58『雪降ろし』
前回と違って二人きりだったので、王とジェラルディンは楽しく話をした。
そして最後に王の顔つきが変わる。
「ジェラルディン、そなたに話しておかねばならぬ事がある。
実は隣国アマタルタの動向がきな臭いのだ」
「それは……戦争ですか?」
「我が国を対象としているわけではないのだ。
アマタルタは今年長雨で、川が氾濫して収穫量が激減した。
その不足分を略奪しようと北隣の国サラバスに狙いを定めたようだ」
この国やアマタルタよりも北寄りにあるサラバスは冬季も気候が穏やかで、ほとんど雪も降らないため農作物がよく穫れる。
今年も豊作だったサラバスにアマタルタはその食指を伸ばそうとしているのだ。
「そなたは他国を漫遊するつもりなのだろう?
自分からトラブルには近づかぬ事だ」
これは暗にアマタルタに入国するなということ。
おそらく戦端が開かれるのは春になるだろうが、王はその時期にジェラルディンには違う国に居て欲しいようだ。
もちろん彼女が国内に留まるのがベストである。
「止めても行くのだな」
「はい、少しルートを考え直して、春には出立します」
「わかった。無理に止めるような事はすまい。
だがジェラルディン、もう一つ問題がある。それはアルバートのことだ」
「アルバート様?
そういえば騒動の顚末を聞いてませんでしたね」
「そう、あれは廃嫡して、王族から追放したのだがね、勝手に飛び出していって今、そなたを探しているらしい」
「は?」
「どうやらそなたとの縁を結び直せば、王太子に復帰出来ると思っているらしい。……馬鹿な奴だ」
何というか、面倒くさい事になりそうだ。
領都イパネルマに雪が降り始めた。
最初はちらほら舞っていた雪が一晩ののちには吹雪となり、豪雪地帯の名に恥じぬ積雪量となった。
朝にはもう1mほどの積雪となり、吹雪も合わさって外出するものは皆無と言えた。
「話には聞いていたけど、凄いわねぇ」
「本当ですね。
これでは冒険者も開店休業状態でしょう」
冒険者だけではない。
この町に住む者たちは皆、家に閉じこもり吹雪をやり過ごすのだ。
そのために各自暖房のための薪や食料を備蓄している。
それはイコール、その準備が出来ないものは冬を越せないという事。
決して貧しくないこのイパネルマでも、毎年何人かは凍えて、もしくは飢えて命を落とす事になる。
この町の建物の屋根が鋭角なのは、自動的に雪が滑り落ちるようになっているわけで、落雪には気をつけなければならない。
たまに雪が止み太陽が姿を見せた時などは特に危ない。
大きなスコップを持ったラドヤードが屋根に登り、被害が出る前に雪降ろしをしていた。
「このあたりは本当に積雪量が多いのね。王都ではこんなになったのを見た事がないわ」
「これからまだまだ降るそうですよ。
一晩で玄関のドアが埋まってしまうこともあるそうです」
「それは……大変ね。
では、雪かきに関してはラドに任せて良いかしら?」
「わかりました」
そして、雪のために家に閉じ込められるようになってからジェラルディンは一階の簡易キッチンに、ラドヤードのために鍋やポット、什器の類を充実させ、アイテムボックスに料理や食材を入れておく事にした。
こうすればわざわざ戻って来なくてもよい。
それからジェラルディンは3〜4日姿を見せないことも珍しく無くなった。
そしてある日。




