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99/314

99『ラルケ』

 村々で鑑定しながら通り過ぎ、3日目の朝にはラルケに到着した。

 今のラルケでは町に入る者には普通の対応だが、出ようとする者には鑑定で感染していない事が確認されないと門を通る事が許されない、普段とは逆と言える対応だった。


 ジェラルディンたちはまず門を警備する兵士の詰所に案内された。

 そこで代官の秘書と顔合わせし、警備隊長が今回のあらましを説明する。


「あいわかった。

 誠に申し訳ないが代官様が直接話を聞きたがっておられる。

 このまま代官屋敷まで同行願えるだろうか」


 秘書は警備隊長にもていねいな口調を崩さない。


「私たちはこれから宿を探して腰を落ち着けますね」


 ジェラルディンが立ち上がろうとすると、秘書が慌ててそれを止めた。


「いえ、お嬢さん。

 代官様はあなたにもいらして欲しいそうです。

 今回はひとかたならぬお世話になりました。一言お礼を述べたいと仰っています。

 それから……言いにくいのですが、今あなたたちを泊める宿はないと思いますので、どうか代官屋敷にお泊り下さい」


 おそらく、誰も彼もが疑心暗鬼になっているのだろう。

 外から入町してきた旅行者や商人全員を拒んでいるわけではないだろうが、自分たちは警備隊と一緒に入町してきたのだ。

 いくら鑑定で白だとわかっていても宿屋などは神経質になるだろう。

 何しろジェラルディンたちは感染者と同じ場所にいたのだ。



「ルディン殿、この度は過分なる助力、有り難く思っています」


 乗り合い馬車の連中と別れて、屋敷の奥に案内されたジェラルディンとラドヤードは執務室の代官と対面していた。


「ずいぶんと私財を提供して下さったと聞いています。

 どうぞこちらをお納め下さい」


 差し出された巾着袋をちらりと鑑定で見たところ、中には金貨が30枚入っていた。

 この代官はジェラルディンから過度な借りを作りたくないようである。


「いささか多いと思いますけど、この後のこともございますから、受け取らせて頂きますわ」


 代官が好々爺の笑みを浮かべた。

 見たところ70近い老齢の代官だ。

 貴族ではなさそうだが経験からくる風格を感じさせる。


「ルディン殿とは敵対したくありませんから。

 この度は迅速な対応で被害は最小限であったと聞きました。

 ……感染者の親子がこの町出身だということを鑑みて、おそらく感染源はこの町なのでしょう。

 ルディン殿には感染源をつきとめる手段に、考えはお有りだろうか?」


「それに関しては地道に聞き込みするしかないと思います。

 まずは母子の家の周辺から始めるべきでしょう。

 ……状況から女の子の方が先に感染したのだと思いますが、あの年の子が一体どこから感染ってきたのか、まずはそこからですね」


「それほどだったのか……」


「ええ、中期の拡散期に入っていました。

 幸い、母親以外には感染していませんでしたから、でもここラルケにはそれなりの数、感染者がいると思います」


 代官は渋い顔をしている。


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