65『未知なる魔獣』
ダンジョン穴に近づくに従って、瘴気と呼ばれるものが濃くなってきた。
単体の魔獣でこれほどとは、侮れない。
「ラド、あなたはここで待機していて。
私が偵察してくるわ」
「しかし! 主人様!」
「ラド、冷静に考えてみて。
私は影に潜んで様子を窺う事が出来る。瘴気の影響も受けないわ。
でもあなたはそうでないでしょう?」
何が何でも主人を護る、と頭に血が上っているラドヤードに、ジェラルディンは優しく、そう説いた。
「この後のためにあなたには無事でいて欲しいの。わかるわよね?」
「はい……主人様」
ラドヤードの前でジェラルディンの姿が影の中に消えていく。
そして彼の、やきもきした気持ちはジェラルディンが戻ってくるまで続いたのだ。
ジェラルディンは影の中から “ その ”魔獣を見つめていた。
「今まで見たこともない形態の魔獣だわ。この大きさ、禍々しさは危険だわ。絶対にここで止めなくては」
足早に戻ったジェラルディンはラドヤードと作戦を話し合った。
「あの魔獣は半端な魔力では抑えられないわ。
なので、一度ダンジョンの蓋を解除して、全力で収容しようと思うの。
なのでラドにはダンジョン穴から這い出してくる魔獣をお願い」
ずっと影空間に吸収されていた結果、もうそれほど大量には湧かない事がわかっているジェラルディンはラドヤードに任せても大丈夫だと確信している。
風魔法で瘴気を吹き飛ばしたダンジョン穴に近づいたジェラルディンは、傍らのラドヤードに合図を送った。
と、同時に蓋をしていた影空間が消え、しばらくするとオーガの上位種エンペラーオーガが這い出してきた。
それを薙ぎ払うのはラドヤードのバスターソードだ。
何の警戒もなく上がって来ようとしたエンペラーオーガの首を一閃で斬り払ってしまう。
ラドヤードは主人が仕事を終えて戻ってくるのを待っていた。
ジェラルディンの方は、もうこれはいつもの簡単なお仕事だ。
距離を図り、位置を特定して影空間に収容してしまう。
すると生身の魔獣はあっという間に命を刈り取られてしまうのだ。
ジェラルディンは改めてダンジョン穴に影空間の蓋をして、ラドヤードとガッチリと握手した。
「ところで主人様、魔獣はどんな奴だったのです?」
「ん〜
よくわからないのよね。
見たこともない魔獣だったのよ」
見てみる? と言われて頷いたラドヤードの前に現れたのは、形容し難い姿をした魔獣。
「キメラ……!」
だった。
キメラの中でもこのキメラは特別だった。
「主人様、こいつは大変な事ですよ。
キメラと言うのはほとんどが人造です。これはドラゴンがベースになっているので確実でしょう。
これは然るべきところに届け出る案件です」
このダンジョンがここに発生したのはアルバートの仕業だとわかっている。
では、キメラはどうなのだろう。
ジェラルディンの見立てではアルバートにそれほどの能力があるとは思えないのだ。
「わかりました。
王宮に参り、陛下に奏上致しましょう」




