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69『スタンピートの終結』

 ジェラルディンはバートリと共に領地経営について話を詰め、これからの事について話し合った。

 そして異空間収納に色々な物資を補給し、美容面でも英気を養った後、出立の日を迎えた。


「ジェラルディン様。

 次回の、無事なお帰りをお待ちしております」


 バートリと共に邸中の使用人たちが頭を下げる。

 厨房担当の者たちはやり切った感いっぱいの笑顔を見せている。


「ありがとう。

 当初は父侯爵やあのものたちがどういう手を打ってくるか不明だったので出奔しましたが、陛下の温情でお家も今まで通りに運営していける事になりました。

 まだしばらくは表舞台に立つつもりはありませんので、皆には世話をかけます」


 ジェラルディンの胸には深い澱のようにアルバートの事が懸念として引っかかっていた。

 今回は不意をつかれた形で、興奮させたくなかったために見逃したが次回はそれなりの決着をつけなければならないだろう。


「では、行ってきます」


 ジェラルディンは皆の見送りの中、音もなく影に吸い込まれていった。



 次の瞬間、ゲルの傍らに立つラドヤードの前に姿を現したジェラルディンは、呆けた顔をしている彼に声をかけた。


「ただいま、ラド。

 なぁに? そんな信じられないものを見るような顔をして……」


「お、お帰りなさいませ。ご主人様」


 まるで捨て置かれた犬が、戻ってきた主人を見つけて固まってしまったような様子だ。本来、犬ならばこのあと主人に飛びつくところなのだが、ラドヤードは硬直したまま動けないでいる。


「さあ、私の留守中のことを教えてちょうだい。ダンジョンはどうなってます?」


「ああ、はい。

 ダンジョンは変わりなしです。

 それと各地の、スタンピードの残党も粗方討伐し終わったようです。

 迷宮都市では、数日後にも収束宣言を出す予定です」


「あら、そうなの。良かったわ。

 それなら明日は一度、前線基地になっている村に行ってみましょうか」



 ジェラルディンはダンジョン穴に被せていた影空間を取り去った。

 もうこの中から魔獣が溢れ出る事はない。


「後の仕事は冒険者ギルドのものだわ。

 冒険者たちを派遣して、探査する事で新しいダンジョンとして管理するか、塞いでしまうか。

 どちらにしても私には関わりのないことね」


 それよりも、とジェラルディンは続ける。


「明日、村に行った後、この地を離れるつもりよ。

 ラドもそのつもりでいて」




 おそらく街道を使った、まともな旅をする事はないだろうと思っていたが、ラドヤードの主人である少女は良い意味でも悪い意味でも彼の思考の斜め上をいく。


 ジェラルディンたちは今、森の深部を魔の森に向かって歩いていた。


「よかったのですか?

 イパネルマに寄らずに出立してしまって」


「そんなのキリがないわよ。

 家に関してはちゃんと片付けてきたから問題ないはずよ?」


 せっかく構築した人間関係はどうなのだろうかとラドヤードは顔色を伺う。


「本来なら街道を使って隣国に行き、通過して行けば楽なのだけど……

 ごめんなさいね、あの国は今きな臭いから避けて行きたいの」


 それで深部を縫うように進んでいる。


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