係じゃないじゃん? だいたいのお願い叶えてあげたいじゃん? だって大好きだもん。


「! ありがとうございます。だから千鶴さん大好きです」

「はいはい」


 ほら、今のその、嬉しそうな顔。可愛すぎるし、そりゃその顔見るためには多少のことは飲み込むよ。もう6年の付き合いなのに全然飽きないし、いつでも愛してるし。仕方ないでしょ。


「じゃあ、さっそく呼んでください」

「……ママ」

「……いいですね! その、恥じらってる感じとか、すごい、きゅんとします。あー、母性本能くすぐられます。よーしよし、可愛いでちゅね」


 那由他ちゃんに抱きしめられた状態で那由他ちゃんに性欲を抱きつつママ呼びをすると言う状況にものすごい羞恥心を覚えつつも何とか呼ぶと、那由他ちゃんは大喜びで私の頭と、ついでに手を伸ばしてお尻を撫でながらそう可愛がってくるけど、いや絶対それ母性本能ではない。と私も那由他ちゃんのおっぱいなでなでしながら受け入れてるけど。


「あ、この間、千鶴さんのこと違う呼び方してもいいですか?」

「え? いいけど、例えば?」

「千鶴ちゃん、とか。だって、子供にさん付けはちょっと変ですもんね」

「うん、まあ、いいけど」


 恋人なのだし、別に呼び捨てだっていいのだけど、ちゃん付けかぁ。うん、まあ、ここまで来たら好きにしてください。


「じゃあ、可愛い可愛い千鶴ちゃん、ママがよしよししてあげますねー」

「可愛いねぇ、ちゅーしましょうねぇ」

「気持ちいですかー、もっとよしよししてあげますねー」

「はーい、千鶴ちゃんばんざーい、上手に脱ぎ脱ぎしましょうねー」


 ノリノリ過ぎない? いやまあ、途中から吹っ切れて私も、ママ呼び通り越して幼児になりきってたけども。

 終わってシャワー浴びながら冷静になった私は死んだし、もう二度としたくなかった。したくなかったけど、那由他ちゃんがお気に入りになってしまったのでその後も定期的に行われることになるのだけど、でもほんとに疲れてる時はママ呼びなしで普通に癒してくれるし、それが心地よすぎて那由他ちゃんのよしよしから逃れられない私なのだった。


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