32『市場の串焼きとゴロツキ』
万全の防寒を誇るシルクラビットの毛皮で裏打ちされたローブをまとい、フードを目深に被ったジェラルディンは冒険者ギルドを出て市場の方に向かった。
「……冷えるわね。
朝よりも寒くなったみたい。
雪が降るのかしら」
空は曇天、グレーの雲が空いっぱいに広がっている。少しでも寒さから逃れようと、せかせかと歩く人々は天気の事など関心なく、今にも落ちてきそうな雪を思うのは、ジェラルディンだけかもしれない。
「今日は広場の近くまで市が立っているのね。
王都では吹雪いていて市どころではないでしょうけど、こちらはかなり南だから、まだ普通に近い生活ができるのね」
いくら天気が良くても売るものがなければ市など立たない。
この町は辺境で近くに魔の森があり、冒険者たちが多く集まるため人口が多い。その胃袋を賄うため、食料の備蓄はかなり多い。
そして、まだ今は雪が積もっていないため魔の森での狩りが可能で新鮮な肉の流通がある。
食肉としては鳥系魔獣、オーク、牛系魔獣など、森には大量に繁殖していた。
ちなみに今の魔獣たちは冬に備えてたくさんの栄養を溜め込み、脂が乗ってとても美味しいのだ。
屋台の集まる地区をそぞろ歩いていたジェラルディンは、いい匂いにつられて一軒の屋台に近づいていった。
「おじさん、これは何の肉?」
小さめの玉子くらいの大きさの肉が5つ、刺さっている串焼きだ。
「お嬢ちゃん、初めてかい?
これはランバードっていう飛べない鳥の肉なんだ。
うちは肉を柔らかくするのにタレに漬け込んで焼いている。他の塩焼きとは違うから味見してくんな」
味見用にカットしたものを、短い串に刺して渡してくれる。
どうやら新製品のようで試食が用意されていたようだ。
「ありがとうございます。
……まあ、美味しい」
どうやら果物をすりおろしたものにスパイスなどを入れて、肉を漬け込んでいるようだ。
「とても美味しいわ。
これを10本、頂けるかしら」
魔樹の皮を剥いで乾かしたものに11本並べてくるりと捻り、ジェラルディンに渡した。
「1本銅貨3枚、10本で銅貨30枚、1本おまけしておいたよ!」
「ありがとうございます。
また買いにきますね」
「まだしばらくは寒気もマシだろう。
ここらの屋台は寒さが厳しくなるまでやってるから贔屓にしてくんな」
「は〜い」
その場で串焼きをアイテムバッグに収めたジェラルディンは、店主に手を振ってその場を離れた。
そして次の屋台を目指してそぞろ歩く。
そんな、一見鴨にしか見えないジェラルディンを取り囲むようにして間合いを詰めていく連中がいた。
市場の、人の目のあるところでアイテムバッグを使ったジェラルディンは格好の鴨に見えたのかもしれない。
そんな事に気づいているのかそうでないのか、ジェラルディンは目に付く屋台すべてを覗いている。
串焼きのあと、すでに揚げパンやスープを購入して気分を良くしていたジェラルディンは、突然目の前に立ちはだかった2人の男を見上げた。
「何かご用ですか?」
深くかぶったフードの中には絶世の美少女の顔が隠れていた。
思わずたじろいだ男が下卑た笑い声を上げた。
「お嬢ちゃん、ちょっとこっちに来てくれるかな。その前にそのバッグをよこしな」
ゴロツキどもはジェラルディンの見かけで甘く見た。
そして腕を掴もうと伸ばした腕に激しい痛みを感じたのだ。




