74『計画』
けんもほろろに追い出された警備隊長が数名の監視役を残して隣村に向かい、あたりが静かになった頃、食事を終えて様子を窺っていたジェラルディンが動き出した。
影の中に潜り、現れたのは囚われている盗賊の元だ。
「まあ、ずいぶん派手にやられちゃったのね」
厳しい訊問でやられたのだろう。
腫れた顔は形が変わっている。
しばし意識を飛ばしていた男が目を開け、項垂れていた顔を上げると、そこにはこうなった元凶の少女がいる。
「お!うう〜」
“ おまえのせいだろう ”と喚きたかったのだが猿轡に阻まれて言葉にならない。
縛りつけられて転がされている男は芋虫のように暴れた。
「もう少し大人しくして頂きたいわね。
あなた次第では解放してさしあげても良くってよ?」
美しい顔の口角が邪悪に上がる。
そしてジェラルディンの影から、男が最も見たくないもの【影の棘】が現れた。
「ひぃ」
「ジッとしていないと顔のお肉を削いでしまうわよ。
ほら、これでお話できるでしょう?」
影の棘が男の猿轡を裂き、これでやっと “ 事情聴取 ”が出来る。
ジェラルディンは単刀直入に聞いた。
「あなたはどうしてここに偵察に来たのかしら?
ここに警備隊がいるのを把握していたのね?」
むっつりと黙り込んだ男は答えようとしない。
「ちゃんと答えてくれたら、逃してあげてもいいのよ?
でも、もし嘘を言ったら……殺すわ」
影の棘が男の首の付け根に触れ、それがつぷりと皮を破った。
そのままゆっくりと7㎜沈んでいく。
「頼む! 止めてくれ!
何でも言う事を聞く! 嘘も言わない! だから、だから」
身動ぎせず、涙を流しながら囁くように言う男は生きた心地がしないだろう。
相手は貴族だ。
おそらく、何の感情もなく平民を殺すだろう。
「で? どうなのかしら」
「ここは元々囮なんだ!
俺たちは隣村を襲うことが本番なんだ」
「どういう事なのかしら。
詳しく話しなさい」
「これは……結構前から計画してきたヤマでわざわざ拠点も移してきたくらいなんだ。
さる大商人の隊商にとてつもないお宝が積まれてアンドロージェに向かうって情報が入ってきて、俺たちは3日前にこの村を襲ったんだ」
おや、警備隊長が言っていたのと1日違う。
「関所の警備兵を分散させるのが目的だった。
隣村はもう終わってるんじゃないか」
「ふうん、それってどうやって運んでいるの?」
「神級のアイテムボックスがある」
「その拠点、教えてくれたら逃してあげるわ」
黙っていたら清楚な少女が、邪悪な笑みを浮かべて囁いている。
盗賊の男は脳内が溶けていくような感覚を覚えて身震いをした。
そして思う。
“ いいんじゃないか ”と。
「今の拠点は森を抜けた向こう側にある。一緒に連れて行ってくれ!
案内する!」
「そうね。
……少し考えてみるわ」




