63『終息にむけて』
5日目。
ようやくダンジョン入り口までの目処がついてきた。
この入り口からの湧きが止められれば、後は現在溢れ出した魔獣を斃せばスタンピードは終息する。
「あの4本腕のキラーグリズリーには傷をつけないで!
それとバイパー種とコブラ種は貴重なの。絶対に私の方に回して下さい!」
クリスティアンとラドヤードに有無を言わさない勢いで、今ジェラルディンは眼前のすべての魔獣を影空間に収納している。
命あるものはこの空間で生存することができない。
こうしてジェラルディンには無限にストックが溜まって行くのだ。
「まあっ! バシリスクの上位種タイタニアンバシリスクだわ!
あれはすべて私のものよ!」
ジェラルディンは異常なテンションで魔獣を “ 収集 ”している。
クリスティアンなどは従姉妹の新しい側面にタジタジだ。
「主人様、もうそろそろ休憩をとられてはいかがでしょうか」
「ポーションを飲んでいるから大丈夫です。
このまま一気にいってしまいましょう。
クリスティアン様、よろしくて?」
「はい、姉様のご入用でない魔獣は僕が片付けます」
「では、改めて参りましょう」
後方では冒険者たちや各領主の私兵団、そして王都から王直属の第3兵団が駆けつけ、徐々に魔獣の数を減らしていた。
ジェラルディンが最初に宣言した、魔獣の素材取り放題は冒険者たちの士気を上げ、彼らの数は未だ増え続けていた。
ついに魔獣が湧き上がる “ 穴 ”を目の前にして、ジェラルディンは震えを抑える事が出来なかった。
今、その穴から湧いて来ようとしているのはドラゴン種の一種、デコルトワイバーンだ。
「飛び上がる前に頂きますわ!」
ダンジョン穴に被せるようにして影空間を開き蓋をする。こうしておけば、湧いた魔獣は自動的に影空間へと収納される事になる。
「これで新しく湧くことはなくなったわ」
後は今までに湧き出た魔獣を仕留めていくだけである。
7日目。
ジェラルディンたちは今、最前線の村の中の、接収した宿屋にいた。
スタンピードは急激に収束し、終息までの目処がついた為、ジェラルディンとクリスティアンは今後の事を各隊の代表と話し合っているところだった。
「ダンジョン自体はまだ消滅していませんわ。
私はもう少しこの場に残って様子を窺いたいと思います」
「では僕は一旦王都に戻り、陛下にご報告に参ります。
姉様、よろしいでしょうか?」
「もちろんですわ、クリスティアン様。
私はこの度の件を見届けてから……戻りますので、陛下には良しなにお伝え下さい」
「了解しました」
そうしてクリスティアンは王都へと戻って行った。
ジェラルディンはラドヤードと共にダンジョン開口部の近くにゲルを設置し、当分はここで過ごす事にした。
「ここは……森としてはもうダメね」
街道から近く、点在する村や町からも近くて人々の生活を支えてきた森はスタンピードによって見る影もなく荒れていた。
だが考えようによっては、ダンジョン穴さえ消滅すれば開拓する事が可能だろう。
そしてこの森の奥は深淵の森と呼ばれていて、その奥が魔の森、その向こうが隣国である。
「もうこのあたりにスタンピードの影響はないけど、一度奥まで見に行った方が良いと思うの。
ラド、付き合ってくれるかしら?」
「もちろんです。主人様」




